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男娼とヤクザ/シーズン2(第4話)
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嵩原に、抱きつく。
今思えば、随分ヤっちまった感に苛まれる。
「おまっ…………嵩原さんに何しとんじゃあァ!!」
繁華街のど真ん中。
自分達の組の幹部に抱き付く、謎のガキ。
そりゃ、組員は黙っていない。
ネオンにも負けない叫び声が周囲へ轟き、人々は避けるように振り返る。
「嵩原………………俺……」
俺…………………。
わかってる、バカやってるって。
ヤクザ相手にこんな事して、殴られてもおかしくない。
いや、なんなら半殺し位有り得る。
だって、自分の目から見ても、嵩原はかなり上の幹部の筈。
組員達の扱いが、格段に違う。
「大和、お前…………」
でも、どうにもならなかった。
大和。
嵩原に呼ばれる度、胸がキュンと締め付ける。
擦り寄せた肌に感じる、嵩原の厚い胸板。
顔だけではない、声も身体も魅惑的。
のぼせそうな程全身が疼く男の香りに、大和はようやく気付く。
俺………………嵩原が、好きや。
初めて会った時から、ずっと意識してたんだ、と。
アホやなぁ………………。
「ガキ、興味ないのに……………」
しかも、娼夫。
最低じゃないか。
「おいっ!ええ加減にせえよっ………さっさと、嵩原さんから離れんかいっ!!ガキがァ!」
俯く大和へ向かって、浴びせられる罵声。
現実は、こんなもの。
ヤクザだって最低だが、男に身体を売る男なんて、まだその下を行くのだ。
汚らわしい、奇異の目で見られて終わり。
だから、嵩原も嫌って当然……………。
「よせ、俺がこいつにぶつかったんや…………そのせいで、持っていた金を落とさせてしもうた。俺は、それを拾うたらなあかん……………お前ら先行っとけ」
「え……………嵩原……」
驚いて顔を上げる大和を目に、相変わらず無表情な嵩原が映る。
多くの客相手に表情を読んできたが、嵩原だけはいつも読めない。
俺の事、嫌い?
聞けるわけがないが、瞳は嵩原の視線を追う。
「え、ええんですか?嵩原さん…………」
「ええもなにも、しゃーないやろ」
困惑する組員達へ、チラッと動いた目。
それがまた、ゾクゾクと背筋を刺激する。
「わ……………わかりました。すみません!」
ヤクザ、嵩原。
どれほど恐ろしいのか。
怯える組員が、全てを物語る。
「ほら、大和……………探すぞ」
「あ、いや………………」
それを目の当たりにした後に、金を拾わせる勇気はさすがにない。
だが、深々と頭を下げ立ち去る組員など、嵩原はもう見てはいなかった。
躊躇いもなく、高いコートをアスファルトで汚し、身を屈める。
その姿に、大和はただただ呆然と立ち竦んだ。
「…………………大和」
「な……………何………」
「俺は、ヤクザや………………これから先、いつ死ぬかもわからん」
「は…………………」
雑踏にまみれ、微かに聞こえる嵩原の声。
人の足音でかき消されそうなそれに耳をすませ、大和の目線は下を見る嵩原へ注がれた。
「そんな人間は、人を愛す資格はない思うとる」
それは、嵩原なりの優しさか。
いつ死ぬかもわからない人生への覚悟。
「嵩…………………」
「俺はガキに興味もなければ、金で人を抱く事もしない……………それ以前に、誰かに心が揺れる事は、もっとないわ」
騒がしい世界から、音が消えたような気がした。
誰かに心が揺れる事もない。
誰かに。
「俺をどう思うてるかは知らんが、そないなもの早よう捨てるんやな」
捨てる…………………。
絞り出した想いは、呆気なくネオンの空へ散っていった。
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