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「まぁ別にいいんじゃねーの?返事するもしないも、それが自由なのが手紙の特権だろ」
「あの俺、返してきましょうか…?」
訳も分からずそんなやり取りを見ていた清人は、所存なさげにそう言った。
「…いや、やっぱもらうわ」
そう言って緒方さんはポケットから手紙を引っ張り出した。
今度は強く、胸の奥が痛む。
(なんなんださっきから…)
胸元のシャツを握り締めてみるも、痛みは治まらない。
「ありがとな、清人」
緒方さんに笑顔でお礼を言われると、清人は安心した顔で笑い返し、小走りで去っていった。
その笑顔にまた、痛みが強くなる。
「なに急に?」
井上さんがサンドイッチを頬張りかながら言う。
「とりあえず読む。果たし状かもしれないし」
「絶対それはない」
田沼さんと渡辺さんがぶんぶんと首を横に振った。
緒方さんは全くこちらを見ようとしない。
少し息苦しい。
さっきから胸の奥にある理由の分からないそれが、鬱陶しくて煩わしくて、イライラする。
この場から立ち去りたいのに足が動かず、緒方さんから目を離せない。
カサカサと手紙を広げ始める。
「ここで読むのかよ?!」
田沼さんのツッコミを無視して、手紙に目を通す。
短い文章だったのだろうか。
無表情に紙の上に視線を走らせ、またすぐに畳み始めた。
「なに?なんなの?」
井上さんが近づいていく。
「俺、ちょっと行ってくるわ」
「はぁっ?!もうなんなのお前!」
緒方さんは一度もこちらを見ないまま歩き出した。
「訳わかんねぇな」
「まぁ緒方だし」
残された三年生達は呆然としていた。
緒方さんの姿が見えなくなり、重い足を引きずるようにその場を離れる。
「秋月?どうした?」
背後から山梨さんに呼び止められる。
わざわざ追いかけて来たのだろうか。
驚きとほんの少しの煩わしさを感じながら、振り返る。
「なにがですか」
「………お前…」
一瞬目を見開いて、そう言って黙り込んだ。
(……?…なにに驚いてる?)
「…山梨さん?」
そのまましばらく黙っていた山梨さんが、ふぅ…、と小さく息を吐いた。
「…タイミングが来たのかもな」
「…はい?」
(タイミング?)
呟くような小さな声はかろうじて聞き取れはしたものの、ほんの少しも意味が分からない。
「まぁいいや。ペナルティータイム、楽しみだな」
そう言って笑って歩いて行ってしまった。
先ほどまであんなにペナルティーを嫌がっていたのに、急に楽しみだと言う。
それが山梨さんであるからに、なにか思いついたのか、考えついたのか。
ただそんな事よりも胸の奥で動き続けるなにかが鬱陶しくて、なぜか、一人になりたくて仕方がなかった。
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