アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
体育祭(後編―②)
-
(今度こそは、完結させるぞー(*ノ´□`)ノすみません)
「お久し振りです、錦戸さん…………」
お久し振りです。
僅かに微笑む海は、とびきり美しい。
「変わりなかった?最近、なかなか連絡出来ひんかったけど」
「はい……………お陰様で、元気にやってました」
体育祭の第一部が終わった。
会場はようやく昼休憩を迎え、人々はそれの準備に活気づく。
でも、何だろう。
ここだけは、穏やかで落ち着いた空気が流れているように感じるのは。
「それは、良かった。海くん頑張り過ぎるから、少し心配してたんや」
「クス……………そこは、錦戸さんも同じかと」
「え………………?」
「いつも、嵩原組長の事で頭が一杯ですから………」
「あ…………ああ………」
ソッと手を口へ翳し、笑う海に目を奪われる。
嵩原組長の事で頭が一杯。
確かに、嵩原の事しか錦戸の頭にはない。
錦戸から嵩原を取ったら、何も残らない程献身的に尽くしてる。
嵩原が、大好きだから。
尊敬し、崇拝し、身も心も捧げ、忠誠を誓ってる。
だが、海の事も忘れてないのは事実。
いつもは鋭く、ついピリピリなりがちな眼差しが、海を見た瞬間変わった。
ずっと見ていられる。
風に靡く黒髪も、キツいようで吸い込まれるような黒い瞳も、全てが綺麗で品がある。
自分の生活にはない、真っ当な世界の輝き。
錦戸はそんな海を見つめながら、あまり足止めしても申し訳ないと意識を切り替えた。
「そう言えば、お昼一緒に食べるやろ?颯くんも合流するて、若から聞いとるよ」
「らしいですね、颯から連絡ありました。すみません、お邪魔します…………錦戸さん」
「弁当作ったの、俺やないけどね」
「フフ……………はい」
フフ。
あの海が、錦戸の前ではよく笑う。
それが、何かの変化をもたらしているのかはまだわからないが、錦戸が関係しているのは否めない。
「ほな、また後で……………」
「……………宜しくお願いします」
軽く会釈をして、顔を逸らすまで。
錦戸は、海から目を離さなかった。
この一歩を踏み出していいのか。
美しい海の後ろ姿が、錦戸の視線を釘付けにした。
「ぅおおおっ!美味そう…………っ!!」
可愛い笑顔が、全て。
安道と高橋に、一番のご褒美をもたらす。
朝早く起きて作られた、色とりどりのお弁当。
野郎ばかりの人の山の中心で、大和の声が一際響く。
「この卵焼き、高橋のや!こっちの唐揚げは、京之介!俺の好物ばかりやん!!やべー嬉しい!!」
「ありがとうございます、若…………沢山食べて下さいね」
「そうぞ、大和。しっかり食えよ」
頬をパンパンにする大和の姿に、高橋も安道も目を細める。
長い間、二人の料理を食べてきた大和の舌は確か。
二人の違いが、ちゃんとわかる。
なんとも食に通じた息子。
貧乏時代から、愛情ある手料理を食べて来た大和にとって、このお弁当が17年間の縮図のよう。
大切な家庭の味が、凝縮されている。
「せやけどさぁ……………なんか、えらい広く場所取れたんな?こないに大所帯やったのに、他の父兄にブーイングされんかったんや」
「………………あ?」
キョロキョロ周りを見渡せば、他所の父兄は犇めき合ってる。
明らかに、ウチが最も広い。
迷惑じゃないのか?
