アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
74
-
椿は混乱した頭のまま目の前の店に入った。
暑いのと混乱しているので、自分でもよく理解できない行動をしている自覚があった。
「……ヒロくん……?」
ヒロくんってキャラじゃなくないか?
ヤンキーのような見た目。
柄の悪そうな感じ。
かわいい……って程じゃないけどそんなあだ名で呼ばれるような男には見えない。
ていうか、あのふたりどんな関係だよ。
椿はカウンターでメニュー表を見上げた。
そしてココアを頼むと、それを持って席に向かった。
「いてっ」
飲み物を置いて座ろうとした瞬間、後ろからドンッと何かにぶつかられた。
バランスを崩した椿が前のめりに倒れ込む。
慌てて机に手をついてバランスを整えた。
危ない、倒す所だった。
誰だよ、周り見ずに歩いてる奴は。
椿は怒り任せに振り返る。
何かをいうまで気は強くないが睨んでやろう。
そう思っていたところだった。
「ごめん椿くん」
「えっ……あっ?」
椿にぶつかった人物は智だった。
「大丈夫?火傷してない?」
なにこれ。
なんの偶然?
ていうかなんでこんな所に?
「だ、大丈夫です。冷たいの頼んでたんで」
「……っふ、そっか。」
久しぶりに見た顔は相変わらず端正で、二つの黒い瞳には自分が写っている。
スーツを着た智からは微かにタバコの匂いがして、不覚にも椿の心臓は高鳴った。
どうしよう、何を言おう。
心の準備をしていなかったせいで、何も言えない。
こんなところで会うなんて。
ドクッドクッと心臓が大きく鳴って、体が熱くなる。
しかし二人の間に流れるのは沈黙だけ。
智はしばらく椿を見つめると、腕時計に目を落とした。
「ごめんね、僕仕事なんだ」
「あっ、はい。」
「じゃあ。」
声をかけることも追うこともできない智の背中。
椿は呆然とその背中を見えなくなるまで見つめると、扉を出ていくのを見届けてから席に座った。
放心したまましばらく大きな窓から見える通行人を見ていた。
智と会えた余韻がまだ残っていてふわふわとしている。
かっこいい顔。
がっしりした体。
時々香る大人っぽい匂い。
人当たり良さそうな笑顔。
獰猛に変わる目も、いたずらっぽく変わる顔も、時々びっくりするぐらい子供っぽくなるところも。
モノローグのように椿の頭には智と一緒にいた時間が再生された。
温度、感触、全てが蘇ってより恋しくなった。
やっぱり、自分は智が好きだ。
やっぱり、離れられない。
運命の人なんだ。
そう再確認した椿は携帯を取り出した。
「会ってもらえませんか。」
そう打ち込んで送信するとすぐに画面を消灯した。
今はなにもかもどうだっていい。
ただ、会いたい。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
74 / 131