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ちょっとだけ、昔の話(大和、高橋編2)
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(リクエストお応え。大和、中学生編です)
「大和さん………………何ですか?これは」
大和、中学2年の夏。
夏休みまで、あと僅か。
この夏は、サーフィンでも始めてやろうと企む大和は、意気揚々とサーフボードを手に入れ、自宅へと持ち帰る。
そして、大きな玄関ドアを組員に開けてもらいながら、その邸宅へ1歩踏み入れた所で高橋に呼び止められた。
何ですか?これは。
はて、何でしょう。
「え………………………」
おもむろに差し出されたのは、グチャグチャになった1枚のプリント。
厳密には、グチャグチャだったのを頑張って伸ばしたかのような、プリント。
それの一番上には、『三者面談の案内』。
やべ…………………。
先日、学校で日時が決まったものを配られたが、どうせろくな事を言われないだろうと、クシャクシャにして机に投げてたな、ソレ。
お父ちゃんには言わずにいたのに……………。
「これ、明日ですね」
まさか、高橋に見つかってしまうとは。
「大和さんのお部屋へ掃除に行きましたら、偶々見てしまいました。勝手に開いて、お詫びは申し上げますが………………どうされるんです?親父、明日まで関東ですけど」
はい……………ですよね。
大和は、バツが悪そうにボードを玄関の壁に立て掛け、無言で高橋の前に佇んだ。
嵩原が不在の時は、家ではほぼ高橋が親代わり。
高橋がいなくても良さそうな遠出には、嵩原はなるべく他の者を連れて行く。
自分が不在の本部を任せたいのと、大和には高橋が必要だと思うから。
だから、結構応えます。
高橋のお説教。
「…………………それに」
高橋は、大和が買って帰ったボードへチラッと目を向け、益々渋い顔をする。
「そのボード、おいくらしたんです?中学生が一人で買うにしては、随分高価に見えますね」
「あぁ…………………」
「何か必要な物がある時は、私がお出し出来るようお金を預かっとりますし、親父がそないにお小遣いを持たせるとは思えません。どう言う事でしょ」
玄関を開けた組員達も、高橋の厳しい追求に動く事も出来ず、ただただ立ち竦む。
タイミング悪すぎます、大和さん……………。
もう、フォローのしようもありません。
「いや………………どうって………」
「……………………はい?」
口ごもる大和の脳裏に浮かぶ、父親の顔。
中学に入り、大和は友達も増え、どんどん遊び回るようになった。
見た目はパツ金頭。
出来る友達も、一見柄が良いとは言えないような連中。
でも、帰りが遅くてもあまり怒られる事もなかったので、自分はヤクザの息子だからだろうと勝手に解釈していた。
そんな大和に、ある晩父親が声をかけてきた。
『お前、ツレを大事にして遊び回るんはええけど、金の使い方は考えよ。組長の息子やからて派手な真似すんは、ただのアホや……………小遣いも簡単に増やしたるつもりはないし、お前が手にした金は、お前が作り出した金ちゃうからな。ナメた使い方しよったら、ただじゃ済まさへんぞ』
夕食を終え、部屋に上がろうとしたら、丁度帰宅したばかりの父親と鉢合わせ。
サラッと言われたが、殊の外恐かった。
お父ちゃんは、恐い。
これ、大事。
あの父親に叱られると思うと、身の毛も弥立つ。
そして………………。
「ハッキリ言うてくれませんと、お話のしようもございませんね、大和さん」
詰め寄る親代わりの恐怖。
これがまた、父親に迫る恐ろしさ。
この時、高橋は既に嵩原の絶大な信頼を得る、右腕。
逃げる隙なんて、作ってはくれません。
「せやから………………借りたんや、ツレらに」
観念して、大人しく自供もするってもんだ。
「借りた………………?」
「4人に、三万ずつ……………俺の手持ち二万と合わせて、十三万八千円」
「は……………………」
は。
呆れた高橋の声が、とてつもなく耳に痛い。
大和は顔を見る事が出来なくて、ただひたすら床の木目を見つめてた。
「明日、そのご友人方へ、朝一でお金を返しに行きましょう。勿論、親父には、きちんと報告させていただきます」
「えぇ…………………っ」
「当たり前です。そないな金銭のやり取り、私だけの判断で黙っておくわけにはいきません」
莫大な金を動かす、大組織。
しかし、中核ではこんな説教が繰り返される。
若い時から、お金に苦労してきた嵩原の金銭感覚は、組長になってもブレてはいなかった。
それは当然、我が子へも受け継がれなくてはならない訳で…………………。
親父にバレる………………!
みるみる大和の顔は、青ざめた。
「あと、明日の三者面談も私が行かせていただきますから、ご準備しといて下さいね」
「はいっ!?た、高橋が……………?」
「誰か、他にいます?………………あ、安道さんでも構いませんけど。ご都合がよろしければ」
「ぎゃーっ!!それ、あかんっ!もっとあかんっ」
下手したら、お父ちゃんより質悪い。
シワシワのプリントを、丁寧に折りながら話す高橋の腕を掴み、大和は必死に首を振る。
どんだけやねん、京やん。
「では、これからはちゃんと相談して下さいね。まだまだ大和さんは、親に守られて生活していかなければならないのですから」
「は……………はい、すみません」
さすが、お父ちゃんで鍛えられた策士。
大和の扱いなんて、慣れたもの。
「お腹、空きませんか?何か、お作りします」
「へ……………………」
項垂れる大和へ差し伸べる手も、忘れてはいない。
ニッコリ微笑む顔には、早くも優しさが溢れてる。
「ほ、ほな…………オムライス!ケチャップ多めで」
悪ガキも、甘えたくなるよね。
「はい………………了解しました」
はい。
高橋の返事に、胸撫で下ろす大和の顔にも、笑顔が戻る。
昔から、その『はい』に何度ホッとさせられたか。
「若………………今夜のご夕食、何に致しましょう」
「えー、せやったら……………やっぱアレやな。オムライス!」
「クス………………はい。では、ご用意しておきます」
数年後、それは変わらず続いてる。
ただ一つ、今は同じ夢抱き。
(皆様、いつもありがとうございます。この度は、AOI 様のリクエストにお応えさせていただきました。大和と高橋……本当に話が尽きません!リクエスト、ありがとうございました!楽しく書かせていただき、感謝致します)
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