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持っていたタオルで拭けば、コップ一杯の水ぐらい簡単に拭き取れてしまう。
それも計算のような気がしてきて椿は舌打ちをするとバックヤードから出た。
するとすぐに店長と目が合った。
「大丈夫……?」
「すいません」
「いやいや、大丈夫だよ。ごめんね、分かってたんだけどフォローに入ったら煽ることになるかもしれないと思って……。」
「あ、……いや。」
「いつでも僕が一緒にいられるわけじゃないだろう?……椿くん仕事もできるし、いい子だし。いつも助かってるから、ね。」
「……ありがとうございます。」
優しくされると涙が出そうになる。
温かい言葉に胸がじいんと温かくなった。
椿は唇を噛むと涙が出ないように目を大きく開いてから瞬きを繰り返す。
気にしてないと言えば嘘になる。
あんなことされて、少しも傷ついてない。
そんなはずはない。
だって自分でなければあんなふうに言われることは多分なかったのだから。
オメガだから。
ただそれだけであんな風に憎まれる。
憎んだことがないといえば嘘になってしまう。
自分のこの性別を。
生まれながらにして不利。
しかも、確率の低いこと。
どうして自分がって。
こんな不平等なスタートラインからスタートしているにも関わらず、他人は自分たちをまだ下にしようとする。
努力ではどうにもならないと能力の差をみせつけられて。
さらにそれだけじゃなく侮蔑までされて、生きてることさえも否定されるようなことも多々ある。
不幸だ、そう思いたくなくても思ってしまうことがある。
どうして自分ばかりこんな目に遭うんだろう。
周りを見たらもっと楽に生きている人はいるのに。
もしアルファだったら、アルファじゃなくてもいい、ベータだったら。
「ダメだキリがない。」
店長だって励ましてくれた。
ここには自分のことを普通の人間として扱ってくれる人もいるんだ。
椿は気持ちを切り替えるように頬を軽く叩くと、笑顔を作りながら接客に当たった。
そう、自分がオメガに生まれた理由はきっと、こんな苦労をしてでこそ掴める幸せがあるから。
「お疲れ様椿くん」
「あ、お疲れ様です。」
「遅くまでありがとうね。」
時刻は午前3時。
遅れてきたにも関わらずいつも通りに帰りたいと言ってまたごねられたら困ると思い、今日は頑張って遅くまでいた。
まぁ、深夜にファミレスに来る人なんてたかが知れてる。
客が少ない中ですごく時間は苦痛以外の何者でもなかった。
今日は本当についてない。
裕人に話を聞いてもらおう。
そしたら裕人は励ましてくれるはず。
椿はバックヤードで服を着替えると携帯を見た。
そして裕人から来ていた『ごめん』という文字が目に入る。
あー、そういえば喧嘩してたんだっけ……。
嫌なことがあったら裕人に愚痴る。
それが習慣になっていた椿は突然ストレスを感じてため息を吐いた。
裕人は家族みたいな大事な存在。
分かっていたことだけれども、それを思い知らされて椿は昼のことを思い出していた。
オメガではなかったら、こんなに簡単に言葉一つで友情が破綻するなんて、そんなことは無かったのだろうか。
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