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大切な約束(後編)
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たっちゃんと大和、お願いね。
何でかな。
俺が約束する人間は、皆先に逝っちまう。
「なぁ、京之介ー。腹減ったぁぁ………っ」
爽やかな天気に響く、子の愛声。
どんな疲れも吹っ飛ぶとは、この事か。
「おい……………会って開口一番が、腹か」
呆れて返す言葉とは裏腹に、踞る息子を前に厳ついオヤジもつい目を細める。
顔には出さないが、秘かに楽しみにしていた、この日。
安道はコレを味わう為に、山のような仕事を(普段も早いが)2倍の早さでやりきった。
それはもう、辛口のヅカが驚く程のスピードと完璧さ。
大事な商談も、有無も言わさず先方のサインを勝ち取り、金額に換算すると数億を叩き出す。
顔には出さないが(しつこい)、本当に楽しみにしていたんです。
大和とのデート。
事の発端は、約一週間前。
偶々嵩原に会いに行った安道は、テスト結果を持ち帰った大和と出会す。
『あ?何や、大和……………えらいご機嫌やな』
ご機嫌。
制服のまま食卓に座り、キッチンに立つ高橋を見上げる顔の緩みよう。
ずっと大和を見てきた安道も、久し振りに目にした上機嫌。
『え、わかる?京之介ぇ~♪今回のテスト、なかなか良かったんやぁ~♪』
『へぇ…………そないに良かったんか?』
なるほど、テストか……………。
それを聞いたら、こちらも嬉しくなる。
大和の向かいに腰を下ろし、安道の表情も自然と和らいだ。
『そっ!これで、留年免れそうやわぁ~』
『おま…………留年しそうやったんか………っ』
そりゃ、大和も喜ぶ。
留年。
そんな事になったら、嵩原の鬼の形相が目に浮かんで離れない。
安道も恐いが、怒ったお父ちゃんも恐い。
ちなみに、高橋も恐い。
結局、大和は鞭と飴を3人から貰ってる…………。
『ったく、何しとんねん………ちゃんと勉強せえよ。そっちンがビビるわ』
『だってな、ここんとこずっと忙しかってん。学校も、あまり行けてへんかったし…………』
『そら、わかるけどやな………………』
確かに、キツい毎日だとは思う。
いまだ褒めてやった事はないが、安道から見ても家業との両立を大和は頑張っている。
この歳で竜童会の若頭なんて、普通の子供なら無理だ。
大和だから。
安道は、そう思ってる。
『まぁ、ええわ………………そないに良かったんなら、今度美味いモンでも食わしたる』
『マジ!?ぃえーい!やったァ!京之介、美味い店よう知ってるから、めっちゃ楽しみ!!』
何気に言った一言。
こんなにも、大和が喜んでくれるとは思わなかった。
手も焼けるが、可愛い。
まるで、誰かさんやな……………。
テンション上げ上げの大和に、安道は遺伝子の強さを痛感した。
そして、デートは行われたのだ。
嵩原も誘ったが、丁度関西から幹部が来るとかで、錦戸にバッサリ断ち切られた。
多分、今頃縄にでも縛られ、連れ去られてるだろう。
「そう言や、大和……………もうすぐ、多香子さんの命日やで?ちゃんと頭にあんのか?」
今日は、老舗のすき焼きでも食べさせよう。
大和の為に、既に予約済みの店へと足を向けながら、安道はふと気になっていた事を大和へ振った。
近頃、嵩原も大和も多忙を極める。
勿論安道も忙しいが、日本一の組織の組長と若頭はまた忙しい。
墓参り、どうすっかな。
「わかっとるよ、それは……………ただ、墓参り行けるかわからん」
「はあ……………?」
「支部、今バタバタしとるしな……………」
カチン、ときた。
忙しいのは、重々承知してる。
でも、アッサリ『行けるかわからん』て、何だ。
大して悩んでない様子の返答に、安道の表情は少しだけ険しくなった。
「どんなに多忙でも、竜也は必ず墓参りしとるぞ」
「え………………」
歩道の真ん中で立ち止まり、自分を見据える安道に、大和は顔色を変える。
ヤバい、怒らせた………………。
「これまでも、竜也は墓参りにお前を連れて行ってたろ?その大事さが、お前の頭にはねぇんか……………行けれんなら行けれんでしゃーないけど、真剣に悩む位せえ。てめぇのたった一人の母親ぞ……………」
「ご、ごめ……………京…」
慌てて謝っても、もう遅い。
可愛がる時は目一杯可愛がり、叱る時は目一杯叱る。
大切な子育てに、妥協はない。
焦る大和を前にしても、安道の説教が緩む事はなかった。
「何もな、お前と離れとうて逝った人やない。最期の最期まで、竜也とお前の事だけを心配して逝ったんや……………記憶は、薄うなってくかもしれへんけど、大事な母親を軽う言う真似はすな…………あの父親見とって、そないな事もわからんのか?17言うたら、てめぇで学べる歳やぞ、アホタレ」
「は……………はい」
はい。
それ以上、大和は何も言えないまま黙り込んだ。
低い声で凄むオヤジに、打つ手は皆無。
やっぱり、安道は恐い。
些細な事も見逃さない、隙の無さ。
母さん、ごめん………………。
反省した大和を見て、安道はガシガシと荒々しく頭を撫でた。
それで、終わり。
いつまでも、くどくど言わない安道の説教は終了し、大和は無事老舗の美味いすき焼きを味わった。
ついでに、欲しかった服まで買って貰い、楽しいデートはあっという間に過ぎていく。
それから、数日後。
大和は嵩原と一緒に、安道の運転する車で関西へ一時帰省した。
ただいま。
美しい青空の下。
大和が笑顔で呟いたのは、言うまでもない。
(皆様、前後編お付き合い下さり、ありがとうございました。安道と大和。嵩原とはまた違う親子に、ちょっと羨ましくもなります。安道を出した時は、桜井を出した時位緊張しました。皆様に受け入れられてる(?)ようで(多分…)、本当に嬉しい日々です)
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