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出発点(過去α/後編)
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「ホンマ……………ええ加減慣れや」
「すまん……………京」
さて、どちらが父親ですか。
おしっこ飛ばした大和の身体を手際よく拭き、サッとオムツと服を替えてやると、周りの畳も水拭きしながらお片付け。
京様、様々。
「はぅ……………ぅ……」
小さな手足を動かす大和を二人で覗き込みながら、嵩原は安道に頭を下げる。
いつの間にか、安道の方が手慣れてしまった。
「もう、ガキがガキ育てとるわ……………俺にしてみたら、お前はまだ赤子やで」
「ひで……………そこまで言うか」
「…………………多香子さんに感謝せえよ。こないに貧乏で、手のかかるヤクザ野郎の所に嫁に来てくれたんや。どんだけ礼言うても足りひん」
「京…………………」
優しいガーゼのおくるみに大和を包む動作も、不安なく。
安道はフワッと大和の身体を抱えると、普段見ないような笑顔で呟いた。
「なぁ、竜也………………」
「ん…………………?」
「二人を、幸せにしたらんとな………………そして、お前も幸せになるんやで」
初めて会った時から、共に歩んだ道。
嵩原の大変さも全部見てきた安道に、今のこの時は幸せの瞬間。
ようやく、嵩原にも安らげる場所が出来た。
このまま嵩原が幸せでいられたら、自分もどんなに嬉しいか。
「ア、アホか……………お前かて、幸せにならんとあかんやろ!俺にとっては、京も大事な家族や」
「あ?何、お前に俺を気にする余裕があるんか」
「あるわっ!失礼やな!」
「…………………竜也」
照れる心友に、癒される。
幾つになっても、幼子のような男。
純粋で真っ直ぐで、翼が生えたように自由に飛び回る。
そのくせ、キレたらヤバい。
どれだけ手がかかったか。
そんな奴が親になってしまったのだから、安道の想いは感慨深い。
「ぁあああ…………っ!!」
と、ほら。
いきなりこんな風に、行動が読めない。
「何やねん!急にっ………大和がビビるやないか!」
色々な想いを巡らせる安道の隣で、突如叫ぶ嵩原の摩訶不思議な行い。
大和を抱えていた安道は、その小さな身体を落とさまいと思わず腕に力を入れる。
「だっ、だっ、だって…………今っ!!」
「今………………?」
「今、大和が笑ったァ!!」
「は…………………」
慌てて見下ろす先。
お猿のような大和は、スヤスヤ眠りに入ってる。
「…………………え?」
「……………ように見えたんや」
「シバくぞ、お前。マジで、一瞬落としそうになったんやぞ」
睨む安道の横で、苦笑いする困った父親。
「まあ、ええわ。昼飯作ったるから、大和見とき」
「今日、何なん?」
「せやなぁ……………オムライスとか、どんな?」
「おぉ~!京のオムライス、大好き♪」
「おし……………ほな、決まりやな」
京のオムライス、大好き。
それ、どっかで聞いたよな?
「高橋ィ~、今日の昼飯何?」
「そうですね……………オムライスとか、どうでしょ」
「やったぁ~♪高橋のオムライス、大好き♡」
「はい……………では、それで」
あれから、17年。
あの天然親父の息子は、奇しくも父親と同じ事を発してる。
日曜日の昼下がり。
右腕・高橋の言葉に喜ぶ大和の声が、マンションの部屋に響き渡る。
「………………何や、大和もオムライス好きなんか」
「ああ、みたいやで。いっつも高橋にオムライス作ってもろうてる」
リビングのソファで、昼から一杯引っかける安道と嵩原は、キッチンで楽しそうに喋る大和へ目を向けた。
「へぇ……………」
なんと言う、遺伝子。
安道は微笑みながら、手にしたウイスキーを口へと運ぶ。
「でも……………俺の一番は、やっぱり京のかな」
「………………はい?」
「オムライス」
煙草を咥える、こんちくしょう。
立ち上がる煙越しの罪な一言。
「………………アホ。お世辞は要らんわ」
こちらを見つめる嵩原が、やたらと視界を塞ぐ。
安道は咄嗟に顔を逸らして、緩みそうになる口元をグッと噛み締めた。
「ええやん。また作ってな………最近、食べてへん」
「気が向いたらな……………」
「えぇぇ……………っ」
「ガキか……………えぇ言うな、ボケ」
月日が経つのは、早い。
あんなに小さかった大和は、もう自分達に迫る身体へと成長している。
若いオヤジ二人が、可愛い我が子の為に四苦八苦した事なんて、当然知らない。
記憶は、そのオヤジ達の胸の中へ大切に残されているだけ。
大切に、大切に。
我が子を愛し、家族を愛し、今日もこうして必死に親をしながら。
亡き妻、多香子の分もしっかりと刻まれる。
きっと、これからも……………。
(いつもありがとうございます。今、大雨が大変ですが、皆様の所は大丈夫でしょうか。私の近くにも避難勧告は出ています。どうか、どうか皆様ご無事でありますよう、お気をつけ下さい)
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