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男娼とヤクザ/シーズン4(第2話)
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夜が、いつも以上に長かった。
「あ…………も、朝や………」
硬いベッドの上。
殺風景な部屋の中で、大和はぼんやり天井を見上げる。
昨日、どうやって帰って来たのか。
近くまで山代に送ってもらったが、そこからの足取りが朧気な景色となっていて、全く思い出せない。
チラッと横を見れば、山代から渡された封筒が床に落ち、スマホも壁の近くに転がってる。
「そう言や、嵩原から電話がかかって来とった……」
話を聞いた直後は、鳴ってる事すら気付かなかったが、深夜にもう一度かかってきた時は、さすがに出るのが怖くて指が動かなかった。
バレてたらどうしよう。
バレたらどうしよう。
そんな事ばかりが脳裏を過って、着信の名を見るだけで涙が溢れた。
「……………心配しとるかな」
結局ずっとベッドに転がり、これまでの嵩原との事を考えては、ポロポロと泣いてばかり。
ふと顔を上げた時には、窓から朝日が差し込んでいた。
そして、思い知る。
いつの間にか、自分でも驚くほど嵩原を好きになっていた事。
離れるのが、こんなにも苦しいって事。
「ああ、あかん…………また泣けてきた………」
でも、一緒にはいられない。
母親があんな酷い行いをして、どんな顔で側にいたいと言うんだ。
許される訳がない。
「……………ここも出よう。ここは嵩原も知っとるし、おらん方がええ」
おらん方が……………。
大和はズシッと重い身体を起こしながら、涙でぐしゃぐしゃになった顔を荒々しく拭った。
一回拭いただけで、ぐっしょりと濡れる服の袖。
どんだけ泣いてんだ。
自分でも呆れてしまうが、拭いても拭いても流れ出るものは、不思議な程セーブが利かない。
「嵩………………」
会いたい。
「くそ…………会いてぇよ……ぉ」
会えないと思うと、尚更想いは募る。
震える身体を丸め、声を殺すように泣き崩れる大和にとって、嵩原との出会いはつかの間の幸せだった。
生意気を言おうが、軽くあしらわれた日々が懐かしい。
もっと、もっと沢山『好きだ』と伝えたら良かった。
「嵩原…………ぁ……」
自分には勿体ない位いい男だったが、やっぱり今も最高にいい男だ。
一生忘れない。
あれほどの男が、一瞬でも自分を愛してくれた事実を。
一生……………。
ただ、そんな大和の決意とは相反し、案外周りは黙って行かせようとはしないもの。
コンコン……………
突然、部屋に響くノック音。
平日の朝、世の中は慌ただしく仕事を始める時刻、大和の家を訪れた訪問者。
「大和?…………大和、いる?」
それは、どこか聞き覚えのある声。
「え……………」
急いで近くにあったタオルを手に取り、濡れた顔を拭いた大和は、その声の主に耳を疑う。
「…………この声…………」
若いけれど落ち着きのある、声色。
そこからも伝わる品の良さ。
バタバタバタ……………ガチャッ!
「シュウ…………っ!!」
「大和っ!良かった…………おってくれた」
大きな足音と共にドアへ駆け寄った大和が、目を丸くして迎える相手。
自分とは正反対、超美形の人気娼夫・シュウがそこに立っていた。
「……………て、どないしたんや?酷い顔やな」
ボロボロの大和を見つめ、ビックリした表情も美しい。
綺麗なシュウの綺麗な笑顔。
相変わらずの美人振りに、さすがの大和もホッと息をした。
「最近、街で見いひんから心配してたんや。何かあったんか?……………なあ、肉まんと珈琲買うて来た。久し振りに、話でもせえへんか」
「シュ……………」
街に出れば、たまに顔を合わせて互いの近況を語る仲。
だけど、深入りはしなかった。
それが、街に立つルールだと思っていたから。
「もう、泣くなや…………大和…………」
弱った心に染みる優しさ。
まさか、シュウが来てくれるなんて…………。
温かい。
細やかな親切の温かさに、胸が詰まる。
「だって、お前…………」
「肉まん、食べよ……………冷めてまう」
眠らない街。
あまり好まれる世界じゃないが、こんな救いがまだここにはあった。
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