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男娼とヤクザ/シリーズ4(第8話)
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愛する者を泣かせてまで欲しかったものは、何か。
「山代っ………今日、竹崎社長と商談やったよな?」
大手の企業が名を連ねる、有名なオフィス街。
午後の日差しがビルの窓を照らす一角に、まだ新しい匂いのする会社がある。
東京に本社を置く、錦戸と山代の会社だ。
大学の友人から、仕事のパートナー。
若い二人が立ち上げた会社は、今やなかなかの業績を築き上げるまでになっていた。
「錦戸…………え?お前、いつこっちに………」
「ああ、ついさっき。またしばらく、こっちおるから宜しくな」
「はい…………?」
仲は良い。
生真面目な山代と、元々リーダーの似合う錦戸。
何事も物怖じせず突き進む錦戸を、山代が上手く支え、何度かあった危機を乗り越えて来た。
「それから、これ………俺は、受け取る気ねぇから」
「あ……………」
「何や、退職願て。ふざけんな…………あの子供やヤクザの事が関係しとんなら、尚更却下や」
「錦戸…………っ」
でも、本当は違う。
真面目が祟って思い詰める山代を、錦戸がカバーして来たのだ。
「今、お前が一人になったら、誰が困った時に助けたるんな。書類渡したんやろ?もし、ヤクザが知ったらどないすんねん…………嵩原ってのは、その辺のチンピラとちゃうんぞ。お前だけじゃ無理や」
「だけど………」
「だけどやねぇ………こないな時くらい頼れ、俺を」
今回も、同じ。
大和に書類を渡した時点で、嵩原へも話が行くかもしれないと思った山代は、前から用意していた退職願を錦戸に提出した。
嵩原は、生半可なヤクザではない。
怒らせてしまったらどうなるか、山代とて検討がついた。
「錦…………」
「先、駐車場行っといてくれるか?少し雑務片付けたら直ぐ下りるさかい………早めに出て、茶でもしようや」
ポンと肩を叩き、笑顔を見せる錦戸に、返す言葉も出ず。
山代は申し訳なさそうに頷くと、黙ってその姿を見送った。
『書類渡したんやろ?』
渡した。
あれを見せた時の大和の様子は、自分でもなんて残酷な奴なんだと思う程、痛々しかった。
嵩原が、好きなんだ。
それが苦しい位に伝わって、何度も何度も呼んでいた嵩原の名が、いまだに耳にこびりつく。
「………………俺は、狂ってるな」
自分で自分が、怖い。
あんなに酷い真似をして、それでも大和が欲しいと思っている、自分が。
『山代さんに会えて、良かった………』
ビルの窓から望む、都会の雑踏。
その街並みをぼんやりと眺める山代は、以前大和が言ってくれた言葉を思い出しながら、これまでの自分を振り返る。
大和に会うまで人混みが嫌いだった、山代。
自分の心を隠し続けて生きて来た山代の人生は、他人と目が合うだけで本心までも覗かれているような気になり、顔を上げるのさえ怖かった。
それが、大和に出会って変わる。
『ちょっとは神さんもええ事してくれるんやね。俺の人生なんか、もう見捨てられたと思うてたから……ホンマに、ありがとう』
ありがとう?
ひた隠しにして来た自分へ、ありがとう。
この心が、誰かに感謝されるなんて…………。
とても嬉しかった。
『何いってるんだ………俺の方が、ありがとうだよ』
『ええ?山代さん、優しいなぁ………』
そこから、山代が大和を愛していくのに、時間はかからなかった。
山代自身も、大和と一緒の時が一番楽しく感じたし、今夜会えると思ったら、朝から気分が上がったりもした。
幸せにしてあげたい。
ずっと、そう想ってた。
「……………ヤクザなんか、大和が苦労するだけだ」
自分に言い聞かせるように思いを吐き捨て、山代はエレベーターへと向かう。
地下の駐車場には、自分の車がある。
車好きの竹崎社長に合わせる為、秘書抜きで車談義に花を咲かせようと、愛車で訪ねるつもりだった。
「はぁ……………」
山代はエレベーターのボタンを押すと、疲れたように壁に寄りかかった。
蟠りが無いと言えば嘘になる。
あれからも大和の事ばかりが頭に浮かび、仕事も手に付かない。
しっかりしろ。
仕事は仕事、頭を切り替えるんだ…………。
チ……………ン……
ひんやりとした空気が漂う駐車場。
社員のほとんどが電車やバス、はたまた自転車等で通勤するこの会社で車を使っているのは、ほぼ重役の面々。
広い駐車場は空きスペースも多いが、並んでいるのは一律高級外車。
大手らしいなかなかの金回りが壮観な眺めを作り、山代も当たり前のように、それらを横目に自分の車へ歩み寄って行った。
「………………?」
が、ドアの方へ手を伸ばした時、ふと車体の中で影が動いた気がした。
ただ、物音はしない。
風もない地下で照明が揺れるなんて事も、まず有り得なかった。
山代は首を傾げながら、何が映ったのかと振り返った。
しかしその瞬間、有無も言わさず答えは現れる。
ガンッ……………!!
「……………てめぇか、山代言うんは」
胸ぐらを掴み、こちらを睨む一人の男。
凄い力と刺すような目付きに、さすがの山代も言葉を失った。
なんて強い力だろう。
身体を動かそうにも、車へ押さえ付けてくる力に腕さえも上がらない。
「お…………おま……」
ヤクザの幹部とは、こう言う男を言うのだと思った。
遠目で見るのと間近では、あまりにも迫力が違う。
「た、嵩原…………っ」
「大和を傷付けて、何のつもりや…………貴様」
怒りに満ちた姿が、山代の目を奪う。
嵩原。
覚悟していた事が、ついに訪れる。
(いつもありがとうございます。今回の男娼ですが、色々片付けたいので長くなりそうです…すみません。もう少し良ければお付き合い下さい(*_ _))
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