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ちょっとだけ、昔の話(嵩原、高橋編)
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今から、約2年前の話。
高橋が、嵩原の右腕を降りた。
理由は、大和の下へ付く為。
昔、まだ若かった嵩原が、高橋を助けた事は有名で、(皆、詳しい事は知らないが)誰もが高橋は、この先も嵩原に仕えると思っていた。
まだ使いモノにもならない、ガキの為に、恩人の親父を裏切った。
嵩原への崇拝が強い組内には、そんな流れが広まる。
「おい、高橋っ……………お前、どう言うつもりや」
竜童会本部。
多くの組員が出入りする、高い塀に囲まれた、大きな屋敷。
組員達の空気は、やたらとピリピリしていた。
2か月前、高橋は大和の側近となる。
そして、この2ヶ月間、高橋は組員達のやり玉に挙げられている。
その事が、本部内に嫌なムードを引き起こす。
「…………………竹下組長、何か用ですか?」
本部の廊下で引き止められ、高橋は平静な姿で振り返る。
視線の先には、古株の幹部。
竹下組組長が、自分の組員を数人引き連れて、顔を出していた。
「何かやないやろ?恩ある親父を裏切っといて…………まだ15のガキに付くやなんて、何考えとんや。お前には、プライドもないんか。親父を先に補佐すんが、筋やろ!ガキは、二の次三の次や!どうせ直ぐに、ヤクザの厳しさにヤられるわっ」
嵩原の子とは言え、ヤクザに足を踏み入れたばかりの大和に、高橋の様な有能な男が付くのは、異例。
嵩原の指示ではなく、高橋自らが動いた事が、組員達は気に入らなかった。
ヤクザの誇りもない。
親父は、息子やからって、特別扱いはしてへん。
高橋は、ガキにイカれたんや。
皆、好きな事を口々に吐き出した。
「大和さんは、そないな軽いお気持ちで、ヤクザの道に入っとりません。親父のお子を、甘う見んといて下さい。……………………竹下組長、私は何言われても構いません………………でも、大和さんの事やったら、例え相手が誰であろうと、容赦せえへんですよ」
「なに…………………っ」
それでも、高橋は負けなかった。
どんなに矛先が自分へ向こうと、大和の将来を見た感覚に間違いはない。
「私の、大事な主です。お言葉を慎み下さい」
揺るぎない姿勢で、たった一人、自ら針の筵となった。
それが、自分の気持ちを汲んでくれた、嵩原への詫びだと思ったからだ。
竜童会総会。
言わずと知れた、竜童会の中で、最も組幹部が集まる日。
この日、今まで嵩原の隣にいた高橋は、初めて出席しなかった。
まだまだ下っぱの大和には、ここへ顔を出す資格もない。
当然、大和に仕える高橋は、用なしである。
「…………………親父、最後に何かございますか?」
新しく右腕となった錦戸が、嵩原の方へ向き、意見を求める。
50畳以上はある広い部屋。
嵩原をトップに据え、ずらっと黒スーツの強面達が肩を並べる様は、息をも飲む迫力。
煙草を吸いながら、黙って多くの報告を聞いていた嵩原は、ゆっくりと煙を吐き出し、幹部達を一睨み。
「……………………話、言うほどのもんでもないけどもやな…………………最近、お前ら高橋に下らん事ごちゃごちゃ抜かしとんのか?」
ゴクリ………………………
会場は、一気に静まり返る。
嵩原の耳には入らないよう、質の悪い高橋いびり。
まさか、高橋がチクったのか?
その場にいた、どの幹部もそれが過った。
「言うとくけど、高橋は何も言うてへん。つまらん事、告げ口する様な男やない…………………のぉ、竹下……………………お前は、知らんか?」
嵩原は、つい先日高橋をいびっていた竹下に話を振る。
「い……………………いえ、何も…………………」
テーブルに肘をつき、煙草を加えた嵩原の問いかけに、竹下は顔を上げられなかった。
目を合わせたら、終わり。
嵩原の睨みに、全てを悟られると皆わかっていた。
「ふん…………………どいつもこいつも、俺の前では猫被んのやな………………………」
加えていた煙草を灰皿へ投げ、嵩原は立ち上がった。
「お前ら………………俺を想うてくれんのは、有り難い。それは、感謝するわ…………………でもな、高橋はお前らの中じゃ、一番言うた事を成し遂げてきた、有言実行の出来る男や。結果を誰よりも出してきた高橋を、お前らがごちゃごちゃ言う資格あんのか?」
組内の雰囲気が悪くなれば、嫌でも肌で感じる。
嵩原は嵩原で、何も言わず耐えていた高橋を気にかけていた。
「大和に関しては、前から言うように特別扱いはいらん。厳しゅう指導してくれたらええ………………せやけど、高橋は別やぞ。俺が許した事に文句ある奴は、俺に言うて来い!!俺の足下で、ちっさい真似すんなっ!ボケッ!!」
会場中に響き渡る、怒号。
普段、滅多に怒鳴らない嵩原の姿に、組長の名を持つ幹部達すら言葉が出なかった。
この日の事は、随分先になって、高橋の耳に入る。
勿論、これ以降、高橋をいびる人間もいなくなった。
そして、大和と高橋の血の滲む快進撃が始まる。
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