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刺青
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今更ですが、ちょっと真面目な話。
彼らの背中には、ヤクザの象徴的な刺青がある。
彼らはそこへ、強い誇りを纏い生きている。
中でも、私が好きな刺青は、やはり嵩原です。
本編でもよく出て来ますが、関西の有名な彫り師坂上が、若い嵩原に惚れ込み無償で彫った刺青。
ヤクザ達が、どんなに頭を下げても彫ってくれない坂上自ら申し出た事は、この世界では有名な話。
それはもう、立派で、坂上の人生で渾身の作。
それを見る事が出来た者は、誰もが息を飲む。
不動と言われる嵩原の、まさに象徴。
そして、そんな嵩原が坂上に頼んで彫らせた男がいます。
はい、高橋です。
さて、『高橋・愛』な春様、高橋の刺青は何なのか、ご記憶にありますか?……………笑。
本編に一瞬出ました。
今日は、そんな二人と刺青の話を少し。
ガチャ…………………………
「…………………………親父」
中国マフィアとの争いから数日後。
自宅にいる高橋の元へ、嵩原が訪れた。
「コレ、一緒に呑まへん?」
差し出す手には、高橋の好きな焼酎。
え……………………?
それから、高橋はクスッと苦笑い。
「……………………有り難うございます。では、グラス用意致しますね」
多分、見舞い…………………の、つもり。
それがわかるから、高橋も笑顔で受け入れる。
こんな所は、まどろっこしくも、可愛い。
「…………………花崎、おらんのか?」
大和のマンションよりはやや狭い、部屋。
それでも部屋の中は、高橋らしい無駄のない、整理整頓の行き届いた広いリビング。
家賃だけでも、ゥン十万。
大和が、高橋の為に選んだ。
「ええ…………………さっき、伊勢谷が来て、出掛けました。案外、馬が合うんかもしれませんね」
「そうか…………………そらええな」
高橋の言葉に、目を細める嵩原。
身寄りのない花崎と、親に捨てられた伊勢谷。
目をかけていた組員が仲良く出来るなら、それにこした事はない。
親の様な気持ちで見守っている嵩原には、嬉しい情報。
それから、少し視線を流すと、テーブルの上に、包帯やガーゼが置かれている。
マフィアとの一戦で、自分で腕を犠牲にした高橋。
まだまだその痛みは、高橋を不自由にさせていた。
「なんや…………………包帯替えるとこやったか…………」
「あ……………ああ、後にしますから、大丈夫です」
高橋は、棚からバ○ラのグラスを取り出しながら、嵩原と呑む準備をする。
お互い、ロック。
しかも、強い。
ロック用の綺麗な氷と、グラス、それさえあれば何も要らない。
「俺が、巻いたるわ」
「………………………はい?」
嵩原はグラスを並べる高橋の手を掴み、優しく引き寄せる。
「一人じゃ、巻きづらいやろ?服、脱げや」
服、脱げや。
高橋へこんな命令が出来るのは、嵩原くらい。
しかも、嵩原がそれを言うと、さすがの高橋もちょっとドキッとする。
「では…………………お願いして宜しいですか?」
高橋は長袖のTシャツの裾を捲り、滅多にさらす事のない肉体を露にする。
厚い胸板に、鍛えられた美しいライン。
でも、その片腕には、痛々しく包帯が沢山巻かれ、怪我の大きさを教える。
「痛々しいな…………………」
高橋の腕にソッと触れ、嵩原は哀しそうに視線を落とす。
嵩原と、高橋。
二人には、二人にしかない関係がある。
嵩原がそんな表情をすれば、高橋は頑張って笑みを浮かべる。
「……………………でも、親父が来て下さいました」
「あ………………………?」
「それだけで、私は幸せでした」
組の組長が、身の危険を省みず、自分を助けに来てくれる。
これ以上の幸せが、どこにあろうか。
自分は、大切にされている。
そう思わせてくれる嵩原に、感謝しかない。
「……………………アホ、こっちは命が縮んだわ」
「はい、申し訳ありません。そこは、お詫びのしようもありません………………」
呆れる嵩原の顔が、僅かに緩む。
それを見れた瞬間が、高橋は嬉しくて、好きだったりする。
嵩原の最高の右腕。
いまだに、互いの胸にそれは潜む。
「…………………………痛かったら、言えや?」
静まり返ったリビングで、嵩原は丁寧に高橋の包帯を取り替える。
痛くても、言わない。
高橋は、そんな男だ。
だから嵩原も、口ではどう言おうと、その手先はとても優しかった。
それが、また高橋の心を締め付ける。
「勿体ない…………………そないに優しゅうしていただけるだけで、充分です。結局、親父にはご迷惑ばかりお掛けして……………………」
自分の人生に、嵩原がいなかったら………………きっと、今頃人知れず無惨な死に方でもしてるだろう。
