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本編の裏で・・・(上地編)
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上地が、本編に出るまでまだ時間がかかるので、書いてみたくなりました。
冷酷上地。
これは、本編の裏話です。
「最近…………………親父、機嫌悪うないか?」
関西白洲会本部。
近頃、ここに出入りする組員達の『恐怖』。
ヤクザが、『恐怖』。
ふざけている様な話だが、ヤクザでも本気で恐いものがある。
例えば……………………。
「おい………………………何や、この報告は」
白洲会組長、上地丈一郎……………………とか。
「す、すみません…………………何か不備が?」
「………………………何か…………………?」
広く、格調高い洋室の一角。
イタリア製の高級ソファの前で、上地に呼ばれた組員達数人は、戦々恐々と整列する。
視界には、そのソファに座り、組員達の報告を目にする、上地組長様。
煙草を加え、僅かに煙で眉をひそめる姿もまた、恐い。
「お前……………この俺に、質問を質問で返すんか?」
この俺に。
ひっ………………………。
やっちまったぁぁぁぁ………………っ!!
組員一名、絶命。
自分を見上げる上地の眼差しに、組員はみるみる青ざめ、全身に脂汗をかく。
「あかん……………………関西に帰ってから、日に日に親父の機嫌が悪うなる」
「ええ。いつも以上に、空気が凍り付いとります」
上地と組員達のやり取りを後ろから見つめ、白洲会若頭篠原(注)と、上地の側近瀧沢は溜め息をつく。
(注:篠原……(多分ご記憶にないと思いますので)片山が若頭にならない為に、それを引き受けた男。片山に想いを寄せていた)
上地の機嫌。
白洲会にとって、死活問題である。
ただでさえ恐い男が、益々恐い。
どこに救いがある?
「なんが、あかんねん…………………瀧沢……………お前、原因わからんのか?」
篠原は、上地に付いて関東へ行った瀧沢に、その理由を聞く。
このままでは、身体と神経が持たない。
組員達がぶっ倒れるのも、時間の問題であろう。
「いや………………………何も、変わった事は……………」
瀧沢も、首を捻り考える。
別に、何もない筈。
片山とも、何だか以前よりは打ち解けた気がするし……(片山をライバル視する自分には、不満だが)。
たいして大きな事になる話は、何も………………。
「あ………………………」
「何や、思い当たる事見付かったか?」
「ん………まさかですが…………………強いて言えば……」
ブーッブーッブーッ………………………
瀧沢が、何かを思い出し、口にしようとした時。
上地がテーブルに置いていたスマホが、突然着信を知らせる。
「…………………………あ?」
チラッと、上地が視線を落とした先に映る、着信の名前。
『嵩原』
嵩原………………………。
上地は加えていた煙草を手に持ち直し、ゆっくりとスマホへ指を滑らせた。
「…………………………はい、どないしてん」
渋い声。
目の前には、今叱りつけていた組員達。
勿論、顔色一つ、変えません。
『もー、何やその恐い声ぇ……………また、組員叱っとったんかぁ?お前に叱られるやなんて、組員らが気の毒やぞォ』
出た早々の、この言い様。
「いきなりか、お前は」
いきなりです、お父ちゃん。
上地の恐怖、全く通じず。
ご機嫌ななめも、何のその。
『久々に口きくのに、つれないなー、上地。お?久し振りやなぁ~位、言えへんのかァ。関東では、よう呑んだ仲やでぇ』
いや、無理だろう。
相手は、上地。
あんたじゃないんだよ?
「うっさい、こっちは忙しいんや。何しに電話してきとんな、早よ用件を言えや」
そして、上地も相変わらずな冷たさで、嵩原の馴れ馴れしさを突っぱねる。
組員達が居るのに、優しさなんて見せられません。
ただ、その手は然り気無く、煙草の火を灰皿で押し潰す。
お父ちゃんとの話に集中したいって、合図です。
『近いうちに、そっち帰るから』
「………………………は」
そっち帰るから。
そっち。
当たり前だが、こっち。
………………………関西か。
「お前………………………」
ようガキと離れられたな……………………。
そう聞き返したかったが、周りの組員達が見ている手前、言葉を飲み込んだ。
上地なりに、お父ちゃんと大和を心配してるのだ。
不器用だけど、上地とは、そんな男。
『ま…………………そう言う事やから、関西で会おうや…………………話、あるんやろ?』
「ああ………………………まあな。ほな、また今度や」
『おう、とびきり美味いもん食わしてな♪』
「…………………………抜かせ」
言われんでも、とびきりなん食わしたるわ。
最後まで、上地の表情は緩む事なく、電話を切った。
でも、どこか気持ちは温まる。
ピ…………………………
「………………………お前ら、もうええわ」
「はい………………………?」
スマホを切った上地は、ソファから立ち上がり、組員達へ声をかけた。
もうええわ……………………?
もうええ?
何が、起きた!?
組員達は唖然として、上地へ目を向ける。
「二日やる…………………やり直して来い」
「はっ…………………はい!!」
何が何だかよくわからないが、命は救われた。
窓際へ歩き、新しい煙草を加える上地に深々と頭を下げると、組員達は足早に部屋を後にした。
言い換えるなら、上地の気分が変わらない前に、逃げた。
「……………………嵩原組長…………………」
「え……………………………?」
上地の変わりように驚きながら、篠原は瀧沢がポツリと呟いた事に耳を傾けた。
「まさかですよね………………竜童会は、ウチのライバルです。いくらよう呑んだりしとったからって、嵩原組長が原因やなんて………………ね」
「ぇえっ……………………何、その話……………っ」
中身の見えない男、上地。
組員達の妄想は、勝手に膨らむ。
「……………………嵩原……………帰って来るんか……………」
そんな妄想も、我関せず。
真っ青な青空を見上げ、上地は微かに目を細める。
白洲会七不思議。
この後、上地の恐怖は何故か和らいだ。
組員達は、ただただホッとしている。
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