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伝説の男
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関西竜童会。
組員総勢二万を超える、言わずと知れた全国最大規模を誇る、トップofトップ。
組が動けば、国が動くとまで言われる程、ピリピリし始める。
その頂点に立つのが、組長、嵩原竜也。
まだ、36歳と言う若さだが、極道の世界で知らない者はいない、最年少で組長にのし上がった伝説の男。
数多くの男が憧れる、顔良し、器良し、力良し。
そんな、パーフェクトに思える男の、唯一の欠点?
それは、組長らしからぬ、超マイペースさ。
「なぁ、大和………………キスしてええ?」
お天道様が真上に立つ、真っ昼間。
オシャレなカフェの片隅で、周りの視線を独占している男前は、一人惚けた事を口にする。
嵩原竜也、その人だ。
「うっさい……………メシの邪魔」
そして、それをピシャリと突っぱねているのは、嵩原の最愛の一人息子、竜童会若頭、嵩原大和。
嵩原一番の側近だった高橋を右腕にし、僅か17歳で若頭にのし上がった、これまた異端児。
母を幼くして亡くした大和は、この父親から溢れんばかりの愛情と、人としての厳しさを教え、与えられて育てられてきた。
それがつい最近、溢れんばかりの愛情は掬う間もなく溢れだし、大和をあっという間に飲み込むと、イケナイ関係へと結ばれた。
まさに、嵩原の愛し勝ち。
「えー、ええやん。出掛ける時、チューしてへんし」
「昨日の夜、散々したやろ!俺を、窒息死させる気か…………っ。てか、一緒に出掛けてるし!」
しかも、その愛、無限大。
密かに、ずっと息子を愛してきた、嵩原の愛。
モテモテな人生のどんな愛も受け入れず、ただひたすら一途に片想い。
許されないと耐えていた恋が、この度、まさかの成就。
マイペースな男の我慢は、見事に弾け飛んだ。
「…………………え?ほな、俺が人工呼吸したるって、どんな?」
「意味ないわ……………!」
「前は人工呼吸したる言うたら、嬉しそうにしとったくせにいィ」
確かに、二人が結ばれた夜……………そんな会話もしましたね。
「あ…………あれは、その場の雰囲気がやな…………」
まじまじと自分を見てくる父親に、大和は顔を赤くして口ごもる。
「雰囲気が……?ほな、また雰囲気作りに行くか?」
「行くかっ!………………て、どこ行くねん!俺は今日、久々に服買いたいんや………っ」
ええ、これが伝説の男です、一応。
毎度の事ですが、どちらが子供か、わからない。
「ぶーっ、ケチ………………まあ、服は好きなだけ買うたるけどな」
「ケ、ケチってな……………ガキか。それに、服は自分で買うからええ」
よく、この人の子供やってると思います。
大和は、手にしたフォーク……………いや、匙を投げそうになるのを、グッと堪えた。
実年齢36歳、見た目二十代。
でも、その中身は……………何歳ですか?
「アホ言え、甘やかす気はないけどもやな………………デートの時くらい、俺に株上げさせろや。こないな時しか、お前にサービスしてやれへんやろ?」
「デ………………………」
デート、なんや………………これ。
綺麗な笑顔をさらし、真っ直ぐに熱い眼差しを向ける父親に、大和は赤い顔を一段と赤くした。
本当に、窒息しそう。
「…………………愛しとるよ、大和…………………お前が目の前におってくれるだけで、俺は何もいらん。充分過ぎる程、幸せや」
嵩原は、惜しむことなく愛を捧げる。
大和が幼い時から、事あるごとに口にして来た愛の言葉。
今それに、親子以上の愛が含まれた。
「お…………………親父………………」
息子は、こんな不意打ちに、全身がとろけそうです。
熱い顔へ手を当て、大和は思わず俯いた。
「も……………………熱出るわ……………」
でもこれは、医者には治せない。
「……………………やっと、見つけましたよ、親父(怒)」
そんな二人のラブラブ空気を遮る、何やらトゲトゲしい声一つ。
「…………………え?」
珈琲カップ片手に、振り返る嵩原の目に止まる、怒れる一人の男。
「あれ、錦戸………………」
はい、錦戸です。
嵩原の現在の右腕、錦戸が、顔を引きつらせて立っていた。
「『あれ』やないでしょ、親父。今日関西から、藤原さんが来られはるから、マンションにおって下さいと、あれほど言うてたやないですか………………何しとんですか(怒)」
そう、竜童会も関東に進出を始めてから、数ヵ月。
若頭大和を中心に活動させていたが、フラッと?嵩原もこちらに来てからは、関西は残りの幹部達で保たれていた。
藤原は、その一人。
関西での事を報告するため、今日嵩原へ会いに来ると言う。
「ああ………………何か、そないな事言うてたかな?」
「ああって!!毎度々、ええ加減にして下さい!親父は一人の身体やないんですよ!勝手にフラフラして………………どんだけ周りを振り回したら気が済むんですっ」
自由人、嵩原。
常に周りを振り回す。
「相変わらずやな…………親父。俺でも、出掛ける時は、高橋にちゃんと話通すで。そら、親父が悪い」
「なっ……………大和、お前までそんな………」
「若、よう言うてくれました。もっと、言うたって下さい」
伝説の男に、味方なし。
こんな時は、いつもやり玉に挙げられる。
と言うか、やり玉に挙げられるような事を、しでかしているのだから、仕方がない。
「しかし、錦戸…………………お前、何でここがわかったんや?」
関西人には、なかなか馴れない都会の雑踏の中、そんなに急に見つかる筈はない?
嵩原は錦戸見上げ、首を傾げた。
「フフ…………………親父、私も親父の右腕になって、2年は経ちました。いつまでも、親父に振り回されるだけやないですよ?」
嵩原の素朴な疑問に、錦戸は顔をニヤつかせ、スマホを取り出した。
「…………………なんやそれ、スマホ?」
「GPSです…………………」
「…………………………はい?」
「親父は今、GPSで監視されとります」
ええ…………………っ!?
嵩原、どうやら本当に、子供レベルへ成り下がったらしい。
「ジ…………GPSって!?いつの間にっ」
「親父…………………親父は、スマホのロックを、どこでも平気で解除してはるでしょ?見る気のうても、目の前でやられたら、覚えます。この間、親父がスマホ転がしてはったんで、設定させてもらいました。………………解除したら、許さへんですよ?」
「は……………………」
ヤクザで、組長で、伝説の男が、GPSで監視される。
それも、身の安全を守る為でなく、フラフラし過ぎるから。
「ぶっ…………………ウケる……………」
唖然とする父親の横で、大和はお腹を押さえて笑いを堪える。
「親父………………やっぱ俺、今日は自分で服買うわ」
「大和ぉ…………………っ」
初、デートやったのに………………!
「時間ありません、早ようして下さい…………親父」
ショックを受ける嵩原の目に、錦戸が鬼に映る。
いえ、自業自得です。
「……………………はい」
伝説の男。
それは、突っ込みどころ満載の、一途で不思議な、一人の恋する男。
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