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男娼とヤクザ/シリーズ4(第5話)
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「………………何があったんな」
電話に出ない大和を心配し、ついには会いに来てしまった嵩原の視線の先。
約20分程前。
丁度、大和の住むビル近くに車を停めると、偶々シュウと出て行くのが見えた。
随分綺麗な青年を連れてるものだから、一応気にならないと言えば嘘になる。
何やっとんねん、あのアホ……………。
ちょっとの苛立ちと、姿が見えたと言う安心感。
嵩原は、勢いよく車から降りると、そのまま大和を追っていた。
だが、いざ後を付けてはみたものの、時折シュウを見る為に横を向く大和の顔が、やけに憔悴しきっている事に目が止まる。
しばらく会えなかった数日間。
一体、何があったのか。
「気になる事あるんなら、言うてみ………生業上、大概の事には慣れとる。その辺の連中よりは、役に立つつもりやぞ」
結局、放っては置けなかった。
「………………嵩原」
そんな嵩原の言葉に、目を潤ませる娼夫。
会いたくて仕方がなかった男が、会いに来てくれた。
夢のようだった。
細い路地で、振り向いた瞬間に立っていた悦びは、しばらく離れられなかった身体が、それを物語る。
本当に、嬉しかった。
あまりに嬉しくて、周囲の目も憚らず嵩原の名を連呼した。
しかも、まだこんなにも、自分へ気遣った言葉を投げかけてくれてる。
勿体ない。
そんな事を言ってもらう資格は、今の自分にはないのに……………。
大和は嵩原を自分の部屋へと通しながら、話しかけてくれるその姿に、プルプルと唇を噛み締める。
散々泣いたのに、これでまた涙が涙腺を壊す。
どうしよう。
嫌われたくない…………。
「遠慮なんかすなよ……………そないな顔して、何もねぇとは言わせんからな」
「………………ん」
ん。
力ない返事。
嵩原の気持ちに上手く応えられない大和の心が、微かな音となって、静かな部屋に広がる。
言わなければと思えば思うほど、全身に駆け巡る緊張感。
どんな顔して言えばいいのか。
どんな言葉で謝ればいいのか。
怖くて怖くて、自分を見つめる嵩原へ目を向ける事が出来ない大和は、俯きながら小さなキッチンへと向かった。
「そ、そうや…………珈琲でも入れようか?てか、珈琲しかないんやけど…」
「大和…………っ」
苦笑いして誤魔化す大和に、業を煮やした嵩原の一喝。
ビクッと肩が揺れ、顔を上げようとした大和は、嵩原に手を掴まれる。
そして、自分の方へと身体を引き寄せる嵩原の力に、大和は思わずたじろいだ。
「た……………嵩…」
「何を怖れとんな……………俺じゃ、頼りねぇか?」
「そんなわけ…………っ…」
「だったら、話せ。俺は、お前を情夫(イロ)にした時から、それ以上の目で見てやる覚悟は出来とんや。俺を信じろ…………」
真っ赤に腫れた瞳。
やつれて見える頬。
大事にしてやりたいと思う男がこんな状態で、嵩原も内心穏やかではない。
俺を信じろ。
躊躇いもなく放たれた愛情と、真っ直ぐに注がれる視線が、大和の胸に突き刺さる。
「……………だ……って」
「だって?」
「だって…………」
かすれかすれに吐き出される声。
みるみる目には涙を浮かべ、嵩原を見上げた大和の頬には、その耐えかねた滴が一筋の線を描く。
ポロポロ、ポロポロ。
涙ながらに口を開く、大和なりの勇気。
「俺のおか…………俺の………おかん……」
「おかん……………?」
「嵩原の家………めちゃくちゃにしたて………嵩原のお母さんを、死なせてしもうたんや……て………やから…せやから、俺………っ…」
「は………………」
思いもしなかった答えに、一瞬嵩原は我が耳を疑った。
俺のおかん。
掴んだ手だけを残し、泣き崩れるように床へ落ちていく大和の悲痛な叫びが、それの疑いを現実に見せる。
俺のおかんが、嵩原のお母さんを…………。
……………どう言う事や。
何故、大和がそれを知っている?
あれはまだ、大和が幼い頃の話。
あえて黙っていた事実に怯える姿が、嵩原の視界を奪う。
「お前…………何で、それ……」
強張る表情に覗く、言い様のない疑問。
既に捨てた家庭の事を、大和が自ら調べるとは思えない。
「………………まさか」
もしかして、他人の手…………か?
だとしたら、どうする。
ジリジリと、音を立ててざわつく心の奥底。
「誰や………………」
低い声に映る、ヤクザの愛。
静寂な嵩原の目に、苛立ちの色が濃さを増す。
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