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上地と嵩原
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言わずと知れた、ヤクザ世界のツートップ。
そして、想い人と想われ人。
上地は、22年嵩原へ片想いし、嵩原は、それを知りながら(最近知らされた)、変わらない姿を貫く。
なんとも焦れったく、ある意味酷な現状。
「上地ぃ~!呑みに行こうやぁー?」
自由人、登場。
上地のホテルへ出向き、嵩原、呑みのお誘い。
「………………………出た」
丁度、外出先から帰って来た上地と幹部数人。
ロビーで待っていた嵩原を見付け、幹部が思わず口を揃える。
関東に来てから、上地と嵩原はよくつるむ。
つるむと言っても、毎回嵩原から絡んで来る。
どんだけ、フリー!?
竜童会の奴等は、何しとんねん!!
幹部達は、心の底からそう言いたい。
(いや、監視しても、嵩原脱走………………その後、錦戸に叱られる)
「呑みにて…………………何処行くねん。俺は、今帰って来たばかりやぞ」
しかも、上地はこの自由人に対して寛容である。
「え?何も考えてへん…………………美味い酒呑みたいだけやし………………………あかんか?」
「美味い酒ね……………………まあ、ええけど」
疲れた身体を表に出さず、嵩原に付き合ってやる。
「いつも思うけど、信じられんな…………………ウチの親父が、付き合わされとる」
「俺らやったら、まず殺されるわ」
嵩原竜也だからこその、特権。
呆れる幹部達を尻目に、二人はその足でホテルを出て行く。
それを見て、幹部達が慌てて護衛に付く。
つまり、嵩原が現れると、自然と周り全体が振り回される。
「いつもありがとなー。お前らも好きなだけ呑み食いしてやー、なんぼでも俺が奢るさかい。こんな時くらい、楽しまんとな♪」
でも、嵩原のこの一言と、見とれるような笑顔を振り撒かれ、不思議と幹部達も腹は立たない。
愛される男は、憎まれない。
「なぁ、上地ぃ…………………」
ちょっと粋な小料理屋の個室。
金目の煮付けや、氷に盛られた刺身を座卓に並べ、嵩原はおもむろに口を開く。
「なんや…………………何かあったんか?」
何かあった。
22年、近からず遠からず、微妙な距離感を持っていた二人。
お互い組のトップを長く務め、それなりに同じ様な経験を積んできた。
その日の酒が、どんな酒くらいかは、自然とわかる。
ちびちびと冷酒を口にする嵩原を見つめ、上地は嵩原だけに見せる優しさを表に出す。
「ん…………………何かって訳やないけど……………お前、片山に組長譲ったら………………後どないすんねん?」
「あ………………?どないするて………………」
今更、堅気になれる訳でもなく………………。
上地は座卓の上に置いた煙草を手に取り、一本を口へと運ぶ。
「まだ、若いやろ?気ィ抜けて、死んだりせえへんよな?」
死ぬ…………………?
少し上目使いに此方を見てくる嵩原の姿が、やけに可愛らしい。
思わず笑いそうになるが、上地は頑なに表情を保ち、煙草へ火を点ける。
「お前…………………俺に死んで欲しいんか?」
ただ、わざと意地悪言ってみたりして。
「んなワケないけどっ……………いや、俺も上手ういけば、あと数年したら大和に組長譲るやろ?一気に暇になるでなぁ………………と、思うてな」
ずっと忙しくて、沢山の組員に囲まれてきた生活。
新しい組長が立てば、嫌でも周囲はそれに合わせて動き出す。
良くも悪くも、騒がしさからは解放される。
「ま………………心配せんでも、お前は暇にはならん。竜童会には、お前を慕う連中ばかりや……………組長を退いたから言うて、誰も放ってはおかへんわ」
「そーやろか?」
「……………………そうや」
自分だって、きっと一生、嵩原を忘れられない。
今でも、こんなに……………………。
冷酒を呑み干し、刺身へ箸を付ける嵩原を見ながら、上地は煙をゆっくりと吐き出す。
「……………………せやけど、俺はわからんな」
「はい……………………?」
「お前と違うて、俺には敵が多い。護衛するもんも減ったら、いつ殺られてもおかしゅうない」
「………………………上地」
冷酷に、強引に、躊躇うことなく、自分はこの道を突き進んで来た。
恨んでいる奴は、山ほどいる。
「………………お前が言うように、死ぬかもしれん」
自分が犯した罪は、結局は自分が償うしかない。
それは、祐を失った時から、一層と自分に刻まれた。
「アホ抜かせ…………………お前が死んだら、誰が俺の我が儘付き合うてくれんねん。側近らは、皆俺に手厳しいんやからな」
「そら、お前が勝手し過ぎるからやろ。俺は責任がないさかい、付き合うてやれるだけや…………………それとも、俺が死んだら寂しいんか?」
「え……………………?」
寂しいんか。
自分は、寂しい。
嵩原を、見られなくなってしまうと。
見られないくらいなら、さっさと死んだ方がマシ。
「……………………当たり前やろ。近しい人間を失うんは、辛い。それが、例えお前でも一緒や………………もう、人が死ぬんを見るのは嫌や」
自分から目を逸らし、哀しい記憶を辿る嵩原の顔が、たまらなく愛しい。
その綺麗な瞳が、自分へ向けられないとわかっているのに、突き放せない自分がいる。
上地丈一郎が、男に溺れる。
何とも滑稽で、何とも笑えない。
それでも、熱は益々心を焼き尽くす。
「なら……………生きとったるわ。みっともない姿をさらそうと、お前がいらん言うまで、生きとったる」
上地は煙草を加えたまま、僅かに口元を緩める。
お前が、好きや。
心の中で、幾度となく、そう呟きながら。
「は…………………も、どんだけ俺が好きやねんなっ。さすがに照れるわ………………っ」
「照れとるお前も、えらい可愛いけどな」
「だーっ!恥ずかしいって……………!その顔で言うな………………ボケッ」
光と闇。
相反するように見られてきた二人は、案外仲が良い。
「言うとくけど、今日はチューも何もせえへんからなっ!」
「何や、ないんか?」
「当然やっ!そないにいっつも奪われるか…………っ」
嵩原、貞操危機?
それでも、上地とつるんじゃう。
組長同士。
結構、貴重な存在なのだ。
「まあええわ…………………ほれ、もっと酒呑めや。美味い酒呑みたい言うてたやろ?」
「あ………………悪意を感じる………………!」
今宵もまた、楽しい酒が場を酔わす。
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