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ちょっとだけ、昔の話(嵩原、大和編)
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自分のガキが、15で刺青を入れる。
親の顔を、見てみたい。
「……………………ホンマ、見てみたい……………」
嵩原は自室のソファに寝転がり、煙草片手に、大きな窓から空を見上げて、ポツリ。
「て、俺やんか………………!」
誰もいないので、とりあえず一人突っ込み。
この時、嵩原34歳。
関西ヤクザ組織の組長の中でも、一番若くて男前、夜の街へ繰り出せば、多くの女達から声がかかる。
そんな色男嵩原が、ここ数週間、出歩く元気も奪われていた。
「はぁ……………………大和の、どアホ」
そう、可愛い我が子の暴走が原因で。
約1ヶ月前、大和が突然刺青を入れて帰って来た。
今までも、色々問題は起こしていたが、嵩原は人生初、息子を殴った。
そして、自分を責めた。
妻を亡くした時よりも、木瀬を失った時よりも、胸が痛くてたまらなかった。
自分が、悪い。
そう思ったから。
「…………………辛いの………………」
誰よりも、幸せを願った子なのに…………………。
「俺のせいや……………………」
よりによって、自分と同じ道。
嵩原は目蓋に腕を乗せ、今日何度目かわからない溜め息をつく。
「大和さん、また喧嘩されはったんですか?」
…………………………あ?
廊下に響く、高橋の呆れた声。
「もう…………………直ぐ手当て致しますから、お部屋でお待ち下さい」
バタン………………………
大和の返事が聞こえないまま、ドアの閉まる音。
「大和の奴、また組員とやりよったんか………………」
大和の勝手を、嵩原は特別扱いはしなかった。
自分の下で頑張ってくれている組員達を想って、あえて我が子へ厳しく接した。
そんな大和に対して、組員達がキツく当たっているのも知っている。
心配でたまらないが、嵩原は懸命に耐えていた。
「もう…………………身体、大事にせえよ……………」
そう言って、嵩原は灰皿へ煙草を潰し入れる。
最近、煙草の量が、やたらと増えたな…………………。
ガチャ……………………………
「高橋………………………」
「………………………親父」
救急箱を持って、大和の部屋から出てきた高橋を、嵩原が呼び止める。
「大和、喧嘩か………………?」
「あ…………申し訳ありません。私がいながら…………」
高橋は咄嗟に頭を下げ、自分の目が行き届いてない所を詫びた。
「お前のせいやないわ…………………どうせ組員らも、お前がおらんのを見計らって、大和に手ぇ出しよるんやろ?上手う返せへん、大和が悪い」
と言っても、まだ15歳。
ヤクザ相手に、上手く立ち回れる筈もない。
「………………………大和、部屋か?」
嵩原は、2つ先の部屋のドアを見つめ、おもむろに高橋へ訊ねる。
「…………………はい………………」
そんな嵩原に、高橋は目を細めて答えた。
コンコン……………………
「大和………………………入るで?」
一応声をかけ、嵩原はドアを開ける。
「……………………もう入っとるやん」
開口一番、屁理屈が飛んでくる。
「なんや、負けてふて寝か?」
嵩原が部屋に入ると、大和はベッドに転がっていた。
顔にはデカい絆創膏と、Tシャツの袖から覗く腕は、軽く包帯を巻いている。
「…………………負けてへん。今日は、勝ったし」
「相手は、何人や」
「3人……………………藤原の下の、北川とか言う奴ら」
へえ………………………。
ヤクザ相手に勝ったんか………………15のガキが。
嵩原は、口元をほんの少し緩めた。
「……………………ダッサイの。相手が誰であろうと、喧嘩すんなら、顔を汚さずやれや」
でも、厳しい。
何せ、お父ちゃんは、強いから。
「悪かったな!!親父みたいに強うのうて!次は、手なんか出ささへんわっ」
大和はベッドから起き上がり、父親を睨み付けた。
多分、これが高橋なら、こうはならない。
何とも、思春期の男子と父親は、難しい。
お互い、『男』が先をいく。
「なら、そうせえ……………………お前は、俺の子や。必ず、強うなる」
「親………………………」
自分を見下ろし、ハッキリと言い切る父親の姿に、大和の顔はみるみる赤くなる。
嬉しい。
なんだか、ちょっぴり父親に、認めてもらえた気がする。
「………………………踏ん張れや、大和」
嵩原は、ベッドに座る大和の前にしゃがみ込み、刺青事件以来、初めてちゃんと声をかける。
「お前の選んだ道は、もう後戻りは出来ひん。高橋かて、お前の為に批判を背に受けても、前を向いとんねん。一人だけの人生やない……………………辛い時程踏ん張って、男の根性見せつけるんや」
本音を言うなら、いまだにヤクザにはさせたくはない。
愛する我が子だ。
何が悲しくて、酷な道を歩かせる。
それでも、必死にすがり付く息子を見てると、つい言葉が口をつく。
「俺は組長やから、お前だけを贔屓にはせえへん。その代わり、お前をいつも見とる……………誰よりも見とるから、お前を笑うた連中を、絶対見返したれ」
絶対。
自分だって、息子がヤられっぱなしは、腹が立つ。
結局、男親は、勝負にこだわる。
「……………………親父………………」
この日以降も、嵩原が大和を特別扱いする事はなかった。
自分の知る範囲で、大和がどんなに馬鹿にされていても、決して口は挟まない。
大和の全てを、高橋に一任した。
どれほど辛くとも、嵩原は一人耐えた。
組長の立場と、親の立場。
2万を越える組員がいる竜童会。
嵩原は、組長である事を取ったのだ。
そして、もう一つ。
これ以上、息子へ近付いてはならない。
この時期既に、嵩原の目は、大和への恋心に苦しんでいたから。
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