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数十億の男(後編)
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安道京之介。
こう見えて?………………………36歳。
皆様、明るい栗色に緩いパーマ。
チャラっ……………………て、思いませんでした?
いえいえ。
これでも、本当にお父ちゃんの親友なんです。
出会いは、小学校。
中学からは、ずっと嵩原と一緒に暴れてました。
所謂、手の付けられない、不良。
今でも、ヤクザ相手にだって、全く怯みません。
謎だらけですが、本物の強者です。
あ、でも、堅気ですよ?
念の為。
ヤバい奴が、来た。
お父ちゃん、黙って身体の向きをクルリと回転。
「…………………………俺、帰るわ」
さらば、安道。
心の中で唱え、閉めかけた引き戸をまた開ける。
「オイ……………帰さへん言うたん、聞いとらんのか」
バシッ………………………
天下の組長、後頭部におしぼり。
…………………………ムカ。
「安道っ!!お前……………っざけんなよ!何が、ダンベエじゃっ…………来るなら、俺に直接連絡せえや!!回りくどいやり方すなっ!今日一日の、俺の努力を返せっ!ボケェッ!!」
肩に落ちたおしぼりを握りしめ、嵩原、キレる。
疲労は、限界。
最後がこいつなら、無理する事はなかった。
また後日に回せるじゃないか。
また後日。
後日になれば、さっさと帰って、大和の顔が見れたのに!!
可愛い可愛い大和の顔が………………っ!!
ええ、結ばれた愛は強いのです。
心の底から、叫んでやりますとも………………!
「ぁあ?ちぃ………っとも連絡してけえへん奴が、何抜かしとんねん。お前の為に、毎年々たらふく貢いでやっとる親友に、ようそないな台詞が吐けんの。早よう、座れ………………竜也……………」
でも、この方も負けてません。
再度、確認。
安道京之介、堅気です。
どうやら、財力はかなりお持ちのようですが、歴とした堅気。
お天道様の下を、真っ昼間から堂々と歩ける、真っ当なお方。
「……………………それに、『安道』ての止めや。組のモンもおらんのや、いつものように『京』でええ。てか、組のモンおっても、今更他人行儀なん気に食わんけどな」
親友と言えど、竜童会一のスポンサー。
組長として会う時は、けじめを付ける為に苗字で呼ぶ嵩原が、安道は気に食わない。
それを、『止めや』。
もう、命令口調がやたらと板に着く。
…………………嵩原相手に、この物言い。
少々、厳ついのは確からしい。
「あ………………?俺にとっては、お前も他人行儀ちゃうかったか?」
嵩原は、渋々安道の前に腰を下ろしながら、嫌みをポロリ。
安道とは、長い長い付き合い。
自分の人生の全てを、知り尽くした関係。
お互い、敬うって言葉はないらしい。
「……………………シバくぞ」
敬………………………。
安道、手に持っていた煙草を加え、敬う以前に喧嘩売る。
注)しつこいですが、相手は、あくまで全国一のヤクザの組長です。
「多香子さんが入院中、お前が駆け出しの忙しい時に、誰が大和のオムツ替えたった思うとんな。多香子さんの亡くなった後も、しょっ中風呂入れたり、飯も食わせてやったんやで?俺は、大和はてめぇのガキ位に思うてる。それを、何が他人じゃ………………恩を恩で返せ」
さすが、古き良き親友?
