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上地妻
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(ヤクザものでありながら、極妻がいない恋愛男子(笑)でもいます、一人だけ。上地の妻…恋愛男子唯一の極妻。あの上地の妻…それだけで尊敬します。でも中身は上地と嵩原です(--;)すみません…いつか本当に絡む時が来たらいいなと思っています)
「おい、上地……………」
「………………あ?」
今夜、上地は至福の時を過ごしてる。
繁華街より少し離れた、小さな居酒屋。
派手な料理はないが、どれも酒によく合うメニューが舌に優しい人気の店。
その二階にあるこれまた小さな個室で、愛する嵩原と二人呑み。
例のごとく、いきなり来た嵩原に連れ出されたのだが、上地にとっては何も問題ない。
いつもの事だし、何せ嵩原は可愛い。
鬼の上地も、嵩原には相変わらず甘いのだ。
ただ、今夜は少しだけ雰囲気が異なった。
珍しく、嵩原がムスッと口を尖らせてる。
何かあったんか……………?
聞こうと思ったが、ぷっくり膨らんだ頬が愛らしくて、上地はしばらく黙りを決め込んでいた。
「俺、今日お前の嫁に会うたぞ…………いつからこっち来とんな。声かけたら、思い切り睨まれてガン無視食ろうたわ」
「ああ…………そう言や、来る言うとったか………」
なるほど。
尖った唇の原因は、これか。
自分の嫁に睨まれる、日本一の組長。
笑える。
上地は、目の前でブツブツ言っている嵩原を見つめ、その時の情景を思い浮かべた。
「そう言や………やないしっ!お前、嫁が来るのも無関心かっ。ちぃとは仲良うせぇよ!…………何で、俺が睨まれなあかんねん」
「しゃーないわ。あいつは、俺がお前に惚れとんの気付いとるさかいな」
「は………………」
「いつか刺したるて、しょっちゅう言うとる」
「どんだけ嫌われとんな、俺は!!」
そんだけ嫌われてる。
無表情で煙草を咥える上地の愛は、一つだけ。
一応嫁を取ったが、頭から嵩原が消える事はなかった。
嵩原以外には愛せないと思った上地は、妻が望んだ子供も作らないまま。
最近では、何時抱いたかさえ覚えていない。
「ま、その分好きにさせとる……………満足はしてねぇやろうけど、あいつはヤクザの嫁としては申し分ねぇ。組員らの面倒見は、ピカ一や」
「お前が刺されろ……………俺に惚れたかて、俺は何もしてやれんのやからな!ええ嫁やないか、大事にしたれよっ」
世の中、上手く回らないものだ。
冷酷上地も、腹の据わった女達にはよくモテる。
愛想はないが、強くてブレない信念が夜の女達を惹き付けて止まない。
上地の妻は、そんな女達の中でも最高にイイ女だった。
確か、超高級クラブの人気No.1ホステス。
嵩原も昔から知ってる顔で、上地に負けない気っぷの良さは、極道の世界では有名。
嵩原曰く、極妻としては右に出る者はいない器。
だからこそ、複雑。
こんなに愛されても、嵩原自身はそれに応えてやれないのに、上地は嵩原しか目が向かず、妻はそれを承知で上地と結婚し、組を支え続ける。
「………………お前のせいや」
「はあ…………!?」
そうだ、お父ちゃんのせいだ。
「手には入らんと承知しとっても、俺の目にはお前の光しか見えん。お前は、LEDが過ぎんねん」
「知らんがな………っ。俺は電球か!」
親を手にかけ、自ら地獄の道を選んだ、暗い暗い上地の見る景色。
その世界に唯一差したのが、嵩原の存在。
十代の時、たった一度だけ見た光は、それからの上地の心を掴んで離さなかった。
不器用な男の、不器用な人生。
上地丈一郎の生きる道に、嵩原は生涯息衝く。
「お前を愛しとる、嵩原」
「その厳つい面で言うな………余計に重い」
渋い声から出る愛が、またいい味を生む。
ぶつくさ言いつつも、どこか照れてる嵩原へ注がれた、上地の熱い眼差し。
初めて出会ってから、22年。
幾つになっても、いまだときめく。
どうしても勝てない、強い男。
22年……………えらく長い恋をしたもんだ。
「せやけど…………俺に何かあった時は、あいつを頼むわ。気ィ強ぇあいつの事や………映画ばりに、相手ンとこ乗り込むやろうしな」
「上地………………」
「あいつを止めれんの、多分お前だけやで」
低い天井に広がる、煙草の煙。
これが、供養とならぬよう願いたい。
自分の世界に付いて来た女。
最低な旦那だが、感謝はしている。
「アホか………縁起でもねぇ事抜かすな。何かあったたら、俺が直ぐ動いたるわ……どっちも死なせるか」
「嵩原………………」
上地の煙草に手を伸ばし、それを奪い取ると、嵩原は自分の口へと咥え直した。
「お前の愛は受けてやれんけど、お前は同志やと思うてる。白洲会の上地がおったから、踏ん張れた時もあった……………先に逝くんは、許さんからな」
「フッ…………それは、こっちの台詞や」
同志。
たまらない事を言ってくれる。
家族も組員も、同じように気にかけてくれる嵩原に、冷酷男の表情も和らぐ。
「それ、なんなら直接してくれるか?」
「それ……………?」
「煙草やのうて、俺のここにな」
首を傾げる嵩原の前で、自分の口を指差す上地。
煙草より欲しいモノ。
「ニコチンより、ええ味教えたるわ」
「要るかっ!」
大事なチューは、大和だけ。
そんな嵩原の一途さも嫌いじゃない。
極道一の男を眺め、上地は旨い酒に舌鼓。
今宵も楽しい席となった。
自分も嵩原がいたからこそ、今がある。
競争激しい世界で、同志。
サラリと言い放つライバルに、胸を打つ。
負けられねぇ…………。
それに見合う男になってやろう。
組長とて、ゴールはない。
己を鍛えぬいての極める道よ。
この翌日、上地は一件の電話をする。
「ああ、俺や……………こっちに来とんなら、久し振りに飯でも食うか」
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