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何かを自分で決めるなんてしたことがない
ましてや意思を持って何かを選ぶなんてことはしてはいけないことだ
そう教えられてきたのに、そうやって覚えてきたのに今彼はなぜか少年に選択を迫っている
”好きなものを選べ”
好きなものは見つけてはいけない少年に1つだけを選ばせるのは簡単なようで酷なことだ
彼がなぜそうするのかわからないし、どうしたらいいのかわからない
少年はずっと下を向いていた
選べないから彼が決めるまで待っている
そうしたらこの難しすぎる問題は彼によって答えは導かれて終わりになる
それが一番いいことだと思う
彼が選んだものは自分も好きだと思うから
下を向いたまま動かずに自分の手だけを見つめていた
いつの間にか彼は膝を折ってしゃがみ込み少年と目線の高さを合わせていた
じっと見つめられては逸らすことなど許されない
みるみる少年の目に不安の色が浮かんでいく
けれど彼は怒ることもなく、むしろ笑顔を見せながら握った少年の手に自分の手を重ねる
「選べない?そっか...わかんないもんね」
うんうん...となんだか一人で納得しているようだった
「じゃぁ、ぜーんぶ食べてみよ?」
そういって彼はまずお菓子の箱に手を伸ばした
それは丸いチョコレートの中にアーモンドが入っているお菓子でつまんで「あーん」というと少年は素直に口を開けた
丸くて甘くて少し硬い
初めて食べるアーモンドチョコを口の中で砕いて舌の上で転がして...なんとも言えない顔をしていた
「次はこっち、はい、あーんして?」
彼はそういいながら別の箱や袋を次々に開けていく
次から次へと口に放り込んで、少年は急いで口に入れられたものを飲み込んで次の一口のために口を開ける
急にいろいろなものを食べさせられて味わうどころではなかった
美味しいかと聞かれてもよく分らなかった
感覚ではなんとなくわかるのだけれど言葉にはできない
お菓子を一通り味見すると今度はおにぎりや菓子パンの袋が開いていく
彼は食べやすいようにちぎったりしながら次々に口に放り込んでいき、少年はそれについていけなくて咳こんでしまった
「ゲホ...ッゲホッ」
「わぁ...大変だ、じゃあこれ飲んで」
彼はキッチンからグラスを持ってきて何かをその中に注いだ
グラスにはオレンジ色の液体
グラスを少年の手に握らせるとおぼつかない手つきで落としそうになり彼がまた手を添えてくれた
それがオレンジジュースだということはもちろん知らなくて色のついた液体を覗いては彼の顔を見上げる
色のついた飲み物は苦い
具合が悪くなった時に飲んだ液体の薬は苦かったし、彼が良く飲んでいる真っ黒の飲み物も苦い
そもそもグラスから自分で飲むのはできない
零すからといわれていつも彼が飲ませてくれるから
「ほら..飲んでいいよ」
少年が考えていることが分かるみたいに彼は手を添えてグラスを傾ける
オレンジ色の液体がゆっくり口の中に流れてコクンと喉を鳴らした
甘い味が口の中に広がって少年は目を大きくして驚いていた
「あはは、美味しい?もっと飲む?」
少年の明らかに変わった顔を見て彼は嬉しそうにグラスを傾けた
少年は思わず口を開けて、それから思いだしたようにギュッと唇を結んだ
「ユウ...飲んでいいんだよ」
彼がそういうと少年は目をきょときょとさせて唇をグラスによせていく
グラスは傾けられ中身はあっという間に少年の喉奥に流れて消えた
全部飲み終えた少年が思わずはぁ...とため息をついてしまったのを彼はクスクス笑った
甘い雫のついた唇を指でなぞって、その指は彼の口の中へと消えていった
「ユウはオレンジジュースが好きなんだね」
彼は目を細めて、また別の何かを食べさせようと袋を開けていく
楽しそうなはしゃいでるような彼の姿
結局選ぶことはできなくてそのうち彼が適当に選んだ菓子パンを分けてもらった
彼の膝に乗せられて1つのパンを一緒に食べて、彼はずっと笑ってて、、
ふと隣を見たら自分たちの事を見ながらあの人も笑っていてなんだかすごく不思議だった
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