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男娼とヤクザ/シーズン2(第7話)
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そのガキ………………。
嵩原の目に、大和はどう映ってるのか。
「そのガキて……………お前、向こうは知っとんか?」
冷たい夜風が、身に凍みる。
着ているジャケットから煙草を出し、口へとそれを運びかけた上地は、嵩原の告白に手を止めた。
大和と嵩原の意外な関係。
嵩原の母親を死に追いやった女の息子が、まさかの大和。
男遊びが酷く、自身も苦労してきた大和にとっては、思いもよらない出会いになっていたのだ。
「知るも何も、てめぇの親が他所の家庭を壊したなんて、認識するような歳でもなかったろ。俺が見た時は、まだちっさいガキやったから……………」
幼稚園にも上がってないような、年の頃。
あまりの幼さに、逆に同情すら覚えた。
このガキは、ちゃんと生きていけんのか……………。
遠目に眺めた姿が、やたらと目に焼き付いた。
「せやから、驚いたわ……………あいつが、うちのシマに立ってるのを目にした際は」
偶々、新しく受け持った土地の見回り。
組員達を引き連れ、夜の繁華街へ顔を出したら大和がいた。
「…………………もう2年位になるか。俺も忘れられへんかったんやろな…………昔の面影が残ってるあいつを見て、一目であン時のガキやてわかった。それから、直ぐに口実付けて組員らに調べさせ、とんでもねぇ家を飛び出したのを理解した」
「嵩原………………」
「呆れるで……………憎しみよりは、何か放っとけん方が先に出とった。気付いたら、遠巻きに見守っとるような気分になってな、街に行けば毎回あいつを探した………良さげな客とおれば安心したし、妙な客が付いとんの見ちゃ、後でそいつをシバき上げた事もあったわ」
大和が嵩原を知る前から、嵩原は大和を見ていた。
街へ出られる時は、いつも。
いつも、嵩原は遠くから大和の元気そうな姿に、ホッと胸を撫で下ろす。
「何なんやろうな………自分でもホンマにアホやと思うが、お互いガキの頃に苦労した者同士、俺と同じような道には行かせとうねぇと思う気持ちもある。あいつは、まだ若い………やり直し出来るしな」
その為に、見守ってやれたらそれでいいと感じていた。
ヤクザにまでなった自分は、真っ当な道から逃げ、随分と落ちぶれてしまったから。
だから、大和から近寄って来た事に、嵩原は内心戸惑った。
その上……………。
『忘れられられへん……………』
忘れられられへん。
なんて想いを口にするんだ。
ガキのくせに。
ガキのくせに、ふざけた事を言う。
もっと、突き放せば良かった。
自分なんかと関わらない方がいい。
裏社会に落ちたら、大和は抜けられなくなる。
「お前……………もしかして、ガキの事…………」
「クス……………ガキは、ガキやで。貧弱で生意気で、ろくなガキじゃねぇ。そそるような色気も皆無や……偶然、あいつが近付いて来てしもうたから構っとるだけで、他意はねぇよ……………」
他意はねぇ。
でも、それの横顔は、明らかに優しい眼差しを晒してる。
今まで、クールで無愛想だったヤクザが、ここまでただの子供に関わるだろうか?
長きに渡り嵩原を見てきた上地に映る、その変化。
もう、手遅れか………………。
「………………知らんぞ、深みに填まっても」
吸いかけた煙草に火を点け、上地は僅かに口元を緩めた。
「填まる沼もねぇわ……………」
ただ見えるのは、自分にはない可能性ある未来。
早く、この街から羽ばたけと願う思いだけ。
ガチャ…………………
「山代さん……………ほな、俺はここで」
夜の賑わいも遠退く朝日。
繁華街の朝は、通勤途中の人が溢れ、また違う景色を作る。
「大和、寝癖……………」
「あ……………すみません」
車から降り、わざわざ大和の髪型を直す山代に、大和は少し照れ臭そうに頭を下げる。
客と朝帰りは、初めて。
昨夜、自分の気持ちを悟られた大和は、一晩中山代の嫉妬と愛を浴びた。
身体を知り尽くされたセックスの、果てしない濃厚さ。
何度絶頂を迎えたかもわからないほど、どっぷりと淫らな世界を味わった。
「また連絡する……昨日、俺が話した事考えといて」
「山代さん………………」
昨日。
実は、あれから再び山代と事を交えた後、大和は思いもしなかった言葉を告げられる。
さすがに街も眠りに入る、真夜中。
グッタリとベッドへ横たわる大和の髪を撫で、優しく囁く山代の告白。
『ねぇ、大和……………』
ねぇ、大和。
それは、とろけるような甘い声から始まった。
『……………ん…………はい?』
疲れた身体を丸め、ぼんやり顔を上げる大和は、自分へ微笑む山代の姿を見つめた。
どんなに乱れても、美しさを損なわない山代。
しなやかな腕の動き一つ、上品で住む世界の違いを感じる。
そんな男が自分を愛してるなんて、半ば信じてはいなかった大和に、突然押し寄せた熱い愛欲の波。
『俺達、一緒に暮らさないか?』
『へ………………』
一緒に暮らさないか。
一緒……………。
『い、一緒て………………』
『大和に、俺の生涯のパートナーになってもらいたいんだ』
『………………え?』
生涯のパートナー?
『結婚したいんだよ…………大和と』
『え!?けっ……………』
結婚……………!?
身体が元気なら、ベッドから飛び上がりそうな衝撃。
けっ。
そこから先が出なかった。
結婚。
いや、高橋にもまだ返事が出来てないのに…………。
一体、最近の自分はどうしてしまったか。
シュウじゃあるまいし、まさかのモテ期。
嘘やろ………………。
でも、それからまた山代にキスをされ、考える余裕は無くなった。
だから、今朝はずっとボーッとしてて、余計に寝癖を構う余裕すら消え失せていた。
結婚。
今でも、夢じゃないかと思ってる。
考えといてと言われても……………。
「じゃあね、大和……………」
「んっ…………山代さ…」
サヨナラのちゅー。
通行人達が注目する中、山代は堂々と大和へキスをした。
頬を赤く染め、戸惑う大和がまた可愛い。
「じゃ、じゃあ…………山代さん」
ペコリとお辞儀をして、照れる姿に目も細くなる。
「バイバイ」
山代は軽く手を振り、その背中が見えなくなるまで立ち続けた。
「ホント、可愛い…………」
消えても尚、それの余韻に浸る愛しさ。
しかし、それを口にする山代の手には、いつの間にかスマホが。
大和の歩いて行った方向を見つめたまま、おもむろにスマホを耳へと運ぶ山代の表情に、もう笑顔はない。
ピッ……………………
「もしもし……………ああ、俺だ。ちょっと、調べて欲しい男がいる……………」
調べて欲しい男。
一体、何をしようと言うのか。
美麗な男にも、隠れた一面はある。
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