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男娼とヤクザ/シーズン3(第8話)
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『大和か?どうしたんや、また泣いとんか』
電話口の嵩原は、いつものように優しい。
嵩原に会ってからと言うもの、大和は自分でも驚く程感情が溢れてしまう。
また泣いとんか。
自分が泣ける人間だと、初めて知った。
「あんな……………今日、高橋さんと話したんや」
夜風が、身に染みる。
一日中部屋に籠りっぱなしだった大和は、何か食べられる物でもとコンビニへ行った帰り道、嵩原に電話をかけた。
勿論、周りは賑やかな人通り。
メソメソ泣くなんてみっともないが、嵩原の声を聞いたら涙が出てきた。
何だろう。
少し前まで一緒にいた高橋の優しさが、胸を熱くする。
自分みたいな金も何もない子供に、あんな温かい手を差し伸べてくれる人がいるんだと。
人の温もりの有り難さ。
大和は、コンビニの小さな袋をぶら下げながら、嵩原に今日の事を話した。
グズグズ鼻水を啜る大和の声を、嵩原はどんな気持ちで聞いてたろう。
黙って耳を傾け、最後に一言言い放った。
『心配すな………………俺が、幸せにしたる』
それで、また余計に泣けた。
自分は、一人じゃない。
たった一人でも寄り添ってくれる人がいるだけで、こんなにも幸せに思うものなのか。
しかも、自分には二人いる。
それだけで、生きていける気がした。
「嵩原ぁ……………会いたい…………」
『ああ、わかっとる』
自分勝手な親達にウンザリして、これまでの人生を捨てるように出てきた少年。
大人なんか信用してなかった。
だけど、今はこんなにも嵩原を信用してる。
相手は、ヤクザ。
裏切られても仕方がないのに、信用してる。
夜の街が訪れる。
キャバ嬢が綺麗に着飾り出勤し、サラリーマン達が笑いながら飲み屋の暖簾を捲る。
眠らない繁華街。
今夜も大和は、街に立つ事はない。
嵩原からお呼びがかかるのを、ただただ待つのだ。
「忙しいんやな……………嵩原………」
噂で、近くの組が他所と抗争を起こしたと聞いた。
嵩原は、自分は関係ないと言っていたが、わからない。
「…………………顔、見たい」
どうか、無事で。
そればかりが募ってる。
「大和………………っ」
そんな大和の背中に、フウッと風が当たった。
雑踏としたビルの隙間を、静かに流れる風。
「………………え」
肌に感じる冷たさと相俟って響いてきた声に、大和は思わず振り返った。
「大和………………」
「あ……………山代さん!」
眩しいネオンに照らされ輝く、美しい人。
山代が、頬を少し赤らめ立っていた。
「良かった……………確か、この辺りが大和の家だったなって、探してた」
そう言えば、嵩原の情夫となってから、けじめとして大和はスマホを変えていた。
客の番号を知っていたとしても連絡なんてしなかったが、断ち切るべきだと考えた。
何故なら、それが嵩原への気持ちだと思ったから。
勿論、それの費用は嵩原持ち。
嵩原が、大和が必要な金は出すからと言って聞かなかった。
囲われるとは、そう言う事。
その為、山代が大和を探したと言うのもわかった。
「ごめん、俺……………」
「いいんだ……………会えたから、もういい……」
もういい。
それを呟く山代の手には、あの大きな封筒がチラつく鞄。
「………………話が、したい」
「山代さん………………」
夜が、動き始める。
シーズン3/完。
(シーズン4へ続く)
(皆様、お付き合いありがとうございました。そろそろ完結に向かいたい…次くらいで終われたらいいですね。またしばらく通常運転に入ります(*・д・)ペコリ)
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