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男娼とヤクザ/シーズン1(第7話)
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嵩原の手当ては、とても慣れたものだった。
『昔は、よく喧嘩した』
それだけ言うと、黙り込んだまま手だけを動かす。
ソファに座った大和の目の前で、テーブルに腰を下ろした嵩原は、手際よく治療に入った。
たまに消毒液が傷に滲みたが、下を向く嵩原の睫毛が長くて、それを眺めていたら何故か我慢出来た。
シャツを捲った腕に浮かぶ、筋肉の筋。
程好くゴツゴツした手の甲に、形の綺麗な爪。
何もかもが、見ていて飽きなかった。
まだ、見ていたい。
何処かで、そんな事を考えてた。
ガチャ…………………
「ここが、俺の寝室や………………右手にシャワー室もある。今日は、もう遅い………………好きに使え」
「え………………」
治療を終えた大和は、嵩原に誘われるまま2階の部屋へと上がる。
寝室……………。
広い。
真ん中にダブルサイズ位のベッドが置かれ、壁際には、シンプルだけどオシャレなチェストや飾り棚。
家具全体が黒を基調とされ、白い壁とのコントラストが、まるでどこかの雑誌のよう。
嵩原って、お洒落なのかな。
知らない部分を知れたようで、なんだか心がキュウッと締め付けられた。
「ああ………………あと、着替えとかも必要やな。その服、えらい埃まみれやし」
「き……………着替え……?」
確かに、服は暴行の痕跡が激しい。
コレで、視界に入るふかふかベッドに寝るのは、さすがの大和も気が引けた。
「シャワー室の隣、クローゼットやから好きなん着たらええわ。一応、下着も新しいの入ってた筈や。服も全部、返す必要もないから」
「しっ………………」
下着………………!!
返す必要もない云々より、大和の意識は既に嵩原の下着。
他人の下着なんて、触る事は多々あっても、穿くなんて経験ない。
嵩原の、下着………………。
にわかに顔を赤く染める大和とは裏腹に、嵩原は至って普通。
性格なのか何なのか、さぞ当たり前のように話す素振りに、大和の方が動揺していた。
「あ?何やねん、照れとんか……………お前」
「べっ……別に、俺は何も……………っ!」
明らかに、照れている。
しかも、眉をひそめ顔を覗き込む嵩原が、ますます体温を上げさせた。
近い近い!見るなっ、俺の顔……………!
目を逸らす大和は、必死に頭の中で訴えた。
「男同士やろ……気にすな、そないな事。ほな、俺は他の部屋で寝るさかい、朝になったら送ったるわ」
「いや、でも……………お前は、何処で寝るんや………」
「何処でて……………寝る場所なら、何処でもある」
そうだ。
こんな豪邸なら、何処でもある。
毎日がやっとの自分とは、正反対の生活。
なのに、嵩原を心配する自分。
何言ってんだ……………そう思いながらも、意識は完全に嵩原へ集中してる。
どうしたんだ。
どうしたんだよ。
妙な焦りに身を包まれながら、大和はどんどん湧き起こって来る不思議な感情に、戸惑いを覚えた。
「まさか、一緒に………言うわけにもいかんしな」
「へ…………………」
一緒…………………。
そうして、自分を意識しない人間の一言が、いたいけな少年に止めを刺す。
ガクンッと肩が揺れたかと思うと、大和の身体は一気に崩れ落ちていった。
「おいっ…………大丈夫か!?」
咄嗟に大和の腕を持ち、自分の方へ抱き上げる嵩原の素早さ。
「お、俺…………………」
おかしい………………。
ふんわり感じる嵩原の匂い。
身体が熱くて、熱くて、変になりそうだ。
「もう、今夜は早よう休め……………ええな?」
「う………………ん」
フラつく大和をベッドへ座らせ、嵩原は優しく肩を擦った。
でも、この夜大和が眠れる事はなかった。
嵩原に触れられた感触がやたらと残り、いつまでも身体が火照ってた。
それから、朝はあっという間に訪れる。
嵩原に朝食をどうするか聞かれたが、朝はいつも食べないと言って断わった。
その後は、手早く身支度を整え、大和は嵩原の車で高橋のビルの近くまで送ってもらった。
ちなみに、車は外車。
運転する姿がまた絵になって、相変わらず嫌みな奴に見えた。
「………………この辺りでええんか?」
路肩に車を停めた嵩原は、助手席の大和へ声をかける。
「……………………うん、ここでええ」
紙袋に入れた衣類を抱え、大和はコクリと頷いた。
何だかよくわからないが、嵩原には随分世話になってしまった。
これは、礼を言うべきだ。
礼を言え。
頭ではわかっているが、なかなか素直に言葉が出ない。
降りたら、終わるんや………………。
終わる?
終わるって、何が。
「おい、昨日寝られんかったんやろ?さっと帰って、ゆっくり寝えよ」
「嵩原………………」
その上、嵩原はどこまでも大人。
寝不足、完全にバレてる。
ガチャ……………………
「え……………あ、ん…………ほな……」
結局、大和は礼すらまともに口に出来ないまま、意味不明なモヤモヤ気分で車のドアを開けた。
「大和……………っ!!」
え。
アスファルトへ足を着いた瞬間、大和は突然名前を呼ばれた。
この声………………。
驚いて顔を向けると、視線の先に高橋が立ってた。
「高橋さ………………」
「何で……………何で、お前が大和と……っ!」
「え………………」
お前………………?
「お前……………て………」
ハッとした大和は、慌てて車の方へ振り返った。
嵩原の事だ。
高橋は自分を見ているようで、後ろの嵩原を睨んでるのだ。
「…………………何」
見れば、嵩原も少し目付きが鋭くなってる。
どう言う事な……………。
「なんや………………お前ら、知り合いか」
一体、何が起きた……………?
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