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ちょっとだけ、昔の話(大和中学卒業編)
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(皆様、いつもありがとうございます。しばらくお休みするつもりでしたが、すみません(汗)リムxr様より、大和の荒れていた時期をとリクエストいただきました。普段の御礼のお応えが出来るならと、手を動かした次第です。リムxr様、本当にありがとうございます(;-;)大和の中学卒業を書いてみました。大丈夫でしょうか?)
約2年前。
「ウチのアホガキは、帰っとんか」
関西、某所。
住宅街に一際目立つ、超豪邸。
大きな玄関の前には、数台の黒塗り高級車。
その一台から降りてきた嵩原は、着ていたコートを出迎えた高橋に渡しながら、開口一番悪態をつく。
アホガキ。
「アホ…………………大和さんですか?」
「他に何処におんねん、ガキが」
「あ、いえ…………………」
聞き返した高橋の言葉に答える、嵩原の眉間のシワ。
これ、かなりご機嫌ナナメやな。
さすがの高橋も口ごもる。
どうしたものか?
現在、大和は不在。
急がないと、拳骨どころじゃ収まらない予感。
「すみません、大和さんはご友人らと出掛けられとります。至急、連絡を取りまして……」
「明日、卒業式らしいわ」
「は………………………」
卒業式。
言われてみれば、早3月。
大和は、(まともに学校へ行ってはいないが)当時中学3年生。
ああ……………………高橋は僅かに視線を動かし、小さく頷く。
大和さん、もう卒業か…………………。
「さっき、担任から俺に電話があった。せめて卒業式位は出て来れへんかてな………………何も知らんかったで。あのボケ、案内状も報告も何一つ言うてけぇへんかったから、俺は初耳やったがな」
全国一の組を抱える嵩原の日常は、多忙を極める。
世の行事なんて気にする暇もない毎日で、卒業式の日程なんて大和が言わなきゃ知るよしもない。
ヤクザの大親分へ、勇気を振り絞って連絡をくれた担任に詫びを入れ、嵩原は急いで出先から帰って来た。
「………………………組員動かせ」
「え………………………」
「俺も連絡したけど、大和の奴出んかった……………何としても見付け出し、首根っこひっ捕まえてでも連れ戻して来いっ!」
中学時代の大和。
15になり、背中へ刺青まで入れた大和は、この頃が一番手が焼けた。
組の下っぱとして働く反面、夜な夜な地元の不良仲間と遊び回るのが、日課となっていた。
首根っこひっ捕まえてでも…………………。
お父ちゃん、カンカンである。
「大和ぉーっ、お前明日卒業式やろ?ええんかぁ、帰らんでぇ」
「ホンマや。親父さんに叱られんで?そう言うん、大事にする親父さんやないか」
関西でも有数の繁華街。
派手なイルミネーションと大小様々な看板が街を賑やかにする中に、悪ガキ見っけ。
ただ今、夜11時。
酔った大人達も避けて通る不良グループの中心で、歩き煙草にパツ金頭の大和が幅を利かす。
「ええねん、ええねん。どうせ、親父帰って来てへんし………………大体、卒業式なんか教えてもないよって、知りもせんわ」
仲間との関係は、良好。
皆に好かれていた大和は、自分を気遣う仲間の心配を他所に、遊ぶ気満々。
組の下っぱ家業は、当然楽ではない。
大人でも大変な事を、まだ15歳の大和がすれば、かなりストレスも溜まる。
こうして仲間達と発散する事が、大和の日頃の楽しみだった。
「知らんぞーっ、雷落ちてもぉ」
陽気な大和に、笑う仲間達。
皆、嵩原の事もよく知っている。
何かあった時、自分の親よりも相談をしに行くほど、嵩原は子供達に慕われていた。
不良グループには、組員と同じで色々な子が顔を揃える。
親からの虐待、育児放棄、離婚……………そんな子達と、嵩原は真摯に向き合った。
だからこそ、手はつけられない悪ガキ達も、嵩原と大和の関係を想いやる。
「もう慣れたわ………………親父の雷なん………」
「オイオイ、豊中の嵩原やね?」
「…………………………あ?」
豊中、嵩原。
ここいら一帯で暴れていた、大和の通称。
同世代では既に敵ナシ状態だった大和は、それが気に食わないヤンキー達の標的となる。
街を歩けば、しょっ中絡まれた。
今夜もまた、ほらほら出た、族数名。
コンビニ前でバイクに股がっていた連中が、不良グループとつるむ大和に目を止める。
「親父の七光りで、夜遊びかぁ?ええご身分やの」
「なんやと………………?」
親父の七光り。
大和の父親が、竜童会組長嵩原竜也だと言う事は、あまりに有名。
若気の至りと言うべきか、それで周りは尻込みしていると思うヤンキー達は、逆に強く出た。
「大和、止めとけ。卒業式行けへんような…………」
ガシャァァァン……………………ッ!!!
