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男娼とヤクザ/シーズン1(第9話)
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親の仇。
高橋の目に映るのは、怒りと憎しみ。
ガチャ…………………
バーの閉まったビルは、殊の外静かだ。
大和は高橋に誘われ、事務所の中へと足を踏み入れた。
テーブルの上には、飲みかけの珈琲カップ。
もしかして、ずっと待っててくれた?
どんな客に捕まっても、家には必ず帰っていた、大和。
いつもと違う行動に、高橋がどれだけ心配してくれていたか………………。
朝になって、高橋が外へ探しに出て見付けたのが、大和と嵩原だった。
「…………………俺の親父も、ヤクザやった」
「え………………」
着ていたコートを椅子にかけ、静かに語りだした高橋に、大和は耳を疑う。
こんな街に住んでいたら、誰でもが何かしらの過去を背負って生きている。
自分だってそうだ。
大和もまた、周りには自分の事をあまり話してはいない。
言ったところで、何になる。
何の解決にもならないじゃないか。
「小さいながらに組を抱えて、裏社会を生きとった…………まぁ、俺はそれが嫌で嫌で、仕方がなかったんやけどな……………だって、そうやろ?親がヤクザ言うだけで、ガキの頃から白い目で見られて、ろくな付き合いも出来ひん。ホンマ、死んでしまえて思うてたわ」
「高橋さん………………」
驚く大和に笑みを浮かべ、珈琲を入れ直す高橋が、違う人に見えた。
どうりで。
どうりで、嵩原を前にしても、全く怯まなかった筈だ。
子供の時からヤクザを見ていたら、そりゃ慣れる。
引かなかった高橋に、ちょっと恐い一面を知る。
「せやから、大学入って直ぐに、語学留学や言うて海外に行った。少しでも離れたかったんや、親父や組と……………」
コポコポ音を立て、ドリップされていく珈琲。
それをぼんやり眺めながら、大和は高橋の『本当』を知る。
何故、自分に話してくれるんだろう。
高橋は、一体……………。
「でも、それから間もなくして、親父が殺されたて連絡が入った………………シマ争いの抗争に巻き込まれたて」
「な…………………」
「不思議やな………………死ぬほど嫌いやった親父も、殺されたて聞いたら正気でおれへんかった。急いで帰国して、親父の亡骸に会いに行った」
亡骸。
僅かに伏せられた、高橋の視線。
カップへ注ぐ珈琲を見つめ、高橋はその姿を思い出しているようにも思えた。
「ウチの組は小さかったからな…………どうにもならんかったみたいや」
「まさか、その相手が………………」
「嵩原が、幹部を務める組やった」
嵩原…………………!
「あいつは、根っからのヤクザや………組織の事に関しては、非情に任務を遂行する。小そうても抵抗する親父達が、邪魔でしかなかったんやろ……抗争に巻き込んで、親父が殺られるよう仕組んで来たんや」
「そんな……………」
「一気に組は潰れ、何もかもぶん取られた……ただ、俺名義にしてくれてたこのビルと貯金、個人の遺産は残ったさかい、生活には困らんかったけどな」
嵩原が、高橋の親を……………。
本当だった。
信じられない。
無愛想ながらに、自分の手当てをしてくれた嵩原は、決して非情ではなかった。
大和は返す言葉もなく、呆然と立ち竦んだ。
何だろう。
何処かで、信じたくない自分がいる。
「なぁ、大和……………それもあって、俺はお前があいつに近付くんは危険やと思うてる。お前だけは、この街でも楽しゅうやってもらいたいんや」
「………………高橋さん」
「小学生の時に助けたお前とこうして会えたんも、ホンマに運命やと思うから……………」
「は………………」
今、何て……………。
大和へ珈琲カップを手渡す高橋の、衝撃的話。
小学生の時に助けた。
助けたって………………。
「あの頃の俺は、親父を失うてからと言うもの、まともに何も手につかんかった時でな、よう街を彷徨いてたんや。偶々絡まれとるお前を見て、何や自然と身体が動いたのを覚えてる………………まさか、その子供にまた会えるやなんて、考えてもみいひんかったけど」
「た……………高……」
「子供のくせに冷めた目付き……………変わってないんやもんな。一目でわかったわ……………」
思わず、カップを落とすかと思った。
高橋が、昔自分を助けてくれた人だった…………!?
朧気で、今や記憶も曖昧。
気付かなかったのは、自分だけか。
嘘やろ……………。
出会って、2年。
高橋が、どうしてこんなに優しいのか、不思議には思ってきた。
「大和………………嵩原には関わるな。俺が、これからもお前を支えたる…………大切にしたるから」
「高……………橋さ……」
伸びてくる腕に、身体が動かなかった。
ふんわりと香る、いつもの匂い。
高橋さん。
高橋さん……………!
「お前を、好きになってしもうた…………」
俺の…………初恋の人……………。
シーズン1/完。
(シーズン2へ続く)
(皆様、いつもありがとうございます。パラレル「男娼とヤクザ」お付き合い下さり、本当に感謝致します。少し前にコメント欄にも書きましたが、一旦ここで区切らせて頂きたいと思います。リクエスト幾つか頂いてるのもあり、そちらへ入りたいかと。楽しんで下さっている皆様、申し訳ありません。少しお時間下さいませ)
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