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出発点(過去)
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ノスタルジーな雰囲気漂う街並み。
古くから続く商店街や小さな病院が連なる先に、これまた小さな助産院が一軒、緑溢れる木々に囲まれ佇む。
『木戸川助産院』
大きな病院での出産が増えている中、昔から住民達に愛される場所。
ここいら一帯の子供は、大概がこの助産院で産まれた。
「ぅおおおっ!!先生っ!多香子が痛いってっ……痛いって言うとんですけどっ!!」
そして、今日。
また一人、新しく仲間に入ろうとしていた。
「もぉっ!お父ちゃんっ……あんた、さっきからうるさいわ!ちょっと落ち着きなさいっ!」
「いやっ…………せやけど、先生!産まれるっ、産まれるさかいっ!!」
「まだ産まれへん!!しつこいっ!」
こんな攻防が、かれこれ2時間は続いてる。
周りにいる看護師達は、慌ただしい最中にも関わらず、笑いが止まらない。
病室にいる妻と、先生の間を行ったり来たり。
ハラハラ動き回るイケメンパパに、その目は釘付け。
ガラッ………………!!
「竜也!!多香子さん、産まれたってホンマか!」
しかも、動揺して電話をしたが為に、間違った情報が伝わる。
大学の授業を抜け出して、現れたイケメンがもう一人。
「京………………あ、いや……まだ」
「…………………は?」
これが、大和とお父ちゃんの始まり。
朝、木瀬さんに呼ばれ、家を出ようとした嵩原は、突然始まった多香子の陣痛にパニック。
急いで安道に電話をし、『産まれそう』と言うつもりが『産まれたぁ!』と伝えると、慌てて助産院へ。
元々、身体の弱い多香子。
最初は、お金がかかっても大学病院への受診を提案した嵩原を、多香子は地域密着のここがいいと願った。
先生は、何かあれば直ぐ大学病院へ行けるよう手配をしてくれ、今日をどうにか無事に迎える事が出来たのだ。
「先生、そろそろです」
「わかったわ、準備して」
「へ………………っ」
「お父ちゃん、行くよ!」
駆け付けた安道の後ろから、多香子に付き添っていた看護師が顔を出す。
そろそろ。
嵩原は肩を叩かれ、ゴクリと息を飲んだ。
そろそろ、産まれる。
「俺の分も、応援頼むで。しっかりせえよ」
「お、おう………………」
喧嘩に明け暮れ、ヤクザにまでなった嵩原の人生。
緊張なんかしたことなかった。
「…………………足と手」
「はい………………?」
「一緒に出とるぞ」
「おわぁ……………」
ガチガチに緊張していた。
それからは、あっという間だった。
初産にしては、安産と言うべきか…………。
陣痛から8時間後に、安道が来てから1時間半後に多香子は大和を出産。
元気な産声が産院中に響き渡り、真っ赤な顔の男子が誕生した。
「ぉぎゃ………おぎゃぁ……」
「…………………産まれたんか!」
外は、既に夕暮れの景色。
茜色の日差しを窓越しに浴び、安道はホッとしたように椅子から立ち上がった。
握りしめていた手には、しっとり汗が。
珍しく、安道も緊張してた。
我が子ではないが、まるで我が子を迎えるよう。
じんわりと目頭が熱くなる。
「良かった……………良かった……」
全身の力が抜けた。
「おめでとう!元気な男子やで」
「ふぁ……………あ……男ン子………」
先生から手渡された、小さな命。
白いおくるみにくるまれ、赤い身体をモゾモゾ動かす、硝子のような命の愛らしさ。
抱きしめる腕が、震える。
なんて、可愛いのだろう。
自分の分身とも言うべき、新たな家族。
嵩原は一気に込み上げる昂りに、目からはポロポロと涙が溢れ出た。
「ハァ…………ハァ……たっちゃん…………」
「ん…………ぅん…………ありがとう。ありがとうな、多香子……………ホンマに、ありがとう」
ぐったりとしながらも微笑む多香子を見つめ、発するのは感謝ばかり。
まともな家族すらいなかった、不良少年。
そんな自分に妻が出来、子が出来…………家族が出来た。
「俺………………お父ちゃんになったんやな…………」
子を授かる不安と、喜び。
自分が、守ってやる。
自分が、幸せにしてやる。
全てが、愛で埋まる。
最強の愛が生まれた。
(皆様、いつもありがとうございます。本編では、重い話の繰り返しにお付き合い下さり、本当にありがとうございます。劉組織の一連が終われば、恋愛男子も完結だな…そう思い、ずっと書いて来ました。でも重い話も続き、このままそんな話ばかりを入れていく事にも悩み始めたこの頃。頭の組み替えをしながら、もう少し先を考えようかなと思います。あとどれくらいになるかわかりませんが(長くなるか短くなるか)、また宜しくお願い致します(*- -)(*_ _))
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