アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
85
-
智が出ていくのを見送った椿。
行ってらっしゃいなんて夫婦みたいなことをして暫く浮かれていたが、智にとっては日常なのかもしれないと冷静を取り戻した。
そんな椿はそのまま学校に行くと裕人と落ち合った。
時計の針が12時を半分過ぎようかという時間だ。
珍しく学食で昼食をとることにした椿と裕人。
しかしあまりの人の多さにはぐれてしまって、先に席に着いた椿は携帯を見て裕人を待っていた。
あまりにも人の多い学食。
気配で振り向こうものなら振り向きっぱなしになってしまうため、椿は何も構わず携帯に集中していた。
「お、蒼野くーん。先日はどーも。」
ハイトーンな声。
声自体が高いというよりもテンションが高いせいでそう聞こえるのだろう。
確かに呼ばれた自分の名前に椿は頭をあげる。
するとそこには先日会った男が立っていた。
あの、ヒロくん……、と一緒に居た。
名前が思い出せない椿は目を泳がせた。
「えっと……」
「あっれ?名前忘れちゃったのー?酷いなぁ篠原だよー。」
「あっごめん。」
そう、篠原。
下の名前は知らないんだけど。
高い背にくるくるとウェーブした髪の毛。
赤茶色の色が、くりっとした目によく似合っている。
篠原は手におぼんを乗せている。
「ここ、いい?」なんて言うから椿は頷いた。
「いーのいーの。昼飯?」
「うん。」
「あれ?裕人は?」
「裕人ならすぐ来ると思う。裕人に用?」
対面に座る篠原の持ってきた料理をのぞきこめば、トンカツ定食が乗っていた。
トンカツ定食にちゃんとサラダを添えているのを見て何となくちゃんとしてるなと思ってしまう。
椿はそれから目を離して裕人がどこにいるのか探した。
「んーん、蒼野くんと話したくて――……。」
「椿、どこにいんのかわかんなかった。」
「っ!!」
「驚きすぎな。」
バッと目の前に現れた裕人に椿がビクンっと跳ねた。
その様子に裕人は笑いながらもすぐに椿と一緒にいる人物に目を移した。
「あれ、誰かと思ったら亮じゃん。なにしてんの」
「おー、よーっす裕人。ちょっとねー親睦深めようと思って」
当然の様に椿の横に座る裕人。
全くためらわないところに椿は目を見開きながらも少しだけ端に寄った。
篠原の下の名前は亮と言うらしい。
親しげに話す2人は前からの知り合いのようだ。
椿は手を合わすとスプーンを取って目の前のカレーに手を伸ばした。
すると裕人が何も言わずに2つとってきていたサラダを一つ椿に押し付ける。
椿はまたも目を見開いた。
抗議しようにも二人の会話は入るまもなく続くせいでできない。
「なになに急にきっしょ。俺と?」
「違う裕人じゃない。裕人とは十分仲いいじやん。蒼野くんと!」
「なに?椿と仲良くなったの?」
「仲良くっていうか、今からって感じ?」
「変な事考えてねえだろうな」
変なことってなんだよ。
変な事考えてんのはお前だよ。
なんて思いながら口をあけてカレーを口に運ぶ。
すると椿の目が篠原と合ってにこりと微笑まれた。
椿は居心地悪そうに苦笑いを返す。
「彼氏セコムー?束縛しすぎる男は嫌われるよー?」
「……彼氏じゃねーよ」
「あれ?違うの、てっきり。そう言えば蒼野くんも違うって言ってたっけ?あ、蒼野くん俺も下の名前で呼んでいい?」
黙々とカレーを食べ進めていた椿に突然声をかける篠原。
そのせいで椿は米を数粒喉につまらせると噎せた。
「えっんぐっ、!っごほ、……うん……」
「やった、ありがとう!つばきゅん!」
「?!」
予想外のあだ名に椿は口に含んでいた水を吐き出しそうになるのを何とかこらえた。
「つばきゅんて」
「かわいくない?」
「……かわいくなくていいよ……」
19歳の男に可愛さなんて求めないでよ。
なんて思う椿だが、ニコニコ笑っている篠原はそれは察してくれそうにない。
「やめろよ、蒼野って呼んどけよ」
「なんでよーいいじゃん!」
「俺がムカつくから」
「ちょっと何言ってんの裕人」
俺に友達できる機会を奪わないでほしい。
と言ってもこのよく喋る男と仲良くできそうな気は割としないけど。
こんなに喋って疲れないのかな。
「だーいじょーぶだーいじょーぶ。これでも俺、めっちゃ好きな彼氏いるから!」
「は?彼氏?」
またカレーにスプーンを伸ばした椿だったが、篠原の言葉に手を止める。
裕人の言葉と同じリアクションを取りながら顔を上げた。
ぼんやりと思い出すのは篠原と街中で会った時のことだった。
「そう!だから裕人とつばきゅんもそうなんだーって思ってたんだけど、ちがうの?」
「ちょっとまって俺知らねーんだけど」
「え?!聞いちゃう?!聞きたい?!もうそれはそれは超茨道の俺とヒロくんのラブロマンス!」
「ヒロくん?お前……っちょ、佐々木先輩?!…………まじかお前……」
ヒロくんって、あの人だよな。
なんて思っていれば裕人の口から出てくるその人の苗字。
椿は思わず「あっ」と声を上げた。
そうだ、佐々木!佐々木弘だ!
名前を思い出した!
「そーなんです!ちなみに付き合ってもうすぐ1年なんだー!」
「……へぇ……。」
嬉しそうにいう篠原。
それをなんとも言えない顔で見ている裕人。
なんで裕人が佐々木を知っているのかという疑問以前に、世の中には物好きがいるんだなぁと思う椿だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
85 / 131