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男娼とヤクザ/シリーズ4(第22話)
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「なんや…………そないな事になっとったんか……」
貧乏クジを引いた上地が、誤解を解いてもらうまでにどれくらいかかっただろう。
路上で泣いている大和を、高橋が見付けてから約30分後。
三人の姿は、その事務所にあった。
テーブルには、高橋が入れてくれた珈琲。
大和は、これまでの事を高橋へ話しながら、ゆっくりと珈琲の注がれたカップを握りしめた。
まるで、手から湯気が出ているように見える、熱々の珈琲カップ。
それをじっと見つめ、肌に伝わる温もりに、大和の気持ちは少し落ち着きを取り戻す。
「よう頑張ったな…………大和」
「高橋さん…………」
しかも、久し振りに会う高橋は、やはり優しくて癒される。
隣にムッとした上地が座っている以外、何の問題もない。
「人の為に動ける言うんは、それだけお前の心が他人を思いやれる人間って事や。本気で愛した相手を諦めようなんて、よほどの覚悟がないと出来ひん……偉いわ」
「ま、嵩原は気の毒でしゃーないがな」
「上地…………っ」
ポロッと発した言葉で、また怒られる。
強面なのに、いかにも高橋の尻に敷かれている風な上地に、大和の口元は僅かに緩んだ。
一体、二人はどんな関係なのだろ。
高橋が珈琲を用意している時も、然り気無く上地が手伝っていた。
熱いお湯に火傷しないよう、やかんは上地持ち。
それを高橋は嬉しそうに任せてた。
恋人なのかな。
言いたい事をぶつけて、直ぐに仲良くなって、でも大人で……………。
嵩原と不釣り合いに見えた自分を思うと、とても羨ましくて憧れた。
「もうっ…………こいつの言う事は、気にするんやないよ。それより、これからどうするんや?」
「どうする…………?」
「娼夫は、止めるんやろ」
「え……………」
娼夫を、止める?
いや、それの前に嵩原の情夫を止めた自分に、早々に金を稼ぐ術はない。
金がなければ、また毎日の生活に困る。
どうする。
どうしよう。
大和は、先の漠然とした日々に思いを巡らせた。
「なぁ、大和…………前に話した事、覚えとる?」
「話……………」
「俺の所で働かへんかって、やつ」
「……………あ」
「以前は、これ以上甘えられへん言うてたけど………俺もな、最近忙しゅうなって来て、ホンマに人手が欲しいねん。事務所の仕事、手伝ってくれへんか?お前が手伝ってくれたら、俺も助かる。その上で、嵩原に謝ろうかとか………諸々じっくり考えていったらどうや?焦る事はないやろ」
「高橋さ…………」
哀しんだ心に染みる、有り難い心遣い。
まともに学校も出ていない大和にとって、職探しは至難の技。
大概が、履歴書で不採用が常。
それを承知でかけてくれた高橋の言葉は、何とも感謝に尽きる内容だった。
「…………確かに、焦って先走ったかて、ろくな事にはならへんわ。てめぇの人生は、てめぇで掴まんとな。チャンスは根こそぎ貰え…………何も遠慮する事ァねぇわ」
そして、それを後押しするような上地の話が、大和の気持ちを前へと押し出した。
何が出来るかは、わからない。
だけど、みすみすチャンスを逃がす馬鹿はいない。
温かな珈琲を口へ含み、大和は決意する。
自分で、自分の人生は切り開かなければ。
いつか、嵩原に謝りたい。
その時、少しでも大人になった自分を見せられたら、どんなにいいだろうか。
「たっ、高橋さん………っ」
「ああ……………」
顔を上げる大和に、高橋は笑顔で応える。
頑張ろう。
嵩原が心配しないような男になるんだ。
それから後、大和の就職先が決まる。
不慣れな仕事に四苦八苦しながら、高橋に教えてもらい、少しずつこなせていけるようになった、まともな仕事。
バーをもう一軒増やした高橋は、完全に裏方に回り、大和はそのサポートに勤しんだ。
どれだけの日が過ぎて行ったか。
忙しくて、考える余裕もなかった。
でも、どんなに忙しくても嵩原を忘れる事はなかった。
結局、好きは好きのまま時間だけが刻まれる。
「高橋さんっ…………ほな、支払い行って来ます!」
「大和、気ィつけてな」
「はい…………っ」
高橋と挨拶を交わし、元気にビルを飛び出す大和は、今日もそんな嵩原を思い出し一日を始める。
これがプラスになるように。
一日を始めるのだ。
「大和……………っ!」
新しい、一日を……………。
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