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ただ普通に生きていたい。
それだけなのに、それがとても難しい。
普通のことなはずなのに。
椿は友達が裕人しか居ないせいで、暇な時間の潰し方が分からない。
あれから裕人は話したそうにしていたが全部無視していた。
目さえ全く合わせずに学校を出れば、そのままバイトに行って。
いつも通りバイトが終われば真っ暗な部屋に戻ってくる。
やることがない椿はテレビをつけると、服を脱ぎながら手持ち無沙汰に携帯を見た。
ラインを開けば否応なしに裕人を思い出すことになる。
わけもなくネットを開いて、『あ』と入力して検索をかけてはタブを閉じる。
思わず携帯をベッドに投げようとした時だった。
「わ?!」
携帯の画面をぼうっと見ていると、携帯が震え出す。
着信画面なことに気づいて慌てて受話ボタンを反射的に押してしまった椿。
誰から着信か見てなかったけど裕人だったらどうしよう。
「もしもし……」
恐る恐る通話に出ると聞こえた声は聞き覚えのある声。
「あ、椿くん。」
椿に電話を掛けたのは智だった。
「あ!土井さん!どうしたんですか?」
暗かった気持ちが一気に明るくなって、その声に胸があったかくなった。
「忙しかった?今平気?」
「あっいえ、大丈夫です!」
「そっか、いや、返事なかったからどうしたのかなって思って電話掛けちゃった」
「あー……」
そういえば返事してなかったな。
裕人の事ばかりでそれ以外の事が頭に入って来なかったのを思い出して、椿はバツが悪そうに頭をかいた。
うまい言い訳も出てこない。
「いや、気にしないで。ここの所いつも連絡取ってたからさ、気になって電話しちゃっただけ。体調壊してない?」
「あ、それは全然大丈夫です。」
「そう、良かった。ごめんね、心配しすぎたかも。」
「いえ……嬉しいです。」
あったかい。
こんな風に優しく接してくれる智も、自分がオメガだと分かると軽蔑するのだろうか。
ふとそんな考えが過ぎった椿の声はワントーン低くなってしまう。
「どうしたの?なんかあった?」
それを察したのか、智は伺うような優しい声を出す。
低くて温かい声が耳を刺激して、鼻の奥が少し痛んだ。
「……言うほどの事じゃないんです。」
「そう……僕でよければ聞くよ。話したくないなら無理に話さなくていい……けど。」
「土井さんは、優しいですね」
「そうかな。普通だよ」
「……優しいです。」
優しいです。
口の中でそう反芻しながら椿は考えていた。
話そうか、話さまいか。
椿の頭の中はぐるぐると回る。
智に自分がオメガだと知られてしまうのが怖い。
けど聞いてほしい。
椿は携帯を握り締めると息を震わせた。
「椿くん?」
「……はい。」
「今から暇かな」
「えっ?」
「話そうか。今から行くよ」
「そ、んな、」
「ちょっと待っててよ。」
何も言う間もないままぷつりと切れてしまった。
呆気に取られたまま椿が
画面を見ればそこには通話終了と書いてある画面が
示されていた。
「え、え?」
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