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『やめて!やめてってば!いや!!』
目の前の女を押さえつけて服を脱がしているのは自分。
やめたい、やめたいのに体の自由が奪われたように勝手に体が動いていく。
細くて少し乱暴にしたら折れてしまいそうな体。
自分の力で簡単に好きにできてしまう体。
悲鳴をあげながら必死に抵抗している目の前の女。
その様子はとても必死その物なのに、その抵抗はじぶんにとって痛くも痒くもないもの。
この抵抗がもっと自分を止めるものであったら良かったのに。
もっと自分の体を引き止めてくれるものであったらいいのに。
頭の中ではもっと抵抗してくれ、そう思うのに実際の自分はそれを押さえつけて無きものにしてしまう。
『やめてぇ……っいや、いや……っ』
昨日まで仲良く話をしていたのに。
笑顔で話せていたのに。
目の前の女は泣きじゃくりながら首を振っている。
この女の恋人を自分は知っている。
どれだけ愛し合っていたのか知っている。
いつも見守っていたというのに。
この女の恋人は自分の友達で、よく三人で遊んでいた。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
どうして、どうして。
女の身体を暴いて意志とは反して興奮を見せる昂りを捩じ込むと、女が絶叫のような悲鳴をあげる。
やめてくれ、やめたい。
おわれ、おわれ、はやく。
無我夢中で動く体を止めることが出来ない。
疼く歯を項に突き立てることをやめることが出来なかった。
当事者のくせにどこか傍観者のような感覚でそれを見ている。
自分のくせに全く感覚がない。
気がつけば項に血をにじませ、ぐったりとした様子の女は虚ろな目をして転がっていた。
やっと体の自由が利くようになったと、思えばもう取り返しのつかない状況に陥っていた。
いつもの、夢だ。
そこでこれが夢だと確信した智は無理やり意識を覚醒させた。
パチリと目を開ければそこは見慣れない天井がある。
辺りは朝日ですっかり明るくなっていた。
「智さん?」
「……おはよう」
若干の吐き気を覚えながら智は体を起こした。
となりで寝ていた椿が、怪訝な顔をしながら智の顔を見つめている。
「凄い魘されてましたけど大丈夫ですか?」
「うん、ちょっとね……仕事の書類に追いかけられる夢見てた。」
夢の内容を言うわけにはいかない智はその場の嘘で取り繕った。
夢、と言っても自分が経験したこと。
もし椿がこれを知ったらどうなるんだろうか。
軽蔑されるだろうか。
またあの日のように拒絶されるのだろうか。
きっと軽蔑の度合いが違うのだろう。
きっと自分のことなんてもう顔も見たくないと思うのだろう。
智はこの事実が椿に知られることが恐怖でしかない。
だから踏み込めない、踏み込ませない。
「夢の中でも仕事……。」
椿が同情するような顔をしているのを見て、智は笑いながら椿の頭を撫でた。
アルファでなければよかった。
そう思ったのはあの日からだった。
思い出したくもない過去だが、忘れてはいけない過去。
智はオメガの女の発情期にあてられ、番を結んでしまったことがある。
智はオメガのフェロモンにあてられやすいのだろう。
頭と体がどんどん離れていく感覚を思い出した智は身震いをした。
女はアフターピルで妊娠こそ免れたが、智以外の男と性行為に及ぶとショックで発作を起こすようになってしまった。
彼女は恋人もいて、二人は愛し合っていた。
それなのにそんなふたりの人生をめちゃくちゃにしてしまった。
智はいつしかオメガに恐怖を抱くようになっていた。
自分を翻弄するオメガ。
自身のコントロールを奪う存在。
できれば関わりたくなかった。
関わることもないと思っていた。
「智さん?」
「ん?なに?」
「いえ、元気ないように見えたので。」
「元気だよ。」
その恐怖は今でも薄らぎはしたが残っている。
もうオメガに関わることはないだろう、そう思っていたのに。
寝癖のついた頭で微笑んだ椿を見て、智の胸がきゅうと締め付けられた。
こんな自分の子供のような年齢の男の子に、こんな年になって恋をしてしまった。
恋をすることを諦めていた人生。
恋など知らずに死ぬのだと思っていた。
それなのにこんな年になってこんな経験をするとは、人生何があるかわからない。
この子を自分のものにしてしまいたい、その思いは溢れんばかり。
したいようにしてしまえばきっと楽なのだろう。
しかし自分が全てを投げ出してしまえば、きっと取り返しのつかないことになってしまうのだろう。
あの過去のように。
『これ以上近づくな。』
そう、早く離れるべきだ。
そう分かっているのにもう少し、もう少しとずるずると期間を伸ばしてしまう。
矛盾する理性と本能。
一貫性を保つことなんて最初からできていなかった。
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