アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
男娼とヤクザ/シリーズ4(第6話)
-
「嵩原………ぁ…ごめんなさ………」
泣き崩れる人間を見て、こんなにも憤りを感じたのは初めてだ。
冷たい床が、大和の涙で濡れる。
肩を震わせ、自分の足へとすがる背中に、嵩原は言い様のない苛立ちを覚えた。
怒りで、まともに声を出す事もままならない。
直ぐにでも抱きしめてやりたいと思うのに、この込み上げる怒りに理性が吹っ飛びそうになるのを、抑えるのが精一杯。
「………………大和」
「も……ぅ………嫌われても仕方がないて思うてる………取り返しのつかへん事を、ウチのおかんはしてもうたんや………」
それでも、自分の親の為に頭を下げる大和を見ていると、愛しさの方が上回って来るのだから、不思議なものだ。
突き放しても突き放しても、自分を求めた娼夫。
不器用で生意気。
なのに意外な程脆く弱いその姿に、嵩原の心は否応なしに惹かれていった。
「アホか……………何で、お前を嫌わなあかんねん。そないな安い覚悟なら、とうに見放しとるわ」
「た………嵩原…………」
ただ、自分はヤクザ。
これを受け入れて良いのかと、嵩原なりに苦悩が続いたのも、確か。
「心配せんでええ…………その話なら、俺はとうに承知すみや」
「え……………」
生きている世界は、決して甘くはない場所。
自分の道へ、大和を巻き込むのが怖かった。
でも、今は違う。
涙で顔を濡らす大和に触れて感じる、嵩原の気持ちの大きな変化。
大和を、誰にも渡したくはない。
こいつを守れるのは、自分だけ………そうふつふつと想いが湧き起こる。
「お前の母親がどう言う女かも承知で、俺はお前を受け入れた………俺は、俺の愛を取ったんや」
「嵩…………そ……それって……」
「言葉通りや…………家族がどうとか、互いの立場がどうとか関係なけりゃ、それをお前にごちゃごちゃ言う気も毛頭ねぇ…………大事なんは、お前が側におる事。俺の側で笑うてくれたら、それでええ」
それでええ。
自分にしてはクサい台詞だと思ったが、こんな大和を見ていたら馬鹿みたいにスラスラ出てしまった。
ヤクザが、10代のガキに溺れる。
呆れるような恋の、呆れるような自惚れ。
「嵩原………………」
「……………不満か?」
嵩原は唖然と見上げる大和に、いつになく優しく微笑んだ。
男前の綺麗な笑顔。
胸高まる大和の答えは、考えるまでもなく決まっていた。
「不満なわけ…………不満なわけないっ………勿体ないくらい…幸せや………ぁ……ぁっ」
「ぷ…………なんや、また号泣か?」
「だって……お前が泣かすから……や…ろぉ……っ」
ワンワンと涙を流し、抱きつく大和がまた可愛い。
大切な存在。
一生、離さない。
一生……………。
「ああ…………俺が、必ず幸せにしてやる………」
確かめ合う絆は、より強さを増す。
囁く誓いに、身は自ずと委ねられた。
嵩原に会えて良かった。
大和が泣きながら確信したのは、言うまでもない。
それから、どれだけ経っただろう。
会えなかった間の想いを嵩原へ語り続けた大和は、その手を握ったまま、いつの間にか眠ってしまう。
ベッドに横たわる安心しきった、大和の寝顔。
「……………ったく、身体も抱かれへん間に寝よって。よっぽど心労が祟ったんやな…………」
大事そうに絡まる指先を眺め、嵩原はベッドの脇に腰を下ろす。
泣き晴らした目蓋が、痛々しい。
自分が会えなかった時間も、相当泣いたに違いない痕跡は、嵩原も見る度に胸を痛めた。
「……………ホンマ、誰や一体。大和をこないな目に遇わせたんは」
考えれば考えるだけ、腹が立つ謎の人間。
「大和が、今日会うてたあのガキか………?」
肩を並べて歩いていた、シュウ。
随分綺麗な青年だったが、そこまで出来る様に見えるかと言えば、疑問が残る。
ガサッ………………
だがその時、偶々身体を動かした嵩原は、ベッドの下の何かに足をぶつける。
「………………ん?」
見れば、分厚い封筒のような物が覗いてた。
それも、ちょっとお金のかかった、しっかりした作りの封筒。
金のない大和が持つにしては、どことなく違和感があった。
「何や、これ………」
そう言って、嵩原がそれを持とうとした瞬間、中身がバサバサと音を立てて足元に散らばる。
目を見張るような沢山の書類。
記されているのは、嵩原自身の名。
「あ……………?」
考えるまでもなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
211 / 241