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途中、トレイ帰りだと言う田中に自分もトイレに行くと伝え、一人打ち上げ会場から抜け出した。
辺りを見回すも、グラウンドには姿を隠せるような場所は見当たらない。
他の部も休憩中なのだろうか。
ただ広がるグラウンドには、誰一人といない。
緒方さんの姿もない。
L字を校門方面へ向かって歩く。
このまま帰ってしまいたい衝動に駆られたが、校門脇の桜の木の下で踏みとどまり、座り込む。
先ほどまで胸の痛みを感じていたが、今は頭の中に、なにかモヤモヤとした雲が掛かっているような気がする。
空を見上げる。
青々と茂った葉の間から、夏の空が見え隠れして
、キラキラと輝いて見える。
さわさわと揺れる葉音に、気の早いヒグラシの鳴き声。
そして、砂埃の匂い。
さっきまでこのグラウンドを軽い身体で走っていたはずなのに、指先さえ動かすのが億劫だ。
胸の奥に感じた痛みが、血液に溶け込んで全身に回ってしまったのだろうか。
なにが自分をこうさせるのだろうか。
握り締めたままのペットボトルを見つめる。
昨夜の事が蘇り、浮かぶのは緒方さんの顔。
こんなもので思い浮かぶなんて、どうかしている。
そらされた目。
一度もこちらを向かず歩き出した背中。
また胸の奥で、なにかが這い回る。
水滴の滴るペットボトルを開け、中身を流し込む。
むせ返るような甘さと、口の中にザラザラと残る異物感。
飲み込もうとしても吐き出そうとしても、一向になくならない細かな粒が、胸の奥を這い回るなにかに似ているように思えた。
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