仲間が止める前に、大和の蹴りバイクへ入る。
「なぁぁぁぁっ!!?何しとんじゃ、テメェッ!」
「悪り、ゴミか思うたわ」
改造バイク、見事にアスファルトで改造部分がぶっ壊れた。
「ゴ………………ゴミ!!」
「ぶっ……………………」
顔を引きつらせる族を見て、大和の仲間達が吹き出した。
「ははははっ!大和っ、最高♪」
「七光りかどうか、試してみぃや」
大和といれば、自ずと喧嘩をする機会も増える。
仲間達も、族ごときで気負う連中でもなかった。
大和をキレさせた面々を、腹を抱えて笑い飛ばす。
そうして、仲間が笑っている最中に、大和の一発目が一番強そうな少年の顔面にメリ込んだ。
バッキィィィ………………ンッ!!
「ぐは………………っ」
「智っ!!きっ、貴様ぁ………………」
周囲からは、どよめきと悲鳴が聞こえる。
大和の拳を思い切り受けた少年は、数メートル先のコンビニの壁まで飛ばされた。
鼻からは血が流れ出し、意識は朦朧。
それを目の当たりにして、自分へ襲いかかろうと息巻く族の仲間を、大和は待っていましたかの様に腰を捻り、足を踏み入れる。
「中坊相手に喧嘩売るなんざ……………安いんじゃっ!クソがぁぁぁっ!!」
ガコォォォォ………………ッ!!!
大和の飛び蹴り炸裂である。
「ぅがぁぁ…………………っ」
真正面から、その蹴りをまともに胸へと受けた族の仲間は、後ろにいた別の仲間を巻き込み、大事なバイクの上に落ちていった。
肋骨、折れたかもな。
ガッシャーン…………ガラガラガラッ!!
バイクも、オシャカ。
「…………………………無惨」
「チーン……………………」
大和の仲間、合掌。
「大和さん……………っ!!何やっとんですか!!」
こう言う悪ガキ達より、案外本職の方がまともだったりする。
突如、街中に響く叫び声。
ええ、本当に何やっとんでしょう。
「あれ………………………錦戸?」
急に呼ばれた大和が振り返ると、野次馬に混じり、息を切らした錦戸が立っていた………………?
