アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
96
-
「秋月ー!」
またもや自分の名前が呼ばれ、振り返る。
「岡田、なに?」
「これ、この前のババ抜きのやつ」
ペットボトルを差し出してきた。
ありがとう、と言って受け取ったが、そこに書かれた文字に口角が引きつる。
(バナナオレ…きな粉入り……!!)
「お前やっぱり短距離来いよ!勿体ねぇって!」
そう言った岡田はこっちの心中など気にもせず、眉間にシワを寄せ、真剣な顔つきをしている。
「いや俺は」
「知ってるけどさぁ」
岡田は空を見上げ、手を伸ばした。
「キツイ練習に文句一つ言わないで、ただ空を目指すその姿。かっこいいぜ!でもやっぱり勿体ないなーって思っちゃうんだよなぁ」
岡田とは中学からの付き合いだ。
俺が急に種目変更をしたのももちろん知っているし、この部活の中で一番長く一緒にいる。
俺が高跳びを続けているのを、一番長く見守ってくれてるのも岡田だ。
「地面もそんなに悪くないぞ?」
そう言って笑った。
空を仰ぐ。
翼のない自分が、己の肉体のみを使ってどんなに高く跳んだところで、ほんの数メートル。
跳ぶ事は出来ても、飛ぶ事は出来ない。
今見上げてる空と、重力から解放された瞬間に目に映る空が、同じ空なのも知っている。
それでも
「知ってるけど、ごめん。まだ見てみたい空があるから」
「秋月さんかっけーなぁ…」
ポツリと柴田が呟いた。
「お、柴田よ!秋月に憧れているようだな!負けるな!」
「はい!来年はリレー、俺も活躍出来るように頑張ります!」
「そこは高跳びを頑張るところだよ」
と言いたくなったが、満面の笑みに言い出せなかった。
「緒方さーん」
「ん?なに?」
今度は様々な料理を乗せた紙皿を手に、清人がやって来た。
「これ!なんか渡して下さいって!」
「え?なに?」
「なになに?」
周りにいた好奇心の塊である三年生が集まる。
「俺、手が塞がってるんでポケットに入れてもらったんです」
そう言ってくるりと後ろを向いた清人のズボンの後ろポケットに、なにか紙の様なものが入っていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
97 / 1191