アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
背中に咲く、華
-
美しい身体。
傷、一つない。
そこへ、絆を刻む。
愛する人との、消えない絆を。
「騎龍観音………………………」
山代は、大和の持って来た本を手に、感嘆の声を漏らす。
龍に乗った観音様。
なんて美しいのか。
若頭が、私にこれを……………………。
それだけで、心が震える。
「…………………………ごめん、親父の受け売りやけど」
申し訳なさそうに頭を下げ、大和は自分が選べなかった知識の浅さに謝罪した。
大切な刺青。
それを自分に一任してくれた、山代の気持ち。
応えられなかった自分が、ただただ情けない。
「若頭……………………」
本を渡した時、大和は正直にこれまでの過程を山代へ話した。
自分だけでは、何も出なかった事。
高橋に言われ、父親へ助言を求めた事。
サラリと語ったその助言が、あまりに良くて、自分の中で即決した事。
「でも…………………これが、一番ええ思うた。これからの俺達を見た時、一番ええって思うたんや」
一緒に、てっぺんへ。
何度、それを口にして来ただろう。
初めて自分が引っ張ろうと思った、男。
父親が言った、未来の二人。
ピッタリだ。
「はい……………………私も、そう思います」
「山代…………………………」
何回も見舞いに訪れた、山代の落ち着いた部屋。
ここに来る度に、今日の山代は元気だろうか?と、不安になりながら畳を踏んだものだ。
それが今、何とも美しい笑顔に変わってる。
自分を見つめる嬉しそうな山代の笑みが、心配していた大和の気持ちに光を入れる。
「と言いますか、そうでなくてはならないと思っています。何の不満もございません……………さすがです、嵩原組長……………………初めて挨拶をさせて頂いた時から、全く印象が落ちる事はない。とても素敵なものを選んで下さり、感謝ばかりです。本当に、ありがとうございました」
大和の座る前で両手を突き、山代は大和とその後ろに見える嵩原へ悦びを述べた。
「若頭の先を、見定められる者になれるよう、精一杯精進致します。どうか、騎龍観音を私の背中へ描かせて下さい」
若頭の龍と共に、生きる。
この上ない幸せが、山代の想いを一段と大きくさせる。
上品で、艶やかな山代の顔を伏せる姿は、大和の瞳に美しく焼き付く。
「……………………良かった……………………ホンマに、良かったわ……………………」
ホッとした様に溜め息をつき、大和は足を崩して天井を見上げた。
これで、山代が少しでも戸惑ったら、止めようと思っていた。
大事な背中。
微かな迷いも、刻みたくはなかったから。
「クス…………………すみません、無理なお願いをしてしまいまして…………………」
「もう……………………それやて。こんなん、二度とゴメンやわ」
「はい………………………若頭」
短い人生だが、一番頭を使った気がする。
軽く頬を膨らませる大和に、山代は満面の笑顔で応えた。
「ウチの組員達が贔屓にしている、腕のいい彫り師がいます。早速、その彫り師へ依頼をしたいと思います………………………若頭、仕上がったら、見て頂けますか?」
「え…………………………」
山代の背中を、見る?
一瞬、大和はドキッと心が揺れた。
山代の背中を見る。
何だろう………………………邪な想いはないが、邪な気分にさせられてる気がするのは。
「……………………いけません?」
「いや……………………いけん事は……」
僅かに顔を曇らせる山代に目を向けられ、大和は断る理由もない事に気付かされる。
男の身体。
意識する方が、怪しい。
「では、ぜひ……………………」
「あ……………………はい」
山代の色っぽい微笑みが、目に痛い。
あかん…………………どうも俺、山代に弱い……………。
だね。
この巧みな言い回しと、儚げな姿が、断固たる態度をかき消してしまう。
山代の、背中……………………か。
ええ、山代の美しい背中です。
「………………………親父に、よう言わんわ……………」
『……………………あ?』
そう言って、眉間にシワの寄る顔が、目に浮かぶ。
高橋だって……………………妬いていた。
「あかんあかんっ………………誰にも言えん……っ」
大和は身震いを起こし、首を横に振った。
「………………………若頭?」
罪な少年です、若頭。
大人の男達を、魅了して止まない。
「いや…………………俺、知らんしっ……………………」
何故だろう。
自分でもわからないから、戸惑ってる。
でも、良かったね。
山代、本当に嬉しそうだった。
やっと、本物になれるって、思えたんです。
長い暗闇を抜け、愛する人と同じ道に立てるって。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
86 / 241