アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
男娼とヤクザ/シリーズ4(第13話)
-
娼夫と客。
いつでも、そこから抜けられると思ってた。
「傲っていたのかもしれない…………」
「え……………?」
嵩原と楽しそうに話す大和が、美しい瞳を奪う。
自分が見たかった姿を、さらりと引き出す嵩原が羨ましい。
あんな風に、自分も大和を笑わせたかった。
取られるのが嫌で、何が大事なのかさえ見失ってしまった、馬鹿な男。
錦戸が止めてくれなかったら、今頃自分は取り返しのつかない所まで落ちていた。
「大和にとって、俺は悪い客ではなかったから………いつでも側に来てくれるだろうって、心の何処かで傲ってたのかもしれない……………でも、それが嵩原の登場でみるみる変わっていく様子に、一気に焦りが生まれた」
「山代……………」
「本当に、大馬鹿野郎だな。初めて本気で人を好きになって、自分を見失うなんて…………」
寂しく微笑む顔が、今にも涙で濡れてしまいそう。
自分を隠し続けた山代の不器用な生き方。
誰もが見とれる美男子は、意外な程恋に奥手。
どんな風に愛せば良いかすら、よくわからなかったように見える。
「………………それだけやねぇやろ」
だから、側にいてやりたい。
そう思う自分は、結局甘いのか。
「錦戸……………?」
「この前、おばさんから電話があった。もう酷い涙声でな…………お前が突然帰って来て、自分は男しか愛せない人間なんだ。貴方達の期待には添えられない息子なんだと言い出したて。俺に救い求めて来よったわ」
「あ………………」
戸惑う山代が、クスリと笑う錦戸の視界に入る。
「お前なりに、あの子を愛していく決意して来たんやろ?どうしても言われへんかったそこへ話すやなんて、よっぽどの事や…………苦しかったな。よう頑張ったやん」
「そんな事……………」
普通に生きていけるなら、とても恵まれた家庭だと言えただろう。
でも、我が子の将来を過度に期待する両親に囲まれ、自分を晒せなかった山代にとって、それは長年に渡る苦悩の日々。
半年に一度、親から送られて来る見合い写真。
山代が副社長になってからは、その行為に益々期待が重なる。
自慢の息子。
早く結婚し、早く孫を見て、幸せな家庭を築かせる。
それが一人っ子に課せられた親の夢だった。
だからか、余計に焦ってしまった。
大和だけが、自分の全てだと。
「多分、勘当だよ…………あの人達に、俺は受け入れられない。俺が話した途端、泣き崩れながらショックを露にしてたから」
「急ぐ事はねぇわ…………世の中開かれた言うても、まだまだ色んな見方がある。俺もおばさんに一言言うといたけど、ボチボチやろうや」
「一言…………て……」
それから、錦戸は黙りを通した。
両親に何を言ったかは、後日母親からの電話で知るのだが、山代は自分が一人ではない事をこれほど噛み締めた事はない。
錦戸なりに、親達の事も考えながら発した言葉に、母親もやや落ち着きを取り戻してた。
自分は、何を見ていたのだろう。
『おばさん………おばさん達が、どれほど山代を大事に育てられて来たか、僕には計り知れない事やと思います。受け入れてやって下さいとは、軽率には言えません。ただ、山代は僕の大切なパートナーです。どんな山代も、山代には変わりない…………彼なりに苦しんで来た事も知ってます。少しだけでもええ、彼の顔を真っ直ぐに見てやって頂けませんか?おばさん達の育てられた山代は、とても立派に今を生きています』
久し振りに、人目も憚らず電話口で泣いた。
「山代さん………っ」
そして、現在起きているこの状況。
大和は自分の想いを伝えるべく、山代の側まで歩み寄る。
後ろには、静かにそれを見守ってくれている、嵩原。
大丈夫。
ちゃんと伝えれば、想いはわかってもらえる筈。
「……………大和」
「山代さん、すみません!大切な書類、ちゃんと管理も出来ひんで…………」
「いや、それはもう………」
「そないなワケいきません。これは、山代さんが俺を心配してわざわざ調べてくれた物です。一番見られたらあかん嵩原に、見られてしもうて………お詫びのしようもありません」
「あのな……………」
呆れる嵩原の前で、精一杯頭を下げる大和が、大人達の心を揺らす。
スレたような素振りを見せて、心根はこんなにも真面目な少年。
「せやけど…………俺は、やっぱり嵩原が好きです。誰に何を言われても、嵩原が好きです…………おかんのした事も話し合いました。それでも、俺でええって言うてくれて…………俺でええ……て……やから、俺は嵩原を信じます。嵩原しかいないんです」
迷いのない眼差しのなんとも強い輝き。
恋とは、こう言うもの。
嵩原しかいない。
そこに、他人が入る隙間なんてもうなかった。
「だから、俺……………」
「ああ、もう十分だよ」
「へ……………」
「ごめんな、大和…………本当にごめん。酷い真似をして、本当にすまなかった」
「山代さ……………」
痛々しい顔が、自分の罪を教える。
山代は視線を上げる大和の頬へ手を伸ばし、赤くなった目尻をゆっくりなぞった。
「嵩原の言う通りだった………こんな顔をさせてまでする事じゃなかった………幸せになるんだよ、大和」
幸せになるんだよ。
そんな事を言う資格なんてない。
だけど、自然とそれが込み上げた。
「ありがとうございます…………ありがとうございます、山代さん!」
まだまだ寒い季節。
少年の笑顔に、大人達の心は緩やかに温もりを帯びる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
218 / 241