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山代と佐々木
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中々恋の成就しない『恋愛男子』において(ヒドイ話だ(--;))、ベスト3には入る、切ない恋な気がします。
山代組組長、山代には、時間がない。
生まれつき心臓の弱い山代が、あとどれくらい生きられるか、それはわからない。
名医が見つかれば助かるし、間に合わなければ………27歳の人生は終わりを告げる…………かもしれない。
そして、その山代を全身全霊で支える男がいる。
山代組若頭、佐々木だ。
若い時から、先代に仕え、山代が跡目を継いでからは、若頭へと成長した。
もうずっと、山代を一途に愛す。
山代の大和への想いを知っても尚、佐々木の全ては山代の為にある。
「今日は、お顔の色がいいですね」
朝の爽やかな風が頬をかすめる、午前の柔らかな日差しの下。
広縁で身体を休める山代に、佐々木が笑顔で話しかける。
「…………………………佐々木」
後ろの障子にもたれ、山代はお盆を手にする佐々木を見上げた。
「お薬、お持ちしました。ここで飲まれますか?」
山代の側へ膝をつき、佐々木はゆっくりとお盆を広縁の上で滑らせる。
「ありがとう…………………いつも悪いな………………ここでいいよ」
綺麗な顔立ちの表情を緩め、山代は佐々木の差し出すコップへ手を伸ばした。
「あ………………………」
細いガラスコップに、ゴツい佐々木の手。
コップを取ろうとした山代の指が、嫌でもそれと重なる。
佐々木は、思わず声を漏らし、山代へ目を向けた。
「も、申し訳ありません………………私の掴んだ所が悪かったです…………………」
「クス…………………大丈夫だよ。こんなの、気にするような事じゃない」
そう言うと、山代は佐々木の手を覆うように、コップを受け取った。
「佐々木の手………………男らしいな…………………俺とは、全然違う」
「組長……………………」
自分の手を、確かめるように滑る山代の指先に、佐々木は言葉に詰まる。
細く長い、山代の指。
なんて、美しいのだろう。
その手に触れてもらえるだけで、幸せだ。
佐々木の毎日は、こんなささやかな幸せで埋められる。
「ごめん…………………つい、羨ましくて…………………俺も、男らしい手になりたいな………………」
「そんな事……………………指は細くとも、組長は武道に長けておられます。とてもお強いではないですか」
決して、華奢ではない。
背も高く、体調が良い時は、自ら身体を鍛える。
山代は、身体が弱いなりに努力をしていた。
だから、均整がとれ、端正な顔立ちの外見は、病が嘘のようにも思えた。
山代自身が、気付かれない様に耐えていたのもあったが、そのせいで、大和も今に至るまで全く気付かなかった。
「………………………強くても、今がこれじゃ意味がない。若頭の、何のお役にも立てん………………」
佐々木からソッと手を離し、山代は静かに薬を口にする。
若頭。
口を開けば、山代はそれを言う。
まるで、籠の中の鳥のよう。
毎日同じ庭を眺め、毎日同じ薬を飲み、毎日変わらない世界に身を投ず。
そんな毎日を過ごしていると、自然と考えるのは好きな人の事ばかり。
「……………………何、言われてるんですか…………………組長は、息をされてます。愛する方の事を想い、そのお役に立ちたいと、希望を持たれてる。これからです………………………これから、まだ未来は開けます」
自分は、ただの山代組若頭。
同じ若頭でも、嵩原大和とは全く違う道を行く。
佐々木は、自分へ向くことのない山代の瞳を見つめ、少しでも元気付けようと言葉を紡ぐ。
「佐々木……………………でも、もう俺は…………………」
「開けます!必ず、必ず開けますから……………………前を…………前を、向いて行きましょう…………………」
自分から離れた山代の手を握りしめ、佐々木はそこへ額をつけるように頭を下げた。
「諦めたら終わりです……………………若くても、この組を引っ張って来られた、組長らしくない……………………私の………………私達の組長は、誰よりも美しく強いお方です。どうか………………どうか、前をお向きになって下さい…………………っ」
その為なら、我が命も惜しくない。
この世に神様がいるのなら、私の命を持って行って下さい。
佐々木は山代へ語りかけながら、心の中でそう願う。
「……………………………佐々木」
何も要らない。
この方が生きて行かれるなら、何も。
「ごめんな………………………お前の気持ちに応えられなくて………………………」
「組……………………っ」
わかってる、山代も。
こんなに自分を想ってくれる、佐々木の気持ちは。
それでも……………………。
「それでも、どうしても燃やし尽くしたい。どうせ長くないのなら、余計に………………………最後の我が儘を、貫きたいんだ」
小さな希望。
例えそれが、実りのないものだとしても…………………残る時間を、好きな人の為に使いたい。
「そんな事…………………気にしていません」
欲を言えば、キリがない。
欲を言えば…………………。
だが、そんなものは、儚い命の前には、ただの贅沢でしかない。
「組長が、笑顔でいて下さったら、それだけで充分です……………………」
佐々木は山代へ頭を下げたまま、唇を噛み締める。
辛い顔は見せたくない。
山代に悟られないよう、深く息を吐くと、自分へ気合いを入れる。
「…………………今日は、何か美味しいものでも用意させます。ご夕食、何がよろしいですか?」
笑顔で顔を上げ、佐々木の願いの込めた一日が、また始まる。
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