アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
91
-
朝食を食べ終わり、支度を済ませた2人は家を出発した。
近くということで徒歩を提案した椿だが、思ったより少し遠いらしい。
夏の装いでは肌寒さを感じる気温だが、歩いているとちょうど良くなってきた。
「ちょっとまだ暑いですね」
「そうだねぇ、ちょっと暑いね。でもこの服だと丁度いいくらいかな」
智は七分袖のシャツを椿に見せながら言った。
椿はと言うと半袖のTシャツにパーカーを羽織っている。
汗ばみそうな体感温度に胸もとをぱたぱたとさせた。
「厚着してきすぎたかな」
「いつ帰るかわからないけど日が沈むにつれ気温が下がるしその位でもいいかもね。上着、持っとこうか?」
「いいですよそんなの」
「遠慮しないで」
「してないです!」
「あはは、意地っ張りだなぁ」
パーカーの前を合わせながらズンズンと歩いていく椿。
だんだんと自転車や歩行者が増えていっている。
既に頭上に広がる木々は葉の色を変えている。
風が吹く度にかさかさと音を立てて、今にも葉が落ちそうだ。
坂を登り終えたぐらいだろうか。
前方に人が溜まっているのが見えた。
二人はそこに進んでいく。
すると石畳と柵で構えられた立派な公園の入口にたどり着いた。
「ここが椿くんが言ってた公園?」
「そうです。」
「へぇ、おっきいね」
二人が立っている入口から見えるものはごく一部。
並木道になっているが、この公園には遊ぶ広場もあるしアスレチックや体育館、ちょっとしたグラウンドなども構えられていてかなり大規模だ。
「そうなんです。遠くからくる人も結構いるんですよ。目に見える場所だけじゃなくてもっと奥にも沢山あるんです。行きましょう」
「結構歩く?既に結構歩いたよね」
歩き始めようとする椿とは対象に、歩きたくなさそうにする智。
たしかに既に2人は40分ほど歩いていた。
「なんですか?もう音をあげるんですか?おじさん?」
「やめてよーー。」
歩き出した智の隣に並ぶ椿。
みんな考えることは同じなのだろう。
家族連れやカップル。
休日ということもあり結構人がいる。
椿は石畳の並木道を抜けると階段を上って、山道のようなところの方に進んだ。
道路は舗装されていないが、ここの木が生い茂りちょっとした森のようになっていてとても綺麗なのだ。
「ここ結構足場悪いので気をつけてくださいね」
湿った土と地上まで張り巡っている根のせいで、足場がかなり悪い。
下手したら転けてしまう。
おまけに道も狭い。
分かっているだろうが一応警告をした椿は智の後ろをついて歩く。
「すごいね、まだ落ちてきてないから上を見るとすごく綺麗だ」
「ほんとですね。」
智が見上げるのに合わせて椿も上を見上げる。
黄色や赤。
まだ色が変わっていない緑もある。
秋独特の色合いに椿は息を吸いこんだ。
植物が沢山ある場所に来るとどうしても感じてしまう空気の綺麗さ。
それが本当かはわからないが胸いっぱいに吸いこんだ。
「っうわ?!」
椿が紅葉を満喫している時だった。
不意に前から智の声が聞こえ、椿は慌てて前に目を戻した。
そしていつの間にか空いていた距離を詰めると智をのぞき込んだ。
「大丈夫ですか?!ほら、足場悪いって……」
しかし智の前には蹲った小さな少年がいた。
「だ、大丈夫?ボク?」
智が慌てて屈んで少年に声をかける。
ぶつかったのだろう。
椿は立ったまま様子を伺うことにした。
「うっうわーーーーーーん!!!!」
しかしその男の子は大声を出して泣き出してしまった。
どこか痛いのだろうか。
智の手が空を彷徨う。
その様子を見て椿は彼に手を伸ばして、脇に手を差し込むと体を起こさせた。
「ちょっと智さん何泣かせてるんですかもう!」
「ちっちゃくて見えなかった……」
「……上ばかり見てるから……。どうしたの、僕。どこか打った?」
大きな声で泣きじゃくる子供。
椿は頭を撫でると顔をのぞき込んだ。
「痛かったなー。ごめんな?どこも怪我してないかー?」
びーびーと泣いている子供。
椿はその体を一通り見て怪我してないことを確認すると、抱き上げた。
そして背中をトントンと叩きながらあやす。
年齢はおよそ3歳から4歳ぐらいだろうか。
「はぐれたのかな。君、お母さんは?」
やっと泣き止んできた子供は椿の問いかけに首を振る。
その一連の流れを見ていた智はううん、と唸り声を出した。
「……まずいな。でもきっと近くで探してるはず」
「俺達はあまり動かない方がいいかも。よしよし、大丈夫だからね。お母さんすぐ来てくれるよ」
こくこくと頷く椿の腕の中の少年。
椿は聞き分けのいい子で良かったと頭を撫でながら智を見た。
しかし智は少しだけ納得いかないような顔をして椿を見ていた。
「どうしたんです?」
「いや、椿くんってお兄ちゃんなのかなって」
「え?」
「いや、弟の面倒とか見てたのかなぁって……。なんだか扱い慣れてない?」
不思議そうな顔をする智。
椿は腕の中の子供を撫でながら首を振った。
「……違いますよ。子供好きなんです。」
「へぇ……そっかぁ」
子供を見ながら、椿はいつも自分に子供が出来たらどうやって可愛がろうかと考えていた。
親戚は少なかったから、小さい子供の面倒を見るということはすくなかったのだが、近所の子供などの面倒はよく見ていた。
幸い椿も子供に好かれるようで、よく遊んでやることがあった。
「俺子供すごい欲しくて。俺も可愛がってもらったから自分の子供もすごい可愛がってやりたいんです。きっと大変だろうけどすごく幸せなんだろうなぁ」
椿はまだ見ぬ自身の子供の姿を夢見ると、柔らかく微笑んだ。
きっと目の前のこの男の子のように、自分の子供もまたすごく可愛いのだろう。
そう思っていれば、智の手が椿の頭に優しく触れた。
椿は智を見上げる。
「そうだね、きっと椿くんの子供はとても可愛いんだろうな……。椿くんならきっと素敵な相手も見つけられる。いいお母さんになれるよ。」
優しい顔でそう言った智に、椿は目を見開いた。
智は相変わらず微笑んだまま。
終いには、椿がしているリアクションに合点がいかないとでもいうように首を傾げる。
「そう、ですね。」
あくまでも自分はその相手ではない。
そんな言い方をする智。
また振られてしまった椿は腕に抱きかかえている子供をにこめる力を少し強くした。
俺は智さん以外との子供なんて欲しくないのに。
唇を強く噛むと、椿の唇には薄く血が滲んだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
91 / 131