しっかりお父ちゃんの弱味を突いて来ます。
恩を恩で返せ。
えらく値が張りました。
「なっ、そこ突いて来る!?卑怯やぞっ、京っ!」
「あー、そうそう……………ソレ。やっぱ、お前からは『京』言われんのが一番や。恩、半分にしたるわ」
「どんだけ上からやねんっ!!」
組長を前に、果てしなく。
安道は、柔らかそうな栗色の髪をかき上げ、ニンマリ笑うと嵩原を見つめた。
怪訝そうな嵩原のイケてる顔。
久々に見るが、『京』の響き以上にそそられる。
多忙をぬってでも、会いに来て良かった。
若々しいハンサムな笑顔が、やたらと満足気。
「ったく、昔はしゃーないやろっ……………俺も下っぱで、使える組員なんぞおらへんかったんや。第一、お前かて…………他の奴にも頼む言うとんのに、俺が全部引き受けたるって、引かへんかったやないか」
昔から人気者のお父ちゃん。
一声かければ、手を貸す仲間は数知れず。
それでも、この安道ほど力になってくれた男はいなかった。
「当たり前や………………数おる仲間内でも、お前が心友呼べるんは、俺だけや。無二の心友が困った時に、最も力になったらんで、心友なんて言えるか?他の奴等に、手なんぞ付けさすか………………昔も今も、お前を誰よりも助けてやれるんは俺やと、自負しとるで」
と言うより、誰にもさせたくはなかった。
昔も今も。
嵩原が困る事があれば、自分がどんな手を使っても助ける。
その信念の下、安道は嵩原の為に生きてきた。
そして、実際、助けられる男にもなってきた。
安道京之介とは、嵩原に負けない位、言うだけの事をしてきた男なのだ。
「………………アホ。それでよう、恩返せて言えるな」
嵩原は、照れ臭そうに安道から目を逸らし、注がれたビールを口へと運ぶ。
「そんくらい言わへんと、お前忘れそうやし」
「忘れるか………………お前を助けてやれるんも、俺が一番やと腹に入れとるわ」
「そら、頼もしいな………………嵩原竜也が真っ先に助けてくれる思うたら、百人力やで」
「それ、そっくりそのまま返したる」
心友。
憎まれ口を叩こうと、通じ合う心。
互いに切磋琢磨し、地位を確立して来た、イイ大人。
少々荒々しい関係も、まあ、ご愛敬。
しかし、安道…………………ヤクザ界のカリスマを助けられる力があるとは、謎多き男である。
「ああ…………………そう言や、これ。大和にプレゼント持って来たさかい、渡したって」
「はぁ?大和にプレゼント……………………?」
眉をひそめる嵩原に、安道は座卓の下から、マットな質感の小さな黒い紙袋を出した。
「前に、あいつ……………俺がしとるブレスが、格好ええ言うててな…………………大和の奴、この間関東の喜多見組潰したらしいやないか……………そのご褒美や。あいつに合うように、特注させた。ブラックやのうて、若々しゅうブルーダイア入れたっとる」
「ダイアぁ?おい…………………17のガキには、まだ早いやろ?そないに甘やかすなよ」
嵩原は渡された紙袋を覗き込み、呆れたように溜め息をつく。
若頭としては、それに見合うものを。
17歳の男子には、17歳らしいものを。
金があるだけ、普通よりは贅沢な我が子に、嵩原は嵩原なりに気を配ってる。
「普段は、嫌でも厳しゅう生きとるんや……………俺くらい甘もうしたらんで、誰が甘やかしたるんや?褒美は褒美なんやから、ちゃんと渡してな」
おむつ替えに、お風呂とご飯。
全て、本当の話。
安道もまた、堅気としての眼差しで、大和を大事に見守って来た。
息子同然とは、この事だ。
「……………………竜也…………………俺はな、今でも後悔しとるで……………………お前をヤクザにさせたん」
「……………………………え?」
嵩原が受け取った紙袋を脇に置くのを眺めながら、安道はおもむろに口を開く。
心友が、ヤクザ。
誰だって、思う所はある筈。
「よりによって、何でお前を苦労さる道へ行かせなあかんのやって……………………どんだけ悩んだか。お前らしい生き方やけど、俺には解せへん。それが今度は、我が子みたいに可愛がってきた、大和までや。崖に突き落とされた気分やったんぞ………………甘やかす位、させえや」
「……………………京…………………」
ヤクザばかりの日常を、変わる事なく受け入れてくれる友。
有り難い。
わかってる、そんな事。
頭が上がらないとは、この事だ。
心友の、自分達親子を想う気持ちに、胸が痛む。
安道がいたから、若いヤクザは真っ直ぐに突っ走れた。
嵩原は、感慨深げに心友安道を見つめ返す。
「せやから……………………これからは、存分に大和に会いに行くわ。勿論、お前は別格にな」
…………………………は?
いや、別格いらんし。
と、言うより……………………。
「会いに…………………行く?存分に?」
それ、どう言う意味……………………?
安道の意味深な言葉に、思わず嵩原は飲みかけたビールを手に固まった。
「俺な、今度こっちで新しい事業立ち上げんねん。政府も絡んだ、デカい仕事や………………もう、マンション決めたし、当分こっちに住むんや。宜しゅうな、竜也♪」
「はぁぁぁぁぁ………………っ!?」
関東に、新たな関西人加わる。
それも、ただ者ではない感じ。
「なあ………………ところで今日、お前欲しさにダンベエら何億積んだんや?十億超えしたか?そいつらの名前教えろや……………………俺の大事な心友を安う見積りよって、片っ端から潰したるわ」
呆然とする嵩原を、安道が見つめながらほくそ笑む。
ヤクザより恐い、堅気。
いるんです、そんな人。
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