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心に棲む後悔(嵩原)
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(丁度200話になりました。なんて遅いペース(;-;)すみません。この200話に何を書こうかなぁと考えてましたが、恋男1の時から想い描いていた嵩原の過去…誰も触れようとしない親父の秘めた心に少しだけ迫ってみました。いつか、本編でこれに突っ込む時が来るかと思います。(その時は、大いに修羅場!?)そして、いつも遅い更新ですが、恋愛男子+を本当にありがとうございます(;-;))
関西某霊園。
吐く息も白く。
寒空広がるある日の午後。
久し振りに関西へ帰って来た嵩原は、その足で大切な人に会う為、ここを訪れた。
季節は、真冬。
誰もいない霊園で、真っ黒な上質のカシミアコートを纏った男前は、否応なしに目立つ。
側に付く錦戸も、いまだ見とれるその姿は、昔に比べて貫禄も備わった。
今や知らぬ者はいない、極道の華を地で行く男。
「親父…………では、私はここで」
「ああ、すまんな…………錦戸」
然り気無い言葉一つ、グッと心に染みる。
竜童会組長、嵩原竜也。
多くの組員に慕われ、憧れられる親父。
そんな彼がここまでやって来れたのは、一人のヤクザが大いに関係している。
現在の嵩原の基礎を築いてくれた、先駆者。
「木瀬さん……………お久し振りです」
木瀬。
嵩原が親しみを込めてそう呼ぶ、大事な人。
今は亡き、嵩原の先輩。
沢山の墓石の中を歩き、『木瀬』と彫られた墓の前にしゃがむそれの瞳は、どこか嬉しそう。
ゴソゴソと、慣れた手つきで紙袋からコップを取り出し、地元の酒を見せる笑顔は、若かれし頃を思い出す。
「今関東におるさかい、なかなか来れへんですみません。でも、今日は木瀬さんの好きな酒持って来ましたよ…………一緒に、呑みましょうや」
昔は、よく呑みに連れて行ってもらった。
まるで、兄貴のような親のような存在。
嵩原がヤクザになる時、安道と交わした約束を最期まで守り通してた木瀬には、感謝しかない。
どんな時も、自分の事を想い接してくれた。
コップを掲げる景色に、込み上げる気持ちは止めどなく。
この人に会えて良かった。
この人がいたから、今の自分がある。
「あの世はどないですか?毎日笑えてますか?………寂しゅうないですか」
失って、もう10年以上。
「俺は、寂しいっすわ……………」
まだ、まだあの背中を追いかけていたかった。
木瀬の好きな酒を口へと運び、嵩原はポツリと弱音を吐き捨てる。
「どやされそうですけど………もっと怒られたかったな。俺まで来ると、なかなか叱られへんから………木瀬さんの怒鳴り声、たまにごっつぅ聞きとうなるんです」
極道の道に敵なし。
天下の組長、その地位に驕ることなく。
誰にも叱られなくなった嵩原の重責。
道を誤る事は許されないからこそ、定める判断に多大なる重荷を背負う。
たまに、悩む。
これで良かったのかと…………。
だが、それを頼れる人は既にいない。
「木瀬さん……………俺は、今でも後悔してます。何であの時、あんたに付いて行かへんかったんかて………後悔してます」
コップを持つ指先が、微かに震える。
あの時。
『親父の付き添い?…………ほな、俺も行きます!木瀬さんっ』
『アホ、何言うとんな……………明日は、ガキの参観日やろ?親は、お前しかおらんのや。お前が顔出したらんで、どないすんねん…………要らん気ィ使う間には、ガキを見たらんかい』
厳つい顔に、僅かに緩む口元。
極道のイロハに厳しかった木瀬も、嵩原と大和の関係は大事にしてくれた。
自由などないのが当たり前の若手が、少しでも子供と時間を共に出来たのは、木瀬のこの好意のお陰。
木瀬の力あってこそ。
ただ、組はそんな悠長な時ではなかった。
『せやけど、最近組内も荒れてきてますし、何や妙な胸騒ぎがします』
『そら、ガキに嫌われるかもしれん胸騒ぎや。ちゃんと見てやれる時に見たらんと、ガキも親嫌いになるで』
『でも…………』
『…………心配すな。俺は大丈夫や』
丁度その頃多発していた、組の派閥同士のいがみ合い。
現組長と、跡目を狙う幹部達。
そして、木瀬が押した嵩原が若頭を掴んだ事で、そこに新しい風が吹き、また状況は大きく変わろうとしていた。
竜童会の歴史の中で、最も荒れた時期。
大丈夫や。
木瀬なりの優しさが、不安を遮る。
嵩原も、無下には出来なかった。
しかし、これが元気な木瀬を見た最後。
次に会った時は、組員に呼ばれ駆け付けた病院の中だった。
「………………二度と、あんな想いは御免や」
見つめる名に、竜童の心を学ぶ。
「あんたが守りたかったものは、俺が守り抜いてみせます………………誰にも、邪魔はさせません」
嵩原の世界には、何が見えるのか。
日本一の組織。
嵩原が組長になってから十数年。
昔のような跡目争いは全く起きてはいない。
そして、竜童会自体が不動の結束で結ばれている。
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