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男娼とヤクザ/シリーズ4(第10話)
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何が間違いで、何が正しいか。
互いに愛している気持ちは、同じ。
愛してる、愛してる。
何度も囁いた言葉に嘘はない。
「俺は……………あいつがあの女のガキやと、前から知っとった」
「え……………」
手に伝わる、書類の重み。
嵩原自身の事を細かく調べられたそれは、大和の傷付いた心と共に、より重さを増したよう。
たった一つ。
たった一つの封筒が、こんなにも辛い現実を教えてしまうなんて、嵩原も思ってもいなかった。
「それを知った上で、俺はあいつを受け入れたんや。憎い女のガキでも、俺を追って来るあいつを幸せにしてぇ思うて、受け入れたんや!………ヤクザの俺がどんなに嫌われようが、調べられようがしゃーない………でもな、事情も知らんくせに、人の懐を抉るような真似すんじゃねぇわっ!」
その上、目の前にいる山代と言う男。
久し振りに見るような、綺麗な顔立ちと上品な佇まいが、嵩原の視界を塞ぐ。
真っ当な地位も生活もありながら、美しさも手に入れた人間。
こんな男が、大和を愛している。
ヤクザを相手にしても、愛そうとしている事に嵩原の心はざわついた。
嫉妬か……………。
一人の娼夫を取り合う、大人達。
以前の自分なら、そこまでして誰かを愛したりはしなかった。
女に溺れた父親を見て、恋に狂う真似だけは御免だと、いつも冷めた目で他人を見て来た。
「てめぇのした事は、正義じゃねぇ………好きならやり方を間違うなや。あそこまで大和を憔悴させて、何が恋や愛や………笑わすな」
「………………っ」
それが、結局どハマりだ。
山代の胸ぐらを掴んでいた手をゆっくり離し、嵩原は自分の想いに確信を持つ。
大和が、自分を追っているのではない。
街に立ってる大和を発見した時から、自分が大和を追っていた。
「……………その辺にしてやってくれへんか」
そうして、また一人秘めた想いを抱く男は、現れる。
「に………錦戸………!」
山代と出掛ける為に降りて来た、山代の仕事のパートナー。
上質な黒いトレンチコートを纏い、静かに立つ姿はさすが一流企業の社長と言った風格を持ち合わせ、嵩原を前にしても怯む様子すら見受けられない。
「あんたの言う通りや…………今回の山代は、ちと強引過ぎた。どんな理由にせよ、自分よりも下の子供を深く傷付けたんは、大人が悪い。可哀想な想いをさせてしもうて、すまんかった。詫びるんが、先やったわ」
しかし、真摯な面持ちから出た言葉は、顔もろくに知らない大和を想う錦戸なりの心遣い。
黙って嵩原へ頭を下げる姿勢に、山代は唇を噛み締めた。
ただ。
「ただ………それ以上そいつに何かするんやったら、俺も黙ってへん。山代は、俺の大事な仕事のパートナーや。あんたが、大切な子供を守ってやりたいんと同じ…………俺も、そいつを守ってやりてぇ」
「お前……………」
溢れる想いは、どこも変わらない。
錦戸の切なる気持ちに、嵩原は言いかけた言葉をグッと飲み込んだ。
ああ、本当に人間とは厄介だ。
何かを想う強さは同じなのに、こうも不器用に回り道をする。
驚く山代を見つめ、錦戸は小さく頷く。
守ってやりてぇ。
それが、本心。
「傷付けとうねぇんや…………」
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