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両手に、側近(後編)
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『若の隣は、私のものです』
真っ直ぐに自分を見ながら、高橋は言った。
そんな事、高橋に言われたら……………………。
高橋に。
「た……………………高橋……………………」
大和、撃沈。
真っ赤な顔で俯き、高橋の手を受け入れる。
だって………………………。
そう……………………だって、高橋だから。
やっぱり、高橋なのだから、だ。
いつもいつも、どんな時も誰よりも自分の味方をしてくれた、高橋だから。
どうしても、そこは揺るがない。
揺るがす事が、大和には出来なかった。
「…………………申し訳ありません。若を、困らせてしまいましたね……………………」
そう話す、高橋の優しい眼差しと、頬を緩やかなカーブを描き、下りていく指。
柔らかに、やんわりと。
熱い愛する人の肌を確かめる様に、高橋は大和を撫でる。
「…………………でも………………」
でも。
そこで、もう終わると思っていた高橋の、意外にも先へ行く言葉に、大和は顔を上げる。
「高…………………………」
高鳴る、鼓動。
知ってる、高橋の想いは。
知ってるから、身体が動かなくなってしまう。
高橋は大和にとって、あまりにも特別過ぎる。
「……………………若…………………」
囁く様な声。
指先が………………頬を伝い、大和の首筋を捉えると、ソッと項に触れる。
ビク………………………
大和は、僅かに肩を揺らし、高橋を見つめた。
見つめた視線を埋める、高橋の笑顔。
それだけで、想いは伝染する。
「例え仲間だろうと………………譲れへんもんは、譲れへんのです」
まるで、止めに思えた。
呼吸さえも忘れる程、その想いに胸が詰まる。
呼吸さえ…………………………。
「た…………………た……か…………ゲホッッ!!ゲホゲホゲホ……………ッ!!!」
「わ……………若っ!?」
はい、本当に忘れてました………………呼吸。
思わず身を屈め、大和は口を押さえながら、思い切り咳き込んだ。
目からは、涙がホロホロ…………………。
咳で波打つ背中を、必死に擦ってくれる高橋の甲斐甲斐しさが、余計に情けなさを増す。
俺って…………………ホンマ、ガキやな……………。
山代しかり、高橋しかり。
滅茶苦茶大人に感じる。
まあ…………………実際、大人です。
それも、普通よりはかなり、出来た大人。
「ゴホッ………………な、何で……………俺………なん?」
「はい…………………?」
涙の滲む目を擦り、大和は赤い顔で高橋へ訊ねる。
何で。
ここへ来て馬鹿な質問だが、でも気になった。
高橋だ。
頭が良く、強く、完璧で、あの父親が誰よりも手をかけた男。
高橋とは、そう言う価値ある男なのだ。
それが何故、自分の事をこんなにも…………………。
「高橋…………………お前は、誰が見てもええ男や。何でもこなして、俺なんかよりずっと強い。お前に好きやて言われたら、誰だって胸が高鳴る………………」
現に、自分だって、今まさにドキドキしてる。
父親が好きで好きでたまらなくとも、高橋の溢れる想いに、ドキドキしてる。
「俺、勿体のうて……………………勿体のうて…………」
自分が父親を好きだって、高橋は知っているのに。
なんだか、高橋が幸せになるチャンスを奪っているようで、大和は苦しくなった。
「…………………………ご迷惑、ですか?」
「へ………………………」
ドクン…………………………
「た…………………か………」
それは、初めて目にする、高橋の哀しい表情。
大和は唇を震わし、自分の発言に後悔する。
違う。
違う。
そんな表情させたかった訳じゃ…………………。
「ごめ…………………っ…………違うねんっ!!迷惑とかやのうて……………」
大和が自分の発言を訂正しようと、高橋にすがり付いた、その瞬間だった。
グイッ…………………………!!
「…………………………っ!?」
高橋の手が大和の腕を掴み、一気にそれを引き寄せた。
「高……………………橋………………」
吸い込まれるように、高橋の胸に沈む大和の身体。
驚いて、見上げた間近に迫る、綺麗な顔。
「あ………………………あ、あ…」
精一杯の言葉が、『あ』。
何が言いたいねん、俺は…………………!
