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絶叫マシン(前編)
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(ヤクザもたまには遊びたい…そんな気持ち)
「ぅわ……………これ面白そ…………」
それは、土曜日の夜の事。
久々に穏やかな週末を過ごした大和は、高橋のご飯を食べ、ソファでゴロゴロしながらスマホを弄ってた。
こんな夜は、珍しい。
組員からの電話もないし、嫌な情報も飛び交わない。
いつもはピリピリしている大和も、ごく普通の17歳を味わった。
「なんや……………面白いて?」
そして、そんな可愛い我が子の話に耳を傾け、お父ちゃんはいまだ晩酌中。
手の空いた高橋相手に、旨い日本酒で一杯引っかけている。
お猪口が空になれば高橋が酒を注ぎ、わざわざ夕食とは別でつまみを2、3品用意。
嫁じゃん!
そう突っ込みたくなるほど、相変わらず高橋はお父ちゃんにも甲斐甲斐しく尽くすのだ。
「これこれ、最新の絶叫マシン♪」
「……………………え」
嬉しそうに父親の元へ歩み寄り、スマホの画面を見せる大和に、嵩原の表情は固まる。
絶叫マシン……………?
絶叫マシンて、あの……………。
「ほら、絶叫マシン系で有名な遊園地……………新しいの入れたんやて。めっちゃ面白そうやね?」
「あ、ああ……………そやな」
そやな。
組長と若頭。
それ以外の時は、何があっても大和の相手を全力でしてきた嵩原にしては、随分淡白な答え。
「…………………親父?」
どうされた。
向かいに座っていた高橋は、あまり画面を見ずに返事をした嵩原に首を傾げる。
珍しいな、食い付き悪いなんて……………。
「俺、これ乗りたい……………親父、一緒に行かん?」
「はあ……………!?」
お猪口を握る自分の隣へしゃがみ込み、上目遣いでねだる大和に、嵩原の声は上擦った。
あ、もしかして……………。
怖いのかも、絶叫マシン。
嵩原のソレを一瞬で悟った高橋は、思わず吹きそうになるのを慌てて抑えた。
「アホかっ、何で俺が……………っ」
多分、当たってる。
可愛くて仕方がない息子の話に、こうもノリの悪い嵩原を見るのは初めてだから。
「…………………知らんかったな」
この嵩原に、大和以外の弱点があったとは。
まあ、絶叫マシンだけれども。
どうされる気ィやろ………………。
嵩原には申し訳ないが、なり行きが可笑しくて仕方がない。
「あのな…………俺は、もう36やぞ。しかも、一応これでも組長や!そないな場所は、湊や花崎とか若いん連れて行け」
「えぇ……………っ」
「えぇ…………やねぇ。そうせぇ、大和。小遣いはたんまり弾んだるから」
まさかの、苦手を小遣いで釣る。
小学生か。
「湊らにも話つけといたる。存分に遊んで来い」
それでも、本人はいたって真面目。
何だかんだと理由を付けて、嵩原は行く事を拒む。
「嫌や」
ただ、大和には通じなかった。
「親父がええ」
「大和……………っ」
ぷぅと頬を膨らませ、頑なにお父ちゃんを求める。
「だって、ガキん頃親父と遊園地とか行けへんかったやん……………何歳でもかまへん。行きたいんや」
「若………………」
泣きの一言。
ぷぅと頬を膨らませた大和も可愛いが、昔を振り返る大和はもっとたまらない。
確かに、昔の嵩原は金もない上に、下っぱならではの多忙さが毎日を埋めていた。
遊園地?
今思えば、安道がいつも連れて行ってくれていたっけな。
帰って来た大和が楽しそうで、いつからかそれに安心していた気がする。
「親父が、ええ……………」
何度も呟き、スマホを握りしめる大和の愛しい事。
嵩原も高橋も、その姿に胸が詰まった。
そうだよな。
我慢させていたんや、幼いながらに……………。
「……………わかった。ほな、行こう…………遊園地」
そりゃ、行かない訳にはいかない。
嵩原も腹を括った。
乗ってやろうじゃねーか!
「親父……………っ」
「ただし、他の連中も一緒や」
「は…………………」
ヤクザだって、休憩は必要。
「皆で行くぞ………………」
遊園地。
旅は道連れ、世は情け。
皆で行けば、怖くない。
竜童御一行様、出来上がり。
「……………………親父」
そこまで苦手なんだ。
嬉しそうな大和と観念した嵩原を見つめ、高橋はただただ当日の二人に想いを馳せた。
きっと、大変だと思う。
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