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刺青の意味
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スーツを犠牲にし、刺青を手に入れる。
残ったのは、何とも言葉にならない、モヤッと感。
ええ。
今度は、お父ちゃんが。
「俺…………………刺青の為に、売られたんやな」
うん、売られたよ。
お父ちゃんの香り。
お父ちゃん、ソファへもたれ、朝日で白くなり出した天井を見る。
何で、徹夜したんやろ………………………。
熱い夜が、妙な気分で終わりを遂げた。
「なぁ、親父ぃ…………………せやから、山代の刺青なんやけどな……………………」
しかも、我が子は、最早過去の事でケリがついているらしい。
頭の中は、オヤジのスーツより、刺青。
子供って………………………。
「親父、聞いとる?」
「………………………聞いてます」
いまだ、モヤッとしながら。
「山代の刺青やろ?………………………俺が、思う事言うたらええんやな?」
「うん、頼むわ……………………俺、ホンマにちゃんとわかってへんから、中々決められへんし」
勉強も、せめてこれ位したら、また違う世界を見れただろうな。
テーブルに刺青の本を開き、真剣な眼差しを向けてくる大和に、嵩原はようやく態勢を整える。
「………………………言うとくけど、俺のはインスピレーションやで」
インスピレーション。
簡単に言うが、それが天辺に立つ男は、普通ではない。
人より素晴らしかったりするから、人の気を惹く。
お父ちゃんのソレは、まさに天性のものなのだ。
「俺は、山代には『騎龍観音』が似合う思う」
『騎龍観音』
父親が何気に口にした名前に、大和の目は点になる。
『騎龍観音』
なに、ソレ。
「え……………………と、親父…………………」
「ああ…………………どっか載ってへんかな……………」
キョトン顔の大和を見て、嵩原は本を何冊かパラパラと捲った。
「これや、これ……………………まあ、画は彫り師によって変わるけどな…………………」
そう言って、父親が指差した画を見て、大和の頭はまたハテナ。
その本に描かれた、画。
雄々しい龍の上に乗る、美しい観音様。
美しい……………………山代?
そんな感じはしたが、意味がわからない。
大和の刺青は、父親に似せた龍。
それを跨ぐって、部下としてどうなんだろう?
「意味は、大体どれも似たような事書いてるか…………慈悲を持って救いの手を差し伸べる。慈悲を持って……………………ヤクザには似つかわしくない言葉やけど…………………」
騎龍観音の画の下に書かれた、説明書き。
嵩原はそれへ軽く目を通しながら、自分の言葉で大和に語りかける。
「佐々木を失のうて、自ら病を患うてた山代は、人の苦しみもようわかる……………………慈悲なんて言葉を使わんでも、自然とそれが出来る男やろうしな、山代は。……………………それに、龍を自在に操れる」
龍を。
龍、つまり……………………。
「親父……………………………」
「大和、お前はまだ若い。経験も浅いし、やっぱりガキな部分も、当たり前やけどある。今まではそれを、高橋が側におってくれたお陰で、道を迷う事がなかった。でもな、これからは高橋だけじゃ支えきれんかもしれん……………………それだけ、お前はデカい視野を持たなあかんようになる」
従える組員も増え、抱えるシマも大きくなって。
そんな時、高橋に代わる側近が居れば、選択を違えずに済む。
「高橋がおらん時に、お前の行く先を導く仲間が必要になんねん。それが、俺は山代やないかと思うてる。権力の象徴であり、強さや勇気を誇る龍を、象徴のままでおらしてくれる、舵取り………………騎龍観音は、そんなお前ら二人の未来の姿やと、俺には見えるな……………………」
だから、騎龍観音。
これは、山代だけの姿じゃない。
山代を自ら引っ張って来た大和と、二人の姿。
自分が本を見ながら散々悩んで来た事を、父親はアッサリ引き出した。
親父に相談を。
高橋の言葉に、やはり間違いはない。
大和は、父親の話に耳を傾け、自分にはない目に尊敬の念を抱く。
「格好良さや美しさだけで、画を探すんは容易い。ただ、ヤクザの刺青は、ガキが興味本意で入れてまうタトゥーであってはならんて、俺は感じとる。ま、タトゥーが悪い言う訳やないけど、やっぱりてめぇの身体に傷を刻むんや…………………間違いのない意味を、見付け出したいやないか」
頬を僅かに赤く染め、父親の話に集中する大和の髪を優しく撫で上げ、嵩原は父親の顔を見せる。
我が子の為なら、全てを惜しまない。
出せるものは、出してやろう。
スーツだって…………………。
何着でも持って行けや…………………そう叫んでやる。
「親父…………………俺、鼻から鱗……………」
「アホ…………………それを言うなら、目から鱗や。鼻から出してどないすんな。ただの鼻水で終わってまうわ…………………」
少々痛い息子だが。
それもまた、愛嬌。
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