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男娼とヤクザ/シーズン3(第5話)
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(もう少ししたら、また一旦切ります。皆様、いつもありがとうございます)
『あいつが、俺を変えてくれた』
そう呟く山代の目に映るのは、大和だけ。
デスクに軽く腰をかけ、フゥッと小さな溜め息をつく山代を、錦戸はやれやれと言わんばかりに見つめる。
こいつは、真面目過ぎるのがたまにキズ。
一度思い込んだら、一直線。
仕事も成し遂げるまで熱心なのはいいが、周りが見えなくなる。
有能さの中に覗く少しの危うさが、放っておけない。
「わかっとんのか?あの嵩原は、危険やぞ。ある程度のヤクザなら俺も抑えてやれるけど、あれは程度が違い過ぎる。山代、俺の見えへん所で動くな………何かあったら、助けきれん」
「錦戸………………」
恐い顔で迫る錦戸に、山代は唇を噛む。
「…………………わかるやろ?」
「…………………」
わかるよ。
自分でもわかってる。
嵩原と言うヤクザの放つ存在感。
錦戸の思う通り、アレは危険だ。
まるで刃の様に、無闇に手を出したら切り刻まれそうな鋭さが、山代にも見える。
「お前にとって例の男娼が大事なように、俺にとってお前は大事なパートナーや……………失いとうない」
「………………ああ」
ああ。
でも、僅かに眉間にシワを寄せる表情は、納得していない。
錦戸は、そんな山代の顔へ手を伸ばし、いきなりグイッと顎を掴んだ。
「いっ……………な、何っ!」
「ガキに何されたんか知らんけど、ここにお前を心配する野郎がおる事忘れんなよ」
「に………錦…………」
何時にない真剣な眼差し。
普段は笑顔が絶えない錦戸のそれに、山代が驚いて顔を上げた瞬間、フワッと唇に柔らかな感触が当たった。
「んっ……………!?」
「ノンケでも、例外はあるんやぞ」
ソフトな口付け。
それでも、山代を崩すのには十分だった。
「は……ぁ…………錦………戸…っ」
離れた唇から戸惑いの声を出し、今にも床へ落ちそうになる山代を、錦戸が素早く抱き寄せる。
「ええな?無茶だけはすなよ……………約束やからな」
心臓が、破裂するかと思った。
例外って、どう言う意味だよ…………。
山代がそう聞こうとした時には、錦戸は身体を離して副社長室を出て行こうとしていた。
「錦…………っ……」
「明日からまた東京や……帰って来たら、顔出すわ」
この会社を作る際、山代は錦戸から一番に声をかけられた。
関東の大学で一緒に学んだ、錦戸。
頭が良く、イケメン。
その頃から錦戸はリーダーシップに長け、周りからとても慕われていた。
会社を立ち上げると言った際も、皆が応援する程の人気ぶり。
だから、まさか自分が声をかけられるなんて、山代は思いもしなかった。
自分は、他人とは違う。
男が好きだ。
両親が教師で、常に堅い生活を強いられて来た山代が、物心ついた時に気付いた衝撃。
ある日、いつの間にか男ばかりを追っている視線に、心の底からゾッとしたのを覚えている。
バレたら終わり。
受け入れられる訳がない。
知られるのが怖くて、本当の自分を隠し続けて来た山代は、周囲との付き合いもなるべく浅くしようと心がけ、距離を置いてきた。
なのに。
それを錦戸は、ブチ壊す。
『お前に決めた………………仕事、手伝って欲しい』
何度断っても、引かない。
結局、強引に押し切られ今に至るが、最近になってようやく錦戸だけにはカミングアウトした。
親にはバラすなよ。
て、条件付きで。
『バラされとうなかったら、ずっとここで働いとけ』
錦戸は、笑って答えた。
「………………錦戸」
考えてみたら、自分は何故錦戸に誘われたのか……。
訊ねた事がなかった。
山代は、錦戸に触れられた唇へ、ゆっくり指先を持って行った。
「もう……………何だよ。いつも何考えてんのか、わからないんだよ……………馬鹿」
それでも、有り難いとは思ってる。
こんな自分を、長い間支えてくれた。
迷惑は、かけられない。
錦戸に、迷惑はかけられない。
ガタ…………………
デスクの引き出しを開くと、中には大きな封筒が入れてある。
錦戸に頼んで調べてもらった、嵩原のデータ。
心が揺れる。
錦戸への感謝と、大和への想い。
どうしても、大和が欲しい。
欲しい………………。
「ごめん、錦戸……………」
封筒を持ち上げると、そこには小さな封筒が一つ。
『退職届』
山代も、本気なのだ。
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