組員、動かされましたから、マジで。
「ハァ……………さっ…………捜しましたよ、大和さん。喧嘩なんぞしとる場合やありませんっ!お……………親父………………ハァ……お怒りです」
「はい……………………!?」
「明日の卒業式………………何で言わへんかったんですか…………………ハァァ……………バレてます」
え。
バレてます。
「…………………大和、終わったな」
笑いを堪える仲間の声と、血の気が引く悪寒に身の毛も弥立つ。
慣れてるなんて、嘘。
この世で一番恐いもの、そりゃ、お父ちゃんの雷。
「お前は何考えとんじゃァ!!ボケぇっ!!」
真夜中の怒号。
煌々と明かりが灯された屋敷に、稲妻轟く。
「学校もころくに行かへん奴が、どこまで先生方に迷惑かける気なぁっ!シメるとこはシメんで、どないすんねん!中途半端な真似すな!アホんだらァっ!!」
大和を連れ帰った錦戸も、それを迎え入れた高橋も、もう声をかける事も儘ならない。
中央のソファに座り、煙草を手に怒れる嵩原の恐ろしさ。
広いリビングの壁際に立つ、護衛の組員達なんて、そこを直視すら出来ない程震え上がってる。
これが、我が子へのお説教なのだから、慣れる訳がなかろう。
「……………………………すみません」
「ぁあ?何や、そのちっさい声は。それが人に頭下げる態度か!………………頭下げる気ィあんなら、明日先生方に下げんかい。人に世話になった礼も出来ひん野郎は、カス以下じゃ」
族を殴った拳が、今頃ズキズキ…………。
さっきの勢いは何処へやら。
大和は、赤くなった拳を擦り、ただただ頭を下げるのみ。
悪ガキ、撃沈。
「そないなんで、ヤクザなりたいてほざくな……………明日、身なりきちんとして学校行けや。俺も、式には出席するさかい」
「親父……………………」
煙草を灰皿へ押し潰し、嵩原はハァッと溜め息を漏らす。
明日の予定は全てキャンセル。
これだけ怒ってますが、大和の卒業を感慨深く想ってる。
波乱に満ちた人生。
ようやく、大和もここまで来たのかと。
「大和さん、制服にはアイロンかけて、部屋に吊ってます」
「……………………高橋」
嵩原のお説教が落ち着いたのを見計らい、高橋が大和へ近寄る。
ヤクザでもビビる嵩原の怒号を、真っ向から受けた大和を優しくフォロー。
そろそろ寝させようと、リビングの外へと手で促した。
「親父、ええですよね?」
「ああ…………後は頼むわ、高橋。早よ寝えよ、大和」
「は、はい………………おやすみなさい」
おやすみなさい。
それを口にする大和は、まだまだ幼さが残る。
いや、まだまだ子供だと思いたいのかもしれない。
嵩原は、自分の顔色を伺う大和を見上げ、つり上がっていた目元を緩める。
「………………………おやすみ」
父親の顔だ。
最後に少しだけ微笑んだ父親に、大和の表情もホッと息をする。
恐いけど、大好きなのだ、お父ちゃん。
昔から、そこだけは変わらない。
この翌日、大和は無事卒業式を迎える。
多くの卒業生の中で、目立ちに目立ったパツ金頭。
式の後には、着ていた学ランまで剥ぎ取られて、男女問わず写真攻め。
嵩原は、ヤクザの息子を引き受けてくれた学校側へ深々と頭を下げ、初めて大和の中学生活を聞かされる。
『毎日は来てくれへんかったですけど、嵩原くんは皆の人気者でした。弱い者や困った者を助け、誰にでも気さくに話しかける。ホンマに優しいお子さんで………………お父様の育て方が、素晴らしかったんやないですか?あないな真っ直ぐなお子さんは、久々に出会った気ィします』
鼻が高かった。
喧嘩と夜遊びばかりで、高橋達に世話を焼かすだけかと思っていた。
「大和ぉ、今夜は二人で飯行くか?」
「えっ!?マジで♪行く行くっ、肉食いてー♪」
「おっしゃ!なら、最高級の肉食わしたるわ」
嬉しそうな大和の顔が、嵩原を幸せにする。
親は、時に子に教えられる。
今も昔も、嵩原の一番の宝物は、大和だけ。
ちなみに…………………。
卒業式後、大和に負けないくらいモテたのが、何故か嵩原だった。
女性教諭から父兄まで、やたらめったら写真をせがまれた。
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