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男娼とヤクザ/シーズン2(第11話)
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「なんや、このガキ」
見下ろす姿は、ヤクザですかー?
それは、繁華街の明かりが僅かに届く、裏の裏の暗い路地。
ビルに挟まれた細い抜け道を通り、錆び付いた鉄骨の階段を上ると、おんぼろな看板が目に入る。
〘やぶ医者注意〙
…………………え?
数十分前の繁華街路上。
嵩原を見つけて走った大和は、その面前ですっ転び、見事に足を捻挫した。
『足、くじたかもしれん』
『…………………はあ?』
はあ?
呆れた嵩原の視線が捻挫以上に痛かったが、それから直ぐに大和は再びお姫様を体験する。
『手ぇ貸せ……………』
『え…………………』
グイッと引っ張られた身体が宙に浮き、大和の景色は夜空を仰いだ。
わたわたと驚く組員達を尻目に、嵩原が大和を抱き上げ、有無も言わさず車へと乗り込んだのだ。
『どうせ、保険証なんぞ無いんやろ。知り合いの闇医者がいる………………口は悪いが、腕はええ。少しの間、痛いん我慢せえ』
闇医者………………?
唖然とする大和を他所に、嵩原はそれっきり喋らない。
口は悪いが、腕の良い闇医者。
嵩原と触れる肩にドキドキしながら、大和はどんな医者が出てくるのだろうかと想像していた。
それが、先の看板にあった『やぶ医者注意』。
「え………………?」
大和の目は、点となる。
いや、やぶ医者って………………。
大丈夫なん?
嵩原にしがみつき、眉をひそめる複雑さ。
なんとなく嵩原の事は信頼してるけど、やぶ医者とは何ぞや。
しかも、出て来た連中がまた異質を放つ。
「おい、京おるか……………?」
「あら、嵩原さん♡お久し振りでーす♪先生なら奥でホームレスの崑さんと一杯やってますよ~呼んで来ますねー♪」
嵩原を見るや否や、キャピキャピ腰振る厚化粧の看護師。
「ホ、ホームレスと一杯……………」
理解し難い言葉が耳をかすめ、戸惑う大和は現れた人物に、更に開いた口が塞がらない。
ガチャ…………………
「ったく……………どないしたんや、竜也。用があるなら、事前に予約せえ言うとるやろ」
「急患やのに、誰が予約出来んねん。呑んどる暇あんなら仕事せえ、アホ」
「ウチは救急やねぇわ。仕事言う前に時間見いや、ボケ」
へ……………………。
ヤクザの幹部相手に、全く怯まない。
軽くパーマを当てた茶髪に、咥え煙草でだるそうに闇医者ご登場。
嵩原より少し高い身長に、予想外にイケてる顔立ち。
これが、医者?
と言いたくなる風貌は、大和の目を惹いた。
しかも、何より………………。
「やけに仲いいやんけ……………」
えらく親しげな雰囲気に、ちょっとジェラシー。
そう思っていると、その闇医者がチラッと大和に目をやった。
「なんや、このガキ」
そうして、やっとここに辿り着く。
二人のやり取りを複雑な心境で見ていた大和を、闇医者が見下ろして来た。
貫禄ある。
何もかも見透かされそうな目力に、大和はギュウと嵩原のスーツを握りしめた。
「俺の受け持ちのシマで働く、娼夫や。街で会うたら、足挫いたみたいでな………………保険証もねぇし、ここに来るしかねぇなと」
「ふーん………………」
ふーん。
それが、とても怖かった。
何と言うか上手く言えないが、ヤクザとか肩書きとか、そんなものでは動かない人なんだろうと、この男から伝わる。
繁華街の裏。
子供の大和には知らない世界が、まだまだあるのだ。
「で?金は、どないすんな……………見るからに、飯もまともに食うてへんみたいやし、捻挫なんぞしたら商売にもならへんやろ?まさか、お前が肩代わりすんか?……………竜也」
「あ………………」
言っている事も、的確。
確かに、金がない。
闇医者の相場自体怖いが、金をどうするかが問題だ。
大和はハッとしたように顔を上げ、嵩原の様子を伺った。
「肩代わり……………言うたら、またお前も気に食わへんのやろ。無利子で貸したるから、余裕が出来たら返せや」
「嵩原………………」
よくわかってる。
一応、身を削って働いているせいか、金をやると言われたら同情されてるみたいで、どこか嫌だった。
そこまで堕ちたら、もう這い上がれない。
そんな気がするから。
「せやったら、竜也が抱いたったらええやないか」「…………………はい!?」
しかし、二人の想いに反し、恐ろしい一言がいきなりブッ放された。
竜也が抱いたったら………………。
竜也が!?
初めて合わさった、大和と嵩原の驚愕の声。
闇医者の突拍子もない提案に、二人の感情が見事に重なった。
「きょ……………おま………何言うて……」
「だって、そうやろ。しばらく客も取れんなら、生活も大変やで。金返す言うたかて、返す見込みも薄いわ………………お前が抱いて、金やる方が手っ取り早いやんけ」
「な………………な、な…」
もう、『な』しか出ませんけど。
平然とした顔で凄い事言うよ、この医者。
「一石二鳥やな……………手当てしたるから、足出せ。なんなら、ベッドも貸したるで」
ベ、ベッド……………!!
「ベ…………………」
心臓が、壊れそうな勢いで爆音を鳴らす。
困惑した嵩原へ目を向ける大和は、早くも耳まで真っ赤っか。
ベッド。
さあ、どうするお二人さん。
〖今回の登場人物〗
京……繁華街に住む、闇医者。腕はいいらしいが、全くどんな人物かはまだ不明。嵩原とやけに親しい?
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