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男娼とヤクザ/シリーズ4(第20話)
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今日は、やけに風が冷たい。
今、自分は何処を歩いているのか。
ぼんやりと視界へ飛び込む雑踏が、グレーに染まる。
まるでモノクロ写真みたいに、世界から明るさがきえたよう。
ドンッ………………
「痛ぇなァ…………!」
「す、すみません…………っ」
これで何人目だ。
重い足取りがフラフラ身体を揺らし、通行人とぶつかる。
大和の足は、自宅へと向かっていた。
やっと、二人だけの時間が刻まれていくと信じていた、矢先。
大和が、嵩原を受け入れる事はなかった。
大切な弟の気持ちより、自分への愛を取ってくれた恋人を拒絶した報い。
『湊を一人にせんで』
そう言った大和に、嵩原が答えたのは一言。
『……………わかった』
たった一言。
それだけで、嵩原は大和を見る事もなく部屋を出て行った。
遠くで聞こえた、玄関扉の開く音。
その瞬間、身体中が嵩原を失う恐怖で震えた。
踏ん張って放ったつもりが、もう愛してもらえないんだと思うと、やはり耐え難いものがあった。
でも、それを選んだのは自分だ。
「後悔なんかしたらあかん………ええんや、これで」
道すがら何度も呟き、自らへ喝を入れる。
強がりじゃない。
強くなるんだ。
「後悔せえへん………後悔せえへ………」
ドッ……………!
「いっ…………」
そして、大和はまた人にぶつかる。
あと十数メートルで高橋のビル…………と言う、路地を曲がった途端の事。
いきなり現れた黒い大きな影が、行く手を阻んでた。
「ああ………悪りィな、ガキ」
ガキ…………!!
「ちょ………あんた……」
失礼な奴だな。
そう思った大和は、咄嗟に顔を上げて、絶句した。
「ひ……………」
「何や?謝ったんやから、ええやろうが…………ん?お前、確か…………」
ひ……………。
視界を遮る男の迫力たるや…………鋭い眼光と、顎髭を生やした厳つい顔。
嵩原もなかなか威圧感があるが、そんなもの比じゃなかった(大和曰く、嵩原は格好いいから)。
無意識に後退りする身体は恐怖におののき、みるみる色んな所から汗が吹き出る。
これは、ヤバい。
これは、ヤバい!
多分ヤクザだと思うけれど、その中でもシャレにならない部類にぶつかってしまったのではないか。
相手が自分を見て眉をひそめた事など、大和には目に入らない程違う動揺が全身を巡る。
下手打ったら、絶対に殺される。
コン◯リート詰めにされて、海へドボン…………。
「すっ、すみません!俺が余所見しとったんで、ぶつかってしまいましたっ………ホンマ、堪忍して下さい!」
とにかく、大和は謝った。
何はともあれ、許しを請おう。
「嵩原の情夫(イロ)やねぇか」
「はいっ、嵩原のイロ…………イ?は?」
だが、事は予想外な方向から広がりをみせる。
嵩原の情夫?
キョトンと大きな瞳を一段と丸くした大和に、ニヤリと笑う強面ヤクザ。
「俺は、上地……………嵩原と同じ組のモンや」
「へ………………」
上地。
それは、大和の知らない嵩原を知る男。
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