しかも、それを聞いた嵩原のやや不満げな顔。
「あれ……………何か、あった?」
「ぷ……………いえ、まあ………親父のお陰です」
高橋や錦戸の含んだ苦笑い。
え、何………………。
数時間前。
現地に着いた、嵩原家御一行。
既に周りは席取りがされており、とてもじゃないが皆が入るには、スペースがキツかった。
さて、どうしたものか。
嵩原達が場所を探し始めた時、安道が言ったのだ。
『おい、竜也………………笑え』
『は…………………』
有無も言わさず、嵩原は笑わされた。
『すみません、ここ……………ええですか?』
ニッコリ笑い、頭を下げるイケメンオヤジに、父兄達は喜んで席を譲り始める。
イケメンオヤジ=餌。
『…………………さすが、親父』
『モノは使いよう、竜也は笑わせてなんぼじゃ』
お父ちゃん、駒となった。
「ブッ!!最高っ!京之介ぇーっ♪」
「せやろ、せやろ。竜也は、使わな損やで」
「あのなぁ!俺は人形かっ!!」
ウケる大和の横で、頷く安道。
怒れるお父ちゃんなんか、そっちのけで分かち合う。
「相変わらず、賑やかやな……………」
「本当に、大和といると笑いが絶えません………あ、片山さん、食べますか?」
「ああ、ありがとう」
大和達を見ながら微笑む片山の隣には、然り気無く颯が座ってる。
自分の家の家政婦が作ってくれたお弁当を差し出し、片山へご馳走する。
「………………錦戸さんも、どうぞ」
「おおきに………………」
そして、そのまた隣に海が座り、目の前の錦戸へおかずをお皿へ乗せて渡していた。
雲一つない快晴の空の下。
最高の昼食会が開かれた。
それからしばらくして、余興とも言える目玉レースが始められた。
『続きましては、プログラム17番。借り人競走です。スタートして最初のラインに、お題が置かれています。父兄の皆様、どうかご協力お願い致します』
借り人競走。
大和も、これが最後の競技となる。
「ふぁぁ…………やっと終わりや…………」
リレーで力を使い果たした大和は、のんびり列に並ぶと、大きなアクビをした。
順番は、まだ。
皆が誰を借るのか眺めながら、ぼんやり時間を潰す。
「………………ん?」
ん?
おいおい、何だ。
スタートを切った生徒達が、やたらと嵩原家の場所へ集まっている。
お題、何……………。
そうこうしている内に、高橋が連れて行かれ、片山が引っ張られ、錦戸が……………。
嵩原や安道に至っては、二周目(一度ゴールしたら、席に戻っても可能)。
「いや、おかしいやろ……………何でウチや」
それは、イケメンだから。
生徒達は、何かしら理由を付けて嵩原達を借りに行った。
基本的に、堅気へは優しいヤクザな連中。
そりゃもう、皆さん嬉しそう。
どさくさに紛れて、高橋達と手を繋いで走ってる。
「次、スタンバイお願いします!」
「よっしぃー!これで最後ー!」
周りの行動に首を傾げてた大和にも、直ぐに順番はやって来た。
「………………さっさと終わらすぞ♪」
一斉にスタートを切り、ラインで止まった所にお題は転がる。
ザザ…………………
「え………………」
軽く煙が上がり、裏返された一枚の紙切れを手にした大和は、そこに書かれたお題がを見て、パッと辺りを見渡した。
視線の先には、丁度見学場所へ戻りかけた嵩原の姿。
「親父………………親父っ!」
「…………………はい?」
視界に入ってから、一直線。
大和は、大好きな手を握りしめる。
「行くで!!親父…………っ」
「ぉわ……………!?なに………」
ドッと盛り上がりを見せる会場。
学校一目立つ生徒が、一躍有名になったオヤジの手を引いて、トラックを走り抜けて行く。
正々堂々。
こんな時でなかったら、こうも大っぴらに手は握れない。
「若………………」
「やるな、嵩原……………」
事情を知る高橋や片山が笑みを浮かべる中、一気にゴールは果たされた。
「ハァ…………な、何やもう…………俺、これで三周目やぞ。お題、何やったんな」
「言わね………………」
「…………………はい!?」
繋いだ手は、しっとり汗ばむ。
息を切らし、眉をひそめる嵩原の前で、大和は照れ臭そうに顔を背けてた。
「言わね……………て………」
ただ、チラッとだけ見えた。
握り合う手の反対側。
紙の端を握っていた大和の影に、見え隠れした言葉。
『貴方にとって、かけがえのない人』
かけがえのない人。
「大和………………」
この人以外、浮かばなかった。
父親の声を背中で聞き、大和はポツリと呟く。
「今日、ありがとうな…………めっちゃ嬉しかった」
午後3時。
体育祭が、終わりを告げる。
(皆様、また長いお話にお付き合い下さり、ありがとうございました。今回は、コメントを下さった方々のお話も参考にさせていただきながら、どうせ書くならと交えさせてもらいました。少しでも皆様と楽しめたらと思っていまして……すみません。いつも本当にありがとうございます)
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
174 / 241