嵩原がいなかったら。
いつも、最後には助けられる。
嵩原の強さに、高橋は静かに頭を下げた。
「そう思うんやったら、たまにはタメ口で話せや」
「…………………………は?」
「昔みたいに、対等なお前が見とうなる………………今の俺には、そんな奴はおらんからな。高い所に行くと、堅苦しゅうてかなわん」
「親父……………………」
チクリ。
寂しそうな、嵩原の姿。
高橋は、腕を掴む嵩原の手を握り、顔を近付けた。
「………………………すみません……………………つい……」
つい。
上に立つ嵩原が眩しくて、跪いてしまう。
嵩原ほど、素晴らしい組長はいないから。
これから先、大和がそこへ行くだろう。
嵩原が王の座を降りるのも、見たくはない。
しかし、大和を天辺にのし上げたい。
高橋の胸の中に、複雑な感情が交差していた。
「つい……………………ついって言われたら、何も言えへんな。それが根付いてしもうた、言う事やし……」
目を伏せる高橋の頬へ手を添え、嵩原は笑顔を浮かべた。
「ま、お前は大和の隣で笑っとんのが、よう似合うとる…………………今更か」
「……………………すみません」
二度目のすみませんと共に、高橋も笑う。
大和を愛すまで、ずっと嵩原が好きだった。
今でも、やっぱり好きだ。
色んな意味で、好きだ。
嵩原に会えて良かった。
それしかない。
「お………………そう言や、久々に見るなぁ……………お前の刺青…………………」
嵩原は包帯を手に持ち、その先にチラッと見えた背中へ首を伸ばす。
「え、あ…………………ですね。昔はよう、暴れた後に親父の前で着替えとりましたけど、最近は全くのうなってしまいましたから」
二人で暴れるだけ暴れ、嵩原の家に帰り、シャワーを浴びて服を着替える。
若かれし二人には、毎度それがフルコース。
本当に、仲の良い同志だった。
「………………………これだけは、親父以外には見せとりません…………」
「…………………………高橋」
「親父にいただいた、大切な宝物。親父の許可のう、他人には見せられへんのです」
高橋の背中に描かれた、目を惹く刺青。
ヤクザの道を目指すと決めた時、嵩原が名彫り師坂上にそれを依頼した。
般若の画。
様々な謂れがあるが、嵩原は般若の意『真実の知慧』……………事実を把握し、悟る知的さ、恐ろしい面の中にある美しい姿に、高橋を重ねた。
これまでも、嵩原の高橋への特別な情は見て取れたが、刺青もまた、高橋だけに与えられた嵩原の愛情の現れだった。
高橋は嵩原を見つめ、その愛情に応えるかのように、想いを口にする。
「え………………………じゃあ、お前………………女とか抱いてへんのか!?エッチする時、どないしてん?」
いや、そこ?
モテ男高橋の夜が、嵩原は気になっちゃいました。
「もう…………………そこ、気にします?」
「気にするわ……………………刺青のせいで性欲抑えてたら、俺、申し訳ないやんか………………」
まあ、確かに。
高橋だって、まだまだ身体は魅惑的。
断欲なんて、可哀想。
「言いません……………………そないな事、親父には関係ないし。内緒です」
「えぇ………………………」
こんな所も、嵩原。
「可愛く見えてしまうから、困ったお人や……………」
高橋は呆れ気味に呟きながら、顔を綻ばせる。
横目で見れば、嵩原はまだブツブツ言っている。
天下の組長が、一組員の夜の心配までするなんて…………………それも、真顔で。
吹きそうになる。
「ほな、親父が世話して下さいますか?」
「世話……………………?」
「はい。………………………夜の」
「へ…………………………」
夜の。
夜……………………高橋の?
みるみる顔を赤らめる嵩原の、純粋さ。
これ、責任感じてるよな?
ああ、弄りがいがあり過ぎる。
「お……………俺が、お前の…………………」
「冗談です………………………見破って下さい、それ位」
「高橋ぃ…………………っ!」
二人きりだから出来る、ちょっとしたおふざけ。
長い付き合いは、程よい心地よさを築いてる。
「……………………でもま……ぁ………………嬉しかったわ」
そんな和む空気に、嵩原は華を添える。
「嬉しかった……………………?」
「お前が、そないに刺青を大事にしてくれとったん、知れて………………………」
「……………………親父…………………」
「離れても…………………お前への大切さは、何も変わってへんからな」
何も。
素敵な笑みと、止めの一言。
「…………………………はい」
私も、変わってません。
嵩原竜也に出会えた悦びは。
高橋の毎日は、また嵩原家の為に、尽くす事から始まる。
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