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山代と、背中
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私、山代はあまり好かれてないかな………と、勝手に思っていました。
ええ、失礼な奴です。
読者様から叱られました…………笑。
完結に近くなり、皆様からチラホラ山代への優しいお言葉をいただきました。
本当に、ありがとうございます。
これは、完結後の山代です。
風が、爽やかさを増す日。
周りは緑に囲まれ、先を見渡せば、綺麗に整列された墓石と、お寺の本堂が望める。
「……………………佐々木、ただいま」
ラベンダーの香る線香と、美しい花々。
そして、墓前で手を合わす姿も綺麗な、山代。
今日、山代は佐々木へ病の完治の報告に来た。
立派な山代家の墓石の隣に新しく造られた、佐々木の墓。
身寄りのない佐々木の為に、山代が用意した。
ずっと隣に。
山代の、最後の恩返し。
「佐々木の奴………………泣いて喜んどるわ」
手を合わす山代の後ろから、聞き慣れた関西弁。
「…………………若頭…………………」
振り返る山代の目も、自然と細くなる。
今日は、大和も一緒に墓参り。
久々の二人きり。
山代が墓参りをすると話したら、大和が付いて行くと言い出した。
佐々木に、喜多見組の話をしたいと言う。
そんな心遣いが、然り気無くて嬉しい。
若頭、佐々木は若頭のお心遣いにも喜んでます……。
山代は大和を見つめ、自分の気持ちに佐々木の想いを重ねた。
一組員の為に、一万の兵を動かした。
大和の気持ちの強さに、頭が下がる。
「行こうか、山代…………久し振りに、昼飯食おうや」
晴れ晴れとした青空を見上げ、大和は天高く背伸びをしながら、山代へ話しかける。
「……………………ですね。では、美味いすき焼きでもいかがですか?」
「肉ぅ~!?行く行くーっ♪」
若い肉体には、堪らない餌。
微笑む山代を見て、大和はテンションを上げる。
至福の時。
叶わない恋だとわかっていても、愛する人の側に戻って来られた。
病が治らないだろうと、諦めていた山代の人生。
最期は、愛しい大和の為に散ろうと考えた。
まさかそれを、佐々木が先にしてしまうだなんて、思ってもいなかったが、この命は佐々木に守ってもらったようなものだと、山代は思っている。
『行くな……………………佐々木……………』
山代の脳裏に、いまだこびりつく佐々木との別れ。
行くな。
初めて自分の命令を無視した佐々木の背中が、果てしなく遠くに感じたあの夜、佐々木は逝った。
自分が、止められていたら…………………。
山代の生涯で、最大の後悔である。
「………………………また来る、佐々木」
佐々木の墓へ目を向け、山代は佐々木の大好きだった笑顔を振り撒く。
美しく、品があり、華やか。
笑っていよう、佐々木の為に。
山代は佐々木に声をかけると、自分を待つ大和の方へと歩み寄った。
若頭と、てっぺんを…………………。
佐々木の言葉は、自分の信念となる。
「……………………刺青、入れましょうか………………」
空を飛ぶ鳥に視線を流し、山代はおもむろに呟いた。
「え……………………」
少し驚いた様に、大和は山代へ首を振る。
刺青。
自分は長くないと思っていた山代が、入れる事の出来なかった、ヤクザの象徴。
これからは、後悔のない道を。
山代の心に、強い決意が生まれていた。
「若頭………………私の絵、決めてもらえますか?」
「お…………………俺が………………?」
そんな大事な事…………………。
大和は指で自分を示し、事のあまりの重大さに返事に戸惑った。
一生、背中に刻まれる、画。
自分なんかが、決めて良いのか?
さすがの大和も萎縮する。
父、嵩原が高橋へ捧げたのとは、訳が違う。
まだ、自分は駆け出し。
それが出来る器ではないと、大和は理解してる。
「若頭に決めて欲しいんです………………これからの私は、より若頭と険しい道を共にする覚悟ですので」
「……………………山代………………」
遠くで、鳶が鳴いている。
空に広がる晴天のように、山代の表情も清々しく輝いていた。
清々しく。
大和が気に入って、自分の元へ引っ張って来た、山代。
期待通りに優秀で、先が頼もしい存在。
新しいコンビの誕生である。
「……………………わかった…………………俺が、決める」
「はい…………………ありがとうございます」
真剣な大和の眼差しと、嬉しそうな山代の笑顔が、先の未来へ風を起こす。
亡き同志の志を胸に。
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