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バイトを終えて、椿が家に帰ったのは9時半を過ぎた頃だった。
一人暮らしをしているのは学校の近くの安いアパートの一室。
南の窓からさんざん日を浴びたせいか、とてつもなく暑くなっている部屋。
クーラーの電源をつけながら椿はズボンのポケットに入れた。
手に当たるスマホ。
ここまで忘れていたように振舞っていたが、椿は1秒たりとも忘れていなかった。
言ってしまえばバイトを頑張る御褒美にまで設定して、「帰ったらあれが待ってる!」という程に期待していた。
どんどん涼しくなっていく部屋の中心に座った椿は携帯のディスプレイの明かりをつけた。
LINEの通知がいくつかある。
バイトが始まる前、終わった後、通知は確認していたが智からの連絡はなかった。
9時まで仕事と言っていたから、連絡する暇なんて無かったんだろう。
椿はドキドキしながらLINEを開いた。
「裕人……と、ニュースと……」
上から辿っていく。
また無いのか、と思った時だった。
一番下にある、①というマークの左にあるアイコン、名前。
土井さんからメッセージ来てる!
『お疲れ様。今何してる?』
短文だけど、きゅんとしてしまう心臓。
椿はその欄をタップすることができないまま、頭がクラクラとするのを感じた。
なんとも無い相手にこんな事言われても「てめぇに言うことなんてねぇよ、バァカ!!」ってなるのに、どうして土井さんだとこんなに嬉しいんだろう。
『今何してる?』ってこっちの状況を知りたいみたいな……こっちのことを気遣ってるみたいな台詞……。
はぁ、返さないと。
「えーーー!もう!どうやって返そう!」
大声を出しながら横になる。
するとゴチっと音が響いて、狭い部屋の壁に頭をぶつけてしまった。
いたい。
ついでに隣からも大きな音が返ってくる。
ぶつけただけなのにそんなに怒らなくても……。
しかしその痛みと出来事で冷静になったのか、椿はディスプレイを覗き込むとすぐに智の欄をタップした。
バイトが終わって帰ってきた?
でもそれだったら忙しいって思っちゃうよな?
バイトって情報はいらないか。
「家で寛いでたところです。」
悩みに悩んで打ったのはこれだけ。
送信のボタンを押して、しばらく画面を見ていると30秒後ぐらいに既読の印がついた。
『そっか。電話する?』
そして軽快な音とともに新しいメッセージが表示された。
たったの9文字。
それなのにこんなに心を動かされるのはおかしい。
する!する!
となっている心。
そんな速攻掛けたら引かれるかななんて思ってそんな返事はできない。
なんて返そう。
なんて返せばいいんだ。
悩んでいれば次のメッセージが来た。
『僕から掛けようか?』
なんだこの人!
エスパーかよ!
かっこよすぎかよ!
なんなの?!もう惚れるしかないじゃん!
惚れてるけど!
『掛けるね』
「え!え?!もう掛けるの?!ちょっと待って心の準備!!」
1人だというのに大声を上げてワタワタする椿。
そんな椿をよそに、間もなく画面が変わる。
椿はスマホを投げそうになりながらも、通話ボタンをスライドするとスマホを耳に当てた。
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