たまらず、大和は一人突っ込み。
絶大な人気を誇る父親に並ぶとは、よく言った。
今までも抱きしめられた事はあったが、このシチュエーションでのこれは、愛する人がいてもクラクラする………………………。
それくらい、迫る高橋は、格好いい。
「好きなお人がおってもええ………………若のお側に、おりたいんです。若のお側やないと、もう無理なんです………………………お側に置いて下さい。その為やったら、どないな努力も致します……………………若」
誰にも、負けないよう。
誰にも、抜かれないよう。
一生、役に立つ男だと言われるように、努力し続けてみせる。
山代であろうが、誰であろうが、死んでも今の居場所を奪われはしない。
高橋は大和を抱きしめる腕に力を入れ、自らの願いを口にした。
「ア…………………アホ……………………お前を手離せたら、苦労せんわ………………………………高橋………っ」
高橋の胸元に額を付け、大和は潤む瞳を隠す。
スーツのジャケットを握りしめ、懸命に声を抑え、涙が溢れそうな姿を悟られまいと、高橋の想いに応えた。
高橋程の男が、努力をすると言う。
努力。
これまでだって、高橋はそれを惜しんだ事はない。
「……………………はい…………………」
結ばれない、想い。
それでも、笑みが浮かぶ。
側にいられる。
誰にも譲らない、側に。
捧げる為だけに生きてきた、高橋の愛。
これからも、それを続けても良いと、言われた気がした。
「………………………若、濡れてます」
「え…………………………」
目を細める高橋の唇が、大和の目尻に触れる。
涙を拭う、温かい感触。
………………………………え。
瞬く間に視界を塞ぐ、高橋の艶やかな唇。
「え……………………っ」
もう、次々に繰り出される高橋の技?に、大和の脳は追い付かない。
大人って!
大人って!
高橋って!
ただただ呆然と、大和は自分を離さない高橋の腕に、包まれる。
「これからも、若のお世話は誰にもさせません。私だけに許された仕事です………………ええですね?」
綺麗な顔を緩ませ、自分の髪を撫で上げながら同意を求める高橋の瞳が、大和を鷲掴みにする。
ええですね?
「は…………………………はい」
はい。
生意気なガキも、本物の色男の前には、ぐうの音も出なかった。
そりゃ、父親以外が扱えない筈だ。
「…………………………ありがとうございます」
優しい高橋の、優しいキスが、大和の額へ温もりを残す。
「たっ、高橋…………ぃ…………っ」
泣きそう。
既に泣いてるが、いくらでも泣ける。
それくらい、高橋の愛情に息衝く暇もない。
大和は熱い顔をより熱くし、キスをされた額を押さえながら嘆く。
これが、本当に愛し合っている者同士なら、おそらくトロットロに溶けてる。
「すみません………………………若が可愛過ぎて、つい想いが溢れました」
「溢れ過ぎやぁ……………っ…………俺、頭パニックになるわァ……………っ」
いや、最早パニック。
同世代の中では、なかなかの遊び人だった大和も、大人達に囲まれると、単なる青二才。
全く歯が立ちません。
お父ちゃ~ん……………っ!!
チビ大和、心の底から叫んでる。
「はい、以後気を付けます」
多分。
大人とは、策士である。
高橋は焦る大和へ微笑みかけ、素直に頭を下げる。
「………………………若、刺青ですけど………………親父に、ご相談されてみられたらどないですか?」
「は……………………え、親父に?」
最後は、救いの手を。
山代には嫉妬を覚えるが、主が悩んでいれば、最良の道を模索する。
高橋は、やはり高橋。
大和の為に、手を加える。
「こう言った話は、親父が一番適任です。親父の人を見る目は、ズバ抜けてます。きっと、ええアドバイスをして下さりますでしょう」
「高橋………………………」
有能な右腕。
高橋の言葉は、大和の表情に光明をもたらす。
「何を置いても、天下の組長。一生、山代を見てやるおつもりなら、下の者にご相談なさっても程度は知れとります。見極める力が最高のお方に、話を伺うべきです………………………天辺を狙うなら、何事にも妥協はあきません。そうすれば、山代は若の想像以上に応えてくれます」
大和の気持ちに、心から感謝をし、それに尽力す。
自分が、そうであったように。
「わ…………………わかった…………………聞いてみる」
「…………………………はい」
大和の手を握り、高橋は頷く。
そして、考える。
大和から、刺青を貰った山代は、近いうちに頭角を現すだろう。
頭が切れ、無駄が無く、自分のすべき事を瞬時に判断出来る、優秀な男。
負けられない。
大和を導く高橋の笑顔の裏に、久々の闘志が芽生える。
有能な右腕にも、妥協はない。
「では、若……………………そろそろ昼食の準備を致します。何をお作り致しましょ」
握っていた大和の手をソッと太股の上へ戻し、いつもの会話が、高橋の口をつく。
「…………………………オ……………オムライス」
「…………………はい、お任せ下さい………………」
オムライス。
高橋のそれは、また格別。
大和の大好物である。
将来への道筋から食事まで、高橋は大和へ全てを捧ぐ。
この先も、何も変わる事なく…………………全てを。
愛される主と、結ばれないとわかっていても、主を愛す側近達。
これからその力を見せつける男と、早くもその実力を知らしめる男。
密かな戦いは、目に見えぬ所から始まっていた。
ただ、主をのし上げる為だけに。
(皆様、いつもありがとうございます。何人かの方と話させていただきましたら、後編を楽しみにして下さってました。本当にありがとうございます!嬉しさと、上手く応えられたか不安が……(汗)最近、+は真面目なstoryになってます(あ、いえ…今までもそれなりに真面目に(^^;)先に繋がる伏線の様な気持ちで書いております。また、パロとかもやりますね)
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