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騎龍観音
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鼻から鱗…………………もとい、目から鱗。
騎龍観音。
自分の未熟な頭より、それが上回る。
「よし、これでいこう!」
父親と話をした日の夕方。
大和は、自分の部屋でスーツを着ながら、声を上げる。
結局、父親の受け売り。
でも、仕方がない。
騎龍観音。
それがいいって、自分も思ったから。
「これで俺は、山代とてっぺんを目指す」
何せ、本編始まっちゃいましたし。
これから見るのは、上ばかり。
進むっきゃありません。
「まずは、関東制覇や」
ネクタイをキュッと締め、大和の瞳は上を見る。
関東制覇。
どんな敵が現れようと、必ず勝ってみせる。
自分は、一人じゃない。
かけがえのない仲間達が、側に居てくれる。
共に山場を乗り越えた絆は、大和達の心に強い繋がりを育んだ。
ガチャ…………………………
「親父ぃ………………っ!俺、山代に会いに行ってくるわ!」
部屋のドアを勢い良く開き、大和はリビングにいる父親へ声をかけた。
関西にいた頃は、こんな風に声をかけて出掛ける事もなかった。
不思議なもので、関東へ来て色んな事が変わった。
「おぅ………………行って来い。しっかり、自分の想い伝えたらなあかんぞ。……………………気ィつけてな」
色んな事。
「……………………うん、ありがとう」
リビングの戸口に立ち、優しく微笑んでくれる父親に、自然と顔が綻ぶ。
多分、これが一番大きな変化。
ずっと、このままがいい。
我が儘かもしれないが、父親には、やはり近くで笑っていて欲しい。
父親の笑顔に目を細め、大和は照れ臭そうに玄関を出て行く。
大好き。
「行って来ます…………………っ!」
大好きだよ、親父。
お願いだから、ずっとこのままで………………。
「…………………………たまらんな、あの笑顔」
玄関の向こうへ消える大和の背中を見つめ、愛される父親は呟く。
好きだよ、大和。
産まれた時から数え切れないほど見てきた、大和の愛しい笑顔。
あの笑顔に、どれだけ力をもらって来たか。
「でも…………………ホンマ、ええ加減帰らんとな」
藤原達にかけている、負担。
自分の我が儘を貫くには、組員達への負担が大き過ぎる。
何を言っても、組長。
一番に考えるのは、2万を超える組員達の毎日。
「組員達の生活を守ったらんで、親父や言えるか」
そう呼ばせる以上は、自分が組を…………組員達を、守り抜く。
十数年前、前組長を引き摺り降ろした時、嵩原が自らに課した覚悟。
自分と同じ悔しさを、組員達にさせてはならないと肝に命じた。
それでも、後ろ髪は引かれる。
「……………………関東制覇、簡単にはいかへんやろな」
見えない所で、闇は蠢く。
この世界に、生温い道などある訳がない。
頂点に立つからこそ、これからの大和の道が見えてしまう苦しさ。
「気張れや、大和…………………気張るしかないんや」
最後に乗り越えるのは、自分の力。
どんなに苦しくとも、逃げたら全てが終わる。
嵩原は、静まり返った玄関を眺めたまま、唇を軽く噛み締める。
「名を馳せれば馳せる程、敵は増える一方やぞ」
自分が、そうだったように。
きっと、大和も………………………。
「………………………あ………………てか…………京の事、言うん忘れとったわ」
お父ちゃん、それ大事。
「山代ぉ……………………っ!!」
晴天に響く、大和の声。
「………………………若頭っ!」
私邸で、組長の執務をこなす山代が、笑顔でそれに応える。
騎龍観音。
ようやく、想いが背中へ刻まれる。
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