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男娼とヤクザ/シリーズ4(第3話)
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小さな部屋に男娼が二人。
街に立てば、たまに顔を合わす位の仲だった。
ああ、今夜もあいつは頑張ってる。
大した事は話さなくとも、そう思うだけで夜の厳しさに奮起出来た。
「肉まん………あったけぇ……」
涙を浮かべ、震える口で頬張る肉まんの美味しいこと…………。
昨日から何も食べていなかった大和は、シュウの持って来た肉まんを、ゆっくり味わうように食べた。
本当に、美味しい。
仕事をした後、一人でコンビニで買った肉まんは、ただお腹を満たすだけの食事。
明日も生きる為に仕方なく食べてる、一つの食料でしかなかった。
「ん………ホンマ、誰かと食べるんは美味いな」
それが、頬っぺたが落ちる程に味が変わる。
大和はシュウの言葉に唇を噛みしめながら、ただただ黙って頷いた。
たかが、肉まん一つ。
でも、今の大和には、最高の一品となった。
それから、大和はこれまでの出来事をシュウにした。
嵩原と出会った事。
ヤクザとわかっていながら恋に堕ちた事。
昨日、山代から聞いた母親の事から街を去ろうと思っている事まで…………全て、全て話した。
そして、まだ少し残っていた缶珈琲を両手で握り、気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと話す自分の言葉を、シュウも何も言わずに耳を傾けてくれた。
ヤクザに恋したなんて、きっと驚いているだろう。
自分の身の上もひた隠しにして過ごして来た、男娼生活。
蔑まれても仕方がない。
呆れられても仕方がない。
だが、もうこの街も終わりだと思ったら、どう見られても構わないと吹っ切れた自分がいた。
どうせ、ろくな人生なんて送れない。
元々そう考えていたのも確か。
嵩原を好きになって、ちょっと幸せかもって感じてしまったのが、しくじっただけ。
ええんや、もう……………。
しかし、大和の投げやりな想いとは裏腹に、シュウは意外な見方を言い放つ。
「それで……………嵩原さんには、もう話したん?」
「え……………」
「だって、大和が信じてもええ思うた人やろ?お前の気持ち、その人に話さんで誰に話すんや」
とても穏やかな微笑みが、大和の視界に飛び込だ。
そんなの言える訳がない。
大和は、まさかの返しに唖然とシュウを見た。
「いや…………せやけど、どないな顔して………」
「どないな顔て、そのまんまでええやん。そのまんまで、大和の顔は十分嵩原さんを想ってる……好きで好きで会いたいて、ボロボロの顔して言うてるよ」
「シュ…………」
ソッと髪へ触れて来る指先が、柔らかな声と共に閉じようとした想いを揺さぶる。
「ええ恋しとんやな、大和…………羨ましいわ」
羨ましい。
自分の恋が、羨ましい?
シュウの方が、ずっと羨ましいと思ってた。
自分の頭を優しく撫で、笑みを浮かべるシュウに、大和は思わずその胸へと顔を埋めた。
我慢してた。
我慢してたのに。
また、会いたいが溢れてしまう。
「シュウ…………っ」
「会いに行き………お前がそないに信頼してる人や。きっと、向き合うてくれる…………自分でも何処かでわかってるんやろ。嵩原さんは、そう言う人やて」
「ん…………っ……」
口数は少ないけれど、本当は優しい。
力強く抱きしめてくれる懐は、誰よりも温かい。
わかってる。
嵩原なら、ちゃんと聞いてくれるって。
「街を去るにしても、その後でええやないか………俺達はろくな人生送ってないけど、心まで捨ててない……誠心誠意話して、最後に人らしい事してき。それでもわからん人やったら、俺が文句の一つでも言うてやる。ヤクザがなんぼのもんや!俺達かて、身体張って生きとんねんっ!苦しいのは、あんたらだけやないってな」
辛い思いもした。
悲しい思いもした。
だけど、がむしゃらに生きてきた。
「……………なんて、お前に言うて自分に喝入れとんやけど」
はにかむシュウの美しさが、恋すら控えて来た自分達を映すよう。
誰だって、幸せになりたい。
それが簡単ではないって事は、自分達が一番よく知っている。
「ありがとう……………ありがとう、シュウ………」
所詮、娼夫。
抱きしめ合う二人に、未来は遠い。
人らしい事出来るだろうか。
もし、叶うならしてみたい。
人らしい人生を。
嵩原に会いたい。
嵩原に、会いたい。
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