アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
男娼とヤクザ/シーズン1(第3話)
-
流れるように逸れていく、眼差し。
凛とした中に見える鋭い瞳と、非の打ち所のない顔立ち。
まるで、そこだけ時が止まったように、息をするのも忘れる。
「嵩原………………」
大和がそう呟いても、厳つい男達に囲まれた嵩原に届く筈もなく、つかの間の出会いは一瞬で終わりを遂げた。
あれが、ヤクザ。
美しく気高く、恐ろしい。
感情を覗かせない瞳が、ゾクッとその恐さを教える。
近付いたら、危険。
直感的に脳がそれを理解しているのに、どうしてか目が離せない。
大和は、今にも駆け出しそうになる衝動を必死に抑え、消え行く背中を見送る。
嵩原………………。
せめて、もう一度だけ顔が見たかった。
もう一度だけ………………。
「何考えとんや…………俺………」
バカバカしい。
バカバカしいけど、嵩原の消えた街並みが、やけに侘しく感じる。
肌をかすめる、冷たい風。
一気に熱くなった体温は、瞬く間に冷めてった。
「さみ…………………」
ジャケットを掛けられた時が、遠い日のよう。
「……………大和、あのヤクザがどうかしたのか?」
いつになく動揺した、大和の様子。
嵩原って、誰。
後ろからそれを見ていた山代は、そんな大和に少し不機嫌になりながら、側へと歩み寄った。
「山代さ……………ああ、ごめん。前に一度会うた事があって……………」
「あって……………何?」
「え………………」
山代さん……………?
グッと自分の腕を掴み、迫る山代に大和は顔を上げた。
痛い位の力。
自分は、何か気に障る事をしたのだろうか。
「あ、いや………悪い。何でもない…………そろそろ帰るよ…………」
「う………うん…………今夜も、ありがとう。出張、気を付けて」
「だな……………こちらこそ、ありがとう。楽しかった…………帰ったら、また連絡する」
気のせいか……………。
掴んだ手を離し、普段と変わらない笑顔へとなった山代に、大和もホッと胸を撫で下ろす。
また、連絡が来る。
また。
良かった。
山代の事は、嫌いじゃない。
会えば、酔いしれる様な優しいセックスと、多額の金が手に入る。
客内でも上位に入る、VIP。
こんな上客、手離すのは惜しい。
「大和…………………」
「ん………………?」
「…………………ううん、いいわ。じゃあな」
そこで、山代が何を言おうとしたかはわからない。
でも、それを大和が聞く事はなかった。
タブー、だから。
客の深意へ入り過ぎては、この仕事は出来ない。
自分は、娼夫。
あくまで、男娼と客でしかないのだ。
「バイバイ…………!」
幸せなんて、求めていない。
強く、強く、一人で生き抜く事だけ。
バイバイ。
無邪気に笑う大和が、寒い夜空に瞬く。
客を引く男娼。
夜の繁華街で、最早見慣れた光景となっていた。
(皆様、このお話を読んで下さいまして、ありがとうございます。今回、私用で忙しく短いものになってしまい申し訳ありません。次は、また新たな登場人物も交え、少し進展させたいと思います。本当にありがとうございます)
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